第2話・異世界でもニートになりました
俺は今、多分人生の分岐点に立たされている。
魔王になるか、ならないかの。
「…どういう事だよ魔王にならないかって」
「そのまんまの意味だ。お前の才能を買ったのだ」
「…つまり暇になるのが嫌だから横で暇つぶし係にしたいって事?」
動揺しながらも現在の状況をまとめる。何で俺は月夜に照らされながら猫じゃらし片手に人生の分岐点を選んでいるのか。
「…駄目か?」
キュルンと可愛い顔をしている。いやいやその顔されてもね? 重要な選択な訳で…。
「豪華な三食と十分な休息時間、巨大な魔王城自由に使い放題、召使いは合計100人以上魔王様の言う事ならなんだって聞いてくれるのに仕事はただ数十分それを振るだけでも?」
「しょうがないなぁ~」
「こいつチョロいな」
いやだって猫じゃらし振るだけって仕事でもないし。そんな天国あるなら今すぐにでもレッツゴーだろう。
「これで家賃の心配もいらなくなったし、万々歳だよ! マジでありがたいわ魔王様!」
「リリアだ」
「ん?」
「同じ魔王なのだから魔王様はおかしいだろう? 私の名前はリリアだ」
「なるほど、んじゃよろしく、リリア」
「ああ」
その時リリアは笑った。だけど少し悲しそうに。まるで昔を懐かしむような顔をしていた。
「ところでお前の名前は?」
「広田直樹。適当にナオとでも呼んでくれよ、そっちの方が異世界っぽいし」
「ふむ…異世界…ナオキ…」
「もしかしてお前は…」
「どうしたんだリリア?」
「…ううん、何でもないさ」
リリアは少し悲しそうだった。
今すぐにでも魔王城に行きたい所なのだが、家を借りているのでその取り消しや、一応爺さんに挨拶をしに行った。
「おお、帰ってきたか…って…」
「ねえおっかさん、あの子角があるよ」
「シーッ!! あれは魔王様よ…きっとあの男が魔王様に無礼を…」
「お前さん、魔王と一体何を…」
「大丈夫だって爺さん。魔王は怒ってなんかいねぇよ」
突然の魔王の乱入に混乱する町民をなだめながら、説明に入ろうとする。
「まさか魔王の部下にでもなるつもりじゃ…」
「いやいや違うから大丈夫」
「なんだ…驚かせるんじゃないよ…」
「魔王になったんだよ」
「……はい?」
俺のこの発言に段々と周りがザワつく。
「お前…魔王になったって事はつまりどういう事か分かっておるのか…?」
「?」
「きっと魔王にたぶらかされたんだ、早くこっちに戻っておいで!」
「…おいリリア、どういう事だよ」
「えーっとねー…確かに私がこの辺りを牛耳ってはいるんだけど…民からの評判は良くないって言うかー…結構魔王城にも敵は来るって言うかー…」
「聞いてないぞ」
「…へへっ」
取り敢えずこのドラゴンは後でひっぱたくとして、これはどうしたらいいんだ…? というか町の肉屋が包丁取り出してるんですけど。凄く物騒なんですけど。
今ここで魔王になるのを辞めたら町の人から敵対はされないし、平穏な生活は送れる一方、働かなくてはいけない。
しかしここで魔王になればヘイトが集まり、敵がわんさかやってくるだろう。その代わり働かなくていい、か。
「なぁリリア」
「何だ?」
「魔王城にやって来た敵は全員倒せるよな?」
「もちろんだ! だから暇していたのだからな」
「ふーん…」
肉屋がジリジリと近寄ってくる。
「なぁリリア」
「今度は何だよ」
「お前ドラゴンだから変身できるよな?」
「ああ、まぁ…」
「飛べる?」
「まぁ」
「炎とか吹ける?」
「まぁ」
俺はほくそ笑んだ。村の奴らが焦りだす。
「…おいまさかこいつら…」
「ちょ、まっ、ナオキ! 落ち着くんだ、分かった、家賃安くするから!」
「今更爺さんの言う事なんか聞くか! 今頼れるのは…」
「リリア! 変身だ!」
俺の権幕に一瞬困惑したものの、リリアは何が何だか分からないまま変身する。
目の前に現れたのは、可愛い美少女ではなく、威厳のある漆黒のドラゴンだった。
大きな背中に何とかよじ登り、また叫ぶ。
「嫌がらせ程度に火を吹け!」
「えっあっはい」
軽いフットワークの割には轟音が轟き、真っ赤な炎を吹いた。
「ギャアアアアア! こいつらやりやがったああああ!!」
「うわあああ俺の肉屋がああああ!! …あっいい匂い」
「アーーーハッハッハッハ!! ざまぁ見ろ! 俺を働かせるなんぞ100年早いんだよォ!」
やっと状況を理解したリリアは、月明かりの下、颯爽と飛んで帰ったのだった。
酔いつぶれてたドラゴン少女拾ったら魔王になりました アントロ @yanaseyanagi
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