第3話

「携帯を切らないでくれ。セブンに入っても切らないでくれ」

「気持ち悪いなぁ」 


僕は携帯を切らせないことに必死になりながら家を出た。電話よりこの目で春花の無

事を確かめないと。今は嫌われていても、いつか大人になった時、仲良く語りあっている兄妹でいたい。



雪が降り出しそうな曇天の下、途切れ途切れの会話をしながら、僕は走ってセブンイレブンに向かった。


自動ドアをくぐる。垂れ耳に垂れ目の不細工なキーホルダーが揺れているのが目に入った。


フランシオールという雑貨屋の、犬のマスコット「フランソワ」。春花はそれが大好きで、去年の誕生日に僕がプレゼントしたのだ。声をかける。春花は振り返って携帯を切った。



「最初から、自分で来ればよかったのに」

「春花がここに来なければ、轢かれていたかもしれないだろ」

「まぁ、それもそうか」


自分が死ぬなんて、少しも思っていないらしい。僕は怪しまれないように陳列棚に並

んでいる白いパッケージの商品を手に取った。


セブンイレブン独自のチョコレート菓子。


なんでもよかった。


「お兄ちゃん、全力で走ってきてまで、それが食べたかったの」

「うん。これが、欲しかったんだ……一緒に、食べよう」


自分でも驚くほど声が震えている。会計を済ませると、春花の手を繋いで、事故が起

きるんじゃないかとビクビクしながら家まで帰った。


春花は僕の様子が変だと思ったのか、手を繋ぐことを嫌がらなかった。


メールの「止めろ」はやめろ、と読んでいたけど、とめろ、だったのだ。


事故は起こらなかった。家に着くと、春花はリビングに入り棚から2人分のコップを取り出していた。


「寒いからココア作るね。そのお菓子、お皿に乗せるから」



春花に袋を渡した。両親はどちらとも会社勤めでいつも帰りが遅いから、春花は家の雑用を母の代わりであるかのようにてきぱきとこなしてくれる。



「数分だけ自分の部屋に行ってる。ココア出来たら呼んで」



春花は頷いた。2階に行き、つけっ放しのパソコンに目をやる。メールが気になって仕方がない。送受信ボタンを恐る恐る押した。今になって鼓動が激しくなっている。 



メールがまた新たに入っていた。長文だった。


 

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