第8話 石橋を叩いて渡る性格です
「ラスカルとDDがここにやって来る可能性は薄そうだ。恐らくあの階層から下に潜らずに、エレベーターを開放して外に出ていったのだろう」
ボス部屋前を拠点にして1週間ほどレベル上げを続けている。オカワリの能力のことは知っているようだから、今頃になってのこのことやって来る可能性はたしかに薄いのかもしれない。イーオンの予想は恐らく正しいだろう。
俺のレベルは65になった。イーオンとアヤさんがレベル63で、オカワリとダメスがレベル62だ。かなり効率的にレベル上げしてきた自負があるので、いまならばラスカルとDDが相手でも有利に戦えるはずだ。
「ということは地上で人間を殺しまくってる可能性が高いってことでしょうか?」
ダメスは心配そうだ。こいつこんな殊勝な性格だったっけ? 性転換して人格が変わったのかもしれない。が、真人に進化していることを考えると意外と人名を大切にするメンタリティなのかもしれない。
「あるいは俺が持っている領土を攻撃している可能性もある。いずれにせよ放置しておくのは危険だ」
ダメスの呟きにイーオンが答える。危険なのは間違いないが、俺たちにできることは少ない。地上で活動するとなると、人間を殺戮しまくってレベル上げできる奴らとの実力差が開いてしまうだろう。できるだけ深い階層で戦い続ける必要がある。
「このダンジョンは特殊だ。外界との連絡が一切つかない。そろそろボスを倒して外に出たいところだが……」
イーオンが続ける。
<まだちょっと早いんじゃないか?>
俺はそう言ってボス部屋の扉を見やった。最初に感じたほどの威圧感は感じないのは、俺たちが強くなったからだろう。たしかに今ならば勝機は十分にありそうだが、第2形態がある場合は微妙だろう。
「レオニャは心配しすぎにゃ。あにゃいにかかればワンパンにゃ」
アヤさんがそう言うと、「ワンパン」という言葉に反応してオカワリが尻尾を振って「ワンワン」と吠える。
「僕もだいぶ実力がついたから行けるような気がしますっ!」
ダメスも強気だ。鼻息が荒い。
この近辺の敵を相手に無双できるようになったのは、敵の行動パターンをすべて熟知しているからだ。しかしボス部屋にいる敵は初見なのだ。
<宝箱やドロップでいくらかアイテムは手に入ったから、無理に街を探す必要はないかもしれない。が、もう少しマカを蓄えるべきだ。全員がレベルアップ可能なだけのマカの余力を持っていれば、瀕死の状態になった時にレベルアップすることでHPとMPを全回復できる>
日本人の習性でみんなの意見に流されそうになったが、俺はあくまでも安全策を主張した。
「まぁ、実際に瀕死のところを助けてもらったわけだしな。あの時、レベルアップできるだけのマカを持っていればすぐに態勢を立て直せたのは事実だ」
腕を組んで熟考していたイーオンはそう呟いてうなずいた。
「わかった。もう少しここでマカを稼ごう」
イーオンはそう言って俺の案に同意し、俺たちはふたたび魔物狩りルーチンを再開した。
「歯ごたえがなさすぎるにゃ」
アヤさんが不平をこぼす。
実際のところ退屈な作業だ。実力差があまりない場合や初見の敵の場合は緊張感があるので、戦闘に退屈することはない。が、ずっと同じルーチンを繰り返していると目を瞑っていても戦えるぐらいに楽勝になる。そうなってしまうと退屈だ。みんなが先を急ぎたがる気持ちもわかる。
だが、今回は特殊なケースだ。ダンジョン内で1つ下の階層に移動して少しだけ強い敵と戦うのとはわけが違う。あの扉の奥にいるのは単なる階層ボスではないラスボスなのだ。ここは石橋を叩いて渡る必要がある。
全員がレベルアップ可能なマカを貯めるのに更に3日ほどを費やした。
<鋳造したマカはすぐに取り出せるようにしておけよ>
俺がそう言うと全員が無言でうなずく。レベルアップに必要なマカをすべてエネルギー体として体内に保有していると自動でレベルアップしてしまうので、みんな1億マカのコインを鋳造してアイテムボックスに入れている。
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