第9話 ラスボス見参!
「ギギギ……」
軋んだ音を立ててボス部屋の巨大な扉がゆっくりと開く。
中の様子は今までそれほど変わらない。ラクスティーケの巨大な像があるのは裏庭ダンジョンのボス部屋と同じだ。だが、違う点もあった。部屋の中央部の魔法陣の上にいる男がこちらに向かってうやうやしく一礼している。
「ようこそみなさん。このダンジョンの主をしておりますルシウス・フォン・ルナクリエンタと申します」
丁寧な言葉づかいとは裏腹に凄まじい殺気を放ちながら男は言った。青白い肌をした美男子だ。
<上位吸血鬼でレベルは81。属性については詳しく分かりませんが、恐らく氷属性は無効でしょう。吸引または反射される可能性もあります。また、レジェンダリー級の装備を全身に装着しています>
ソフィアの【鑑定】能力を持ってしても敵能力の詳細はわからなかった。ウル・ギガンテスのレベルが76だったことから、レベル81というのはそれほど高く無いようにも思われる。が、レジェンダリー級の装備を身にまとっているということはかなりのバフがかかっている筈だ。油断はできない。
<へぇ。名前があるんだね>
「ええ、私には前世の記憶がありまして、名前も覚えているのです」
どうやら今まで戦った階層ボスとはいろいろと違うようだ。さすが公爵級ダンジョンのラスボスと言ったところか。
<慎重に立ち回りながらいろいろな属性を試してみよう>
俺はそう言いながら散弾型の火魔法『ファイヤー・ショットガン』を放つ。氷属性が得意なやつはたいてい火属性が苦手なものだ。皆で一通りの属性を試したが、やはり火属性が一番通りやすそうな気がする。
「よし。火属性で一斉攻撃だ!」
ちょうど包囲するような形になったところで、イーオンがそう叫ぶ。千載一遇の好機だ。俺たち「日本組」が『ファイヤー・ランス』を3方向から連発しているあいだに、イーオンとオカワリは主従共同による火魔法の大技『オルビス・イグニス』を発動した。
彼らはコンビネーション技が多い。俺もアヤさんと一緒に使う技を開発しなければ――などと考えているうちに、巨大な火の輪が敵を襲う。凄まじい威力だ。ひょっとしたらすでに勝負あったんじゃないか? そう思っていると、次の瞬間、巨大な火の槍が敵から放たれた。
辛うじて直撃は免れたが、かなり強力な攻撃だ。
「手間のかかるやつだにゃ」
アヤさんはそう言いながらダメスを治療している。アヤさんはほぼ完全に躱すことが出来たようだが、ダメスは直撃を食らってHPが半減していた。
次の瞬間、更に強力な火魔法がイーオンとオカワリを包み込む。先程の『オルビス・イグニス』と瓜二つの攻撃だ。
「気をつけろ。敵は火魔法を反射しているぞ!」
俺がそう叫んだときにはすでに彼らは巨大な火の輪に飲み込まれていた。
まずい。やられたか!? そう心配したのも束の間、次の瞬間にはオカワリがイーオンを咥えて、燃え盛る炎の中から飛び出してきた。自分もかなりのダメージを負っているのだが、イーオンを咥えて離脱しながら彼に治癒魔法を掛けている。イーオンは意識を失いかけていたが、オカワリの治癒のお陰で回復するとすぐに愛犬の治療をはじめた。
「甘い性格をしているのに今まで生きてこれたのはオカワリのお陰だな……」
心のなかでそう呟いて、敵に注目すると、いつの間にか敵の数が1人増えていた。もう1人の男も吸血鬼でほぼ同じ外観だが、髪の毛と瞳の色は違う。最初からいた吸血鬼は透明度の高い水色で新たに出現した吸血鬼は炎のような真紅だ。
「申し遅れましたが、我々は双子なのです。残念なことに愚弟カシウスは遅刻癖があるのですが、なにとぞご寛恕のほどをよろしくお願い申し上げます」
ルシウスはそう言うとうやうやしく一礼した。
<よく言うよ。最初から絶好のタイミングを伺っていたくせに>
俺はそう言って敵の双子を交互に睨みつけた。
「しゃらくさいっ! スプレンディス・イラ!」
「うざいにゃっ! くらえ破転爪!」
ルシウスの慇懃無礼な態度にダメスとアヤさんが同時に切れる。2人が放った攻撃は妙な相乗効果を発揮し、結果として新しい技が出現した。
「これは……新しい力を感じるにゃ。スプレンディス・トゥルボ!」
アヤさんの回転スピードがレッドゾーンに突入し、彼女の身体が純白に輝き出す。敵は左右に散開して直撃を避けたというのに、全身から血しぶきを飛ばした。強力な光属性を帯びたその攻撃は辺りの空間ごと切り裂いたのだ。
「アヤさんとダメスまでコンボ技かよ。なんか俺だけ蚊帳の外だな……」
そう呟きながら、俺はルシウスに斬り掛かった。
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