第7話 街を目指して
「この階層が最下層で間違いなさそうだ」
イーオンが呟いた。
この階層に来てすでに3日が経過しているが、オカワリは未だに下の階層へと続く穴を掘り当てていない。地下66階層のダンジョン――つまりこのダンジョンは「公爵級」という訳だ。
<今の俺たちじゃ、この階層のボスを倒すのは難しそうだ。まずは街を見つけ出して装備をアップグレードしよう>
俺がそう提案すると全員が同意した。
この階層で一番ヒヤリとしたのは最初の1戦だったが、その後の戦いも決して楽なものではなかった。普通にリスポーンするモブ敵に苦戦している間は階層ボスとの戦いは無理だ。ましてやダンジョンのラスボスなのだから尚更だろう。
とはいえ、この階層における戦いにだいぶ慣れてきたのも事実だ。ヘル・ホーネットには特に頻繁に遭遇したので、対策も十全に練られている。全員で協力して5枚の『ファイヤー・ウォール』を作り出してから、一斉に『ファイヤー・ボール』を連投することにより初動で敵の大半を屠ることができるようになった。奴らの羽音にも慣れて、遠くからでもだいたいの距離と方角がつかめるようになっている。
ヘル・ホーネット1体が約10万マカを落とすので、大き目の群れを全滅させると5000万マカ前後を手に入れることができる。効率を考えるとむしろウェルカムな敵になりつつあった。
一方、ウル・ギガンテスは1体で30万近いマカを落とすとは言え、莫大なHPを削り切るのに時間がかかりすぎる。牙は爪や秀逸な素材になりそうだが、マカ的には不味い敵なのでなるべく戦いを避けた。
「オカワリの鼻で街の方角は特定できにゃいのか?」
「すでに人間が集まっている街ならば離れていても分かるが、無人に近い状態の街だと厳しいな」
アヤさんの質問にイーオンが答える。
「アヤさんも俺よりは鼻がきくだろう。街はどっちだと思う?」
俺がそう向けるとアヤさんはしばらく鼻をヒクヒクとさせてから答えた。
「あっちの方角ににゃにかいるのは間違いにゃいにゃ。匂いじゃなくて勘だけどニャ」
そう言いながら、彼女は尻尾を使って方角を示した。
「その『勘』ってのは当てになるんですか?」
ダメスが疑いの視線をアヤさんに向けながら尋ねた。パーティ加入直後は比較的大人しくしていたのだが、近頃は生来の生意気な性格が表に出がちだ。
「ニャンだと。にゃまいきニャ!」
アヤさんはそう言うと同時に猫パンチを繰り出す。爪は出していないものの、レベル61まで上がった彼女の猫パンチは強力だ。常人ならば即死だろう。
武器を使って反撃すると俺に叱られるので、ダメスは素手で必死に対抗する。が、やはり素手の戦闘力は獣人のほうが上なので、すぐにボコボコにされてしまった。
「おみゃーはドMだから、こうされるのが好きニャンじゃろ? ニャッはっはっ!」
豪快に笑うアヤさんを尻目に俺はダメスを治療した。死ぬ危険性はないし、物理耐性上げにちょうどいいじゃれ合いだ。「じゃれ合い」と言うには一方的すぎる気もするが、まぁ細かいことはいいだろう。このメンバーの中ではダメスが一番物理耐性が低いので良いトレーニングになる。
「他に手がかりもないし、とりあえずそっちに行ってみようか」
呆れた顔つきで2人のじゃれ合いを眺めていたイーオンはそう言って、先頭を歩き始める。
1時間後に俺たちがたどり着いた場所では光り輝く球体が宙に浮いていた。
<ボス部屋に着いちまったな。ヤバそうな気配が扉越しにひしひしと伝わってくるよ>
俺はそうつぶやきながら、球体に手をかざしてHPとMPを全回復した。
「まだボス戦は厳しいだろうが、とりあえずここを拠点にしてちょっとマカを稼がないか? 戦闘のたびに全回復できるし、ポーションも節約できる。もしラスカルたちがこのダンジョンのクリアを目指しているのならば、必ずここにやって来るわけだしな」
イーオンがそう提案してきた。ここに来る途中で宝箱も2つあったし、ヘルホーネットの大群が湧いている地点もあった。確かにレベル上げにはうってつけの場所かもしれない。
俺たちは土魔法と結界魔法を使って、回復の光球を囲むように基地を建設した。そしてこの基地を拠点にして暫くのあいだレベルアップに励む。
宝箱からはレジェンダリー級の装備もでたし、減りかけていたマックス・ポーションやエリクサーもいくつか補充できた。最大限効率化したルーチンが定着してからは、パーティ全体で1日に3億マカほど稼げるようになっていた。
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