第2話
なんだ、これ。僕は時計を見た。午後4時25分だった。
『今、お前は死のうとしているな。お前のちょっと変わっているところは、死んだら中2の日々に戻れるかも、と思っていることだよな。本当なら今のうちに死んでおけと言いたい。お前はこれから、死にたくても死ねなくなる。ロープの輪を結んでいる間に、電話がかかってきてお前はそれに出てしまう。相手は妹の友達、留美ちゃんだ。塾帰りの妹が、車に轢かれたことを知らされるんだよ。ナンバープレートは、るの45―8Ⅹ。2月17日、午後4時38分にその瞬間が起こる。すぐ妹の春花に電話しろ。無事家に帰ってくるまで電話を切るな。違うルートで帰るように伝え、数日間は様子を見ろ。またあとでメールする。俺は30歳の佐山悠介。今は2039年の2月。過去の自分にメールを送っている。とにかく事故を止めろ。妹を救え』
僕が僕にメール? 信じられない。いたずらで誰かが書いているんだ。
けれど、死んだら14歳に戻れるという考えは、誰にも言ったことがない。
なんでこの差出人は知っているんだろう。不安が急に広がってくる。
時計を再び見る。午後4時32分。あと数分で、春花が事故に遭うというのか。
僕は半信半疑で学生鞄から携帯を取り出し、3歳年下の妹に電話をかけた。
「もしもし」
「なんの用? 留美ちゃんと帰るとこだけど」
鬱陶しそうな声が聞こえてくる。異性の家族を嫌う年頃なのか、最近は父と僕の洗濯物を一緒にするのも嫌がる。
なにを言えばいいのかわからなかった。そう、違うルート。塾から家まで帰る道には、2パターンある。ローソンがある大通りと、セブンイレブンのある細道。春花はいつもローソンのある道を通って帰ってくる。
「セブンで買ってきてほしいものがあるんだけど」
「ローソンじゃ売ってないの? 遠回りになるよ」
「ごめん。オリジナルの商品が欲しいんだ。ええっと」
春花が電話の向こうでなにか言っている。留美ちゃんの声が聞こえてきた。
「バイバイ」と言っている。どうやら別れたようだった。
「早く言ってよ。じゃなければ、このまま帰る」
苛々した様子だ。咄嗟に商品名が出てこない自分がもどかしい。
「待って。あれだよ、ほら、すごく美味いやつ」
「食べ物? もうはっきり言って」
僕は必死でセブンイレブン独自の商品を思い出そうとしていた。
「白いパッケージの……」
言いかけると、小さな悲鳴が聞こえてきた。
「どうした」
「突然車が急カーブしてきて、ぶつかりそうになった」
時計に目をやる。午後4時38分だった。
「ナンバープレートは。見てくれ」
「え。る? の45―8……」
メールと同じだ。僕は内心驚いていた。
「今どこにいるんだ」
「だから、ローソン近くの交差点を渡ろうとして引き返したとこ。このまま渡っていたら轢かれていたかも」
轢かれたんだ、多分。メールの差出人を15年後の僕だと信じるなら、その15年前の春花は轢かれていたんだ。
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