第5話 ワン・フォー・オール&オール・フォー・ワン

 イーオンとオカワリを加えた暫定新パーティは上手く機能していた。オカワリは属性耐性に大きな偏りがなくタンクとして優秀。ラスカルたちがイーオンを裏切った際は、瀕死状態で身動きが取れなくなったイーオンを連れて転移魔法陣に飛び込むことができたのは伊達ではない。


 イーオンはなんでもそつなくこなすが、ダメスよりもヒーラーとしての適性が高い。その上【統率+9】を持っているため強烈なバフが味方にかかる。俺も同じスキルを持っているがつい先日+6になったところだ。【統率】スキルはパーティリーダーになっていないと有効にならない。


<敵も強くなってきたことだし、リーダーの役割は譲ろう>

 俺がそう言うとイーオンはすこし驚いて訊き返してきた。


「いいのか? パーティリーダーの地位にこだわりがあるように見えたが……」

<こだわりはあるが死んだらそれまでだからな。物事の優先順位はそれなりに分かっているつもりだ>


 しばらく共に活動して、イーオンが信頼に値するやつだということはわかった。それにイーオンを追ってこのダンジョンにやってきたラスカルとDDの動向も気になる。いまはプライドよりも効率を優先すべきだろう。


 もし彼らの方が先にこのダンジョンをクリアしてしまった場合、このダンジョンは奴らの城に変化してしまい、ダンジョン付近の土地は奴らの領土になる。そうなってしまっては非常に危険だ。このダンジョンを攻略するにせよ、あるいは離脱するにせよとにかくスピードが一番大事な要素ということになる。


 だから今は極限まで効率を重視しなければならないし、1秒たりとも無駄にすることは許されない。


 レベル上げにおいてもオカワリの優れた嗅覚が役に立った。離れた場所から目視不可能な魔物の群れを探してくれる。食事休憩の時間を惜しんで、戦闘と戦闘の合間の移動時間に歩きながら食事を済ませた。


「ダメス、これでレベル60に上がるか?」

 俺は【鋳造】スキルを使用して1億マカのコインを作って、ダメスに見せた。


「ひっ、1億!? まだあと5000万マカほど足りません」

 目をパチクリとしながら、ダメスは答える。


「俺とオカワリで4000万マカほど用意できるぞ」

 イーオンはそう言いながらコインを鋳造する。


「しかたにゃいにゃー」

 アヤさんもそう言って残りの1000万マカを用意した。


「えっ、でも良いのでしょうか?」

 眉を八の字にして困惑する。


<レベル59と60ではステータスに大きな差がある。お前のレベルを60にしてさっさと下の階層に降りたほうがパーティ全体のためになるんだよ。借りたマカは余裕ができたら返せ>


 ダメスがレベル60になればもう少し下の階層でレベル上げができるから、結果的に俺たちの時給(マカ)も上がる。当初はさんざんこき使った上で使い捨てにするつもりだったが、今ではダメスもパーティのメンバーとして重要な役割を担っている。どうやらラスカルはダメスを苦手としているようなので、彼女を強化しておいたほうが良さそうな状況だ。


 イーオンやアヤさんもそのあたりのことを良くわかっているのだろう。文句を言わずに快くマカを貸し与えてくれた。なかなか良いパーティじゃないか。このダンジョンだけの臨時パーティだというのが残念なぐらいだ。


 ダメスのレベルを上げると、オカワリに穴を掘ってもらい地下60階へと降りる。隠し階段等があるわけではないので、かなりの高低差がある場所を下に飛び降りるのだが、流石に全員高レベルなのでパラシュート等がなくても問題ない。


 地下60階には池があった。


「みんなで池の底を叩くにゃ!」

 アヤさんの叫び声を合図に俺たちは池の底を叩き始めた。裏庭ダンジョンと同じパターンならばショートカットが潜んでいる可能性が高い。が、イーオンは何もせずに腕を組んで傍観しているだけだ。


「お前もやれよ!」

 そう叫ぼうと思ったが、彼の視線の先でオカワリがすでに超高速で穴を掘っているのを確認して自重する。まったく、便利すぎだろ。


 オカワリが掘った穴から池の水が抜けていき、眼下には螺旋階段が現れる。


「さて、どこまで降りれるのか楽しみだ」

 イーオンはそう呟いて悠々と階段を降りていった。

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