―僕と喧嘩と先生の― ...side-大石 蓮司
...side-大石 蓮司
一体何が起きている?
一方的になじるはずの雑魚が何かを叫んだ途端に動き出し、追い詰めているはずなのにその素振りも見せず、振り下ろすバットや横なぎの鉄パイプの避け、適格に同士討ちを誘いながら立ち回っている。
そして何かわからない謎の破裂音が鳴らして、次々と手下を倒していく。
おかしい。どういうことだ?
最初の計画。岩谷をフクロにして箔を取り戻す。そのはずの計画が狂っていく。
最初、連れてくるかどうか不安だったが、西澤と岩谷の姿を見て安心した。
西澤はうまく岩谷を呼び出した。
屈辱を晴らすために、ファンも呼び、手下を集めて武器の準備もしていた。
計画通りに事が進んでいた。
その証拠に、ビビッた岩谷は俺に命乞いまでしてくる始末だ。遅いだよ、バカ。
そして西澤ともめて、すぐに裏切られている。ざまぁ見ろ。
処刑開始のコインが投げられた。もう終わりだ。
逃げ場のないように囲まれた中で、岩谷の絶望したその顔。その顔が見たかったんだ。
高くあげられたコインが落ちた瞬間に、あいつは病院送り。
そう予想し、落ちたコインの音を合図に、手下たちが武器を振り上げて走っていった。
それでも棒立ちの岩谷を見て、思わず笑ってしまう。
これならタイマンでファンを沸かせてチップをもらえばよかったか?と、少し後悔したが、まぁいい。
どちらにせよ、もう終わりだな。そう思った。
そういう計画だったはずだ。
だが、そうはならなかった。
考えられなかった。大人数でたった一人を、武器を使って叩けば必ず勝てる。
勝負にすらならない。常識だ。だが目の前のこれはなんだ?
何をされている?何が起こっている?
呆然と見ていると、周囲の一部から視線を感じた。
その方向を見ると、西澤と目が合う。
岩谷を呼び出す手配をしてくれたあの女。
西澤はクスクスと不気味な顔で笑い始めた。
悪寒を感じるあの顔。俺を蔑む姿見て、あの日からの屈辱が蘇ってきた―――
あの日の夜、たまたま金がなかった俺は、一人で歩いているガキを見つけてカツアゲをしようと思い、人通りの少ない場所へ連れ込んだ。
抵抗するガキを殴って躾よう。そう思い拳を振り上げたとき、顎に何かをされ、途端に目の前が暗くなった。そして意識を失った。
誰かが呼んだのか、救急車の中で意識が戻ると、何もできずに倒されたという事実を思い出し、こみ上げてきた羞恥心と抑えようもない怒りで声を張り上げた。
その後、素人のガキに喧嘩で負けたという噂が広がり、界隈での箔は落ちた。
必ず殺してやる。そう思いながら手下を使ってあのガキを探したが、手掛かりが得られないまま二ヵ月が過ぎた。
進展しない捜索にイライラしながら、夜中の街を一人で歩いていると、場所に不釣り合いな女に声をかけられた。
「あなたが大石 蓮司かしら?」
「あ?誰だ、お前」
「西澤よ。あなたが探しているって人に心当たりがあって声をかけたの。それでね・・・」
西澤と名乗る女は、携帯を操作して画像を見せてきた。
「噂で聞いた外見と特徴なのだけど、彼で間違いないかしら?」
あのガキの写真だった。ようやく見つけた手がかりに思わず息を飲む。
「お目当ての彼のことだけど、教える代わりに取引をしない?」
俺の様子を見て当たりだと思ったのか、取引を持ち掛けてきた。
「・・・それは願ってもない話だな。いいぜ、取引とはなんだ?」
要求が通ったことに、西澤は満足気な表情で答える。
「ある闇サイトについて聞きたいことがあるの。もし教えてくれたなら、彼をあなたが指定する日時、場所へ必ず連れていくわ。それで、そのサイト名は―――」
女の口から出たその言葉に少し驚いたが、それを教えるだけであのガキの事がわかるなら安いものだと思った。
「ほう?物好きな女だな・・・いいぜ、アレの何が知りたいんだ?」
「話が早くて助かるわ。まずは移動しましょう?ここはうるさいし、目立つから」
騒がしい街を離れて裏路地へ入り、人通りの少ないその場所で互いに取引の対価を話し合う。
俺は知りたがっていたサイトの事を西澤に教えた。登録方法、使用方法を。
そして西澤からはガキの名前と情報を聞いて、呼び出す日時や時間の段取りを決める。
処刑の日が楽しみだ。と気分も良くなり、平気で同級生を売った西澤に興味を持った俺は、一つ気になったことを聞いてみることにした。
「なぁ、お前。アレだけが目的じゃないんだろ?俺のこともよく調べてるようだし、同級生を売るくらいだ。無理には聞かねぇが、教えてくれよ。他の目的は何だ?」
西澤は小さく笑うと、笑顔で答えた。
「―――趣味よ―――」
不気味な顔で答えたその一言に背筋が凍り、言葉を失う。
そして、表情を戻した西澤はもう話すことはないからと言って消えていった。
少しビビッてしまった。そう理解したときに、無性に腹が立ってきて、自販機を蹴飛ばして、心を落ち着かせる。
「チッ、気味の悪い女だ。だが、収穫はあった。まさか、坊ちゃん学校の生徒だったとはな・・・」
ガキの正体を聞いて、そんな奴にやられたと思うとさらに腹が立つが、これからの処刑を思うと怒りも収まる。
やっとこの気持ちがなくなる。
やっと俺の自信が生き返る。
やっと俺の箔が取り戻せる。
そうなるはずだった。
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歓声が鳴り響き、その声量で意識を戻して前を見ると、呼んだ手下は全員倒されていた。
同士討ちと破裂音のする攻撃によって、連れてきた二十人が倒れている中、岩谷一人は何事もなかったかのように立っている。
岩谷は俺に顔を向けると、着ている制服を整えはじめる。
「あとは・・・あんただけだ、大石さん」
そして、喧嘩の最中とは思えないような落ち着いた態度をして、少し困ったような、そんな表情をしている。まるで弱者を心配するように・・・
そして、小さな声で、
「だからさ、降参してくれ」
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・あ?・・な・・ん・・・だとぉおおおおおおおおおおおおおお!?!!!!
「ぶっ殺すぞてめぇええええ!!!!!!!」
岩谷へ走り、その勢いで思いっきり振りかぶり、顔面へ殴りか――
パァンッ!!!
破裂音がした。今日、何度も聞いたあの音。
目の前が暗くなる。
額に何かを受けた。
何をされた?
薄れゆく意識の中、岩谷を見ると指を突き立てていた。
え?あれって?
「デコピン・・・?―――」
うるさい歓声の中、意識がなくなった。
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