第10話 怪盗ルシウス
戦いは長期戦の様相を呈してきた。
街に立ち寄ることが長期間なかったので、こちらのポーション類の在庫も少ない。やはりレベルアップ可能な分のマカを貯めてきたのは正解だった。レベルアップすればMPも全回復する上に、ステータスも多少強化されるのだから長期戦になればこちらが有利だ。後は焦らずにじっくりと戦えば良い。今回は我慢比べだ。
すでに数時間ほど経過しているのは間違いない。ひょっとしたら半日ぐらい経っているかもしれない。敵の双子は知能が高く、こちらの攻撃への対処が上達している。が、それはこちらも同様なので、お互いに致命傷を与えることができなくなっている。一撃で相手を削り切ることができないため、すぐに回復してしまうのだ。先にMPが切れたほうが負けるだろう。
俺たちは一進一退の攻防を続けていて、その間に敵はマジック・ポーションを5本ずつ使っている。ボスキャラがマジックポーションを持っているという時点でけっこう反則に近い。プレーヤーはMP回復できても、魔物はできないというのが普通だが、そんな常識は持ち合わせていないようだ。
「そろそろMPが心もとなくなってきた頃だろ。マジック・ポーションは使わないのか?」
鎌をかけてみる。実のところ俺たちの在庫も切れているのだ。奴らがMPポーションを大量に持っている場合、1億マカコインの切り札を考慮に入れてもかなり厳しい状況になりそうだ。
「確かに大技を放つMPは残っていないかな……」
ルシウスがそう言うと同時に敵はそれぞれ水色と赤のオーラで包まれる。
「だけどMPを使わない大技もあるんだよ」
カシウスがそう続けると2人同時に叫んだ。
「ジェミニ・クリオパイロ!」
氷属性と炎属性の上下同時攻撃。疾すぎるし攻撃範囲が広すぎる。俺はとっさに上空に飛び上がって火魔法の方を受けた。俺の火属性耐性は+10あるというのに、一気にHPを削られる。
<みんな無事か! 出し惜しみしないで今使おう!>
俺はアイテムボックスから事前に鋳造しておいた1億マカコインを取り出そうとした。
そして愕然とする。無いのだ。取り出しやすいように一番手前に置いていた1億マカコインがいつの間にか無くなっている。
「お探しものはこれかな?」
ルシウスはそう言って掌の上に積み上げられた4つの1億マカコインを見せた。
「ば、馬鹿ファック……アイテムボックスから直接盗むスキルだと!?」
俺がそう呟くと同時にルシウスの掌の上で4億マカが溶解されて奴の体内に吸収されていく。そして次の瞬間、ルシウスはレベル82になった。先程までの鬱蒼とした表情が嘘のように晴れ渡っている。
「そうか……自分のHPを犠牲にした技だったのか……」
俺の隣で血まみれになったイーオンが辛うじて呟く、もうHPが残り少ない。イーオンは最後の力を振り絞って、初級の治癒魔法『ヒール』を瀕死のオカワリに使う。
「くそっ、もうMPがねぇよ。身体も動かねぇ」
イーオンはそう呟くと床に突っ伏した。
辛うじて身体が動くようになったオカワリが主人を護るように、イーオンの前で身構える。が、もはや戦闘能力は殆ど残っていなそうだ。
「このまま何も知らずに死んでいくのも悔しいでしょう。手に汗握る戦いを経験させていただいたお礼に教えてあげましょう。我々は2人とも【窃盗】スキルが+10なのです。そんな我々が協力することで究極の窃盗スキルである【
勝ち誇った顔でルシウスが口を開いた。
「あなた方が私の部屋の直ぐ側でレベル上げ戦闘に勤しんでいたのを知っていたのですよ。私は【地獄耳】というユニークスキルを持っていましてね……フフフ。とても耳が良いのです。お陰でみなさんが1億マカをコインにしてアイテムボックスにしまっていることは事前に存じ上げておりました。私が予想した通り皆さんは1億マカコインをアイテムボックスの中でも1番取り出しやすい手前に置いていましたね。ただ1人の例外を除いては――まったく、あまりにもアイテムボックスの中がごちゃごちゃと散乱していたので、探し出すのが不可能でした。代わりにこんな下らないものを盗んでしまいました」
ルシウスはそう言って、マタタビを床に捨てる。その瞬間、アヤさんのレベルが上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます