第4話 穴掘り名犬

 ジェイクの死体を見てイーオンは驚いたが、文句は言わなかった。非情な決断を自ら下す必要がなくなってむしろホッとしているようにすら見える。


<さて、とりあえずこのダンジョンから脱出するまでは共闘するのが理にかなっていると思うが――>

 俺がそう切り返すとイーオンも首肯する。


<だが、その場合は俺がパーティ・リーダーをやらせてもらう。俺のレベルが一番上でこっちは3人だからな>

「命の恩人だからな。文句は言えん」


 イーオンは常に一番でなければ気が済まないタイプの男だろう。だが、不平を表に出すことなく彼は同意した。本当のところはそれほどパーティリーダーにこだわってはいないが、手下扱いされるのは絶対に嫌だ。


 とりあえず5人で付近を探索する。モンスターと数回エンカウントしたがレベルは40代後半から50代前半というところ。転移前の階層にいた敵とだいたい同レベル帯だ。姿をくらましたラスカルとDDのほうがモンスターよりもよほど怖い。壁抜けを使って奇襲をかけられたら犠牲者が出る可能性もあるので、俺たちは気を張り詰めながら探索を続けた。


「ワンッ!」


 オカワリはそう吠えるとやおら地面を掘り始める。レンガ造りだった地面は凄まじい勢いで破壊され、オカワリが掘った場所のあたりに富士塚のような小山が3つほど作られた。


「オカワリの特技【穴掘り】だ。下の階層へと続くショートカットを探すのが得意なんだ」

 ドヤァとばかりに、鼻の穴をぴくぴくとさせてイーオンは愛犬を自慢した。

 

【壁抜け】の次は【穴掘り】かよ。まったくダンジョンという概念を根本から破壊するようなチーターが次から次へと現れやがる。


「だったら脱出よりも攻略を目指したほうが早いかもしれにゃいにゃ」

「そうだな。とりあえず敵が強すぎると感じるようになるまでは、どんどん下に潜っていこう」


 アヤさんの提案にイーオンも同意したので、当座の方針が確定した。


 ダンジョン内の床は【穴掘り】スキルが有効な場所ばかりではない。床が硬くて分厚い場所は穴を掘ることが出来ない。それでも1日に2回ぐらいのペースで穴を掘り続けていたので、1週間後には最初の階層から15階ぶんを潜った地点まで来ていた。敵の大半はレベル60を超えており、裏庭ダンジョンにいるときに戦った地下55階の敵よりも歯ごたえがあるぐらいだ。


 これ以上ハイペースで潜っていくと危険が大きいので、とりあえず全員のレベルが60を超えるまでこの階層でレベル上げをすることにした。


「ワンッ!」

 いつものようにオカワリが吠える。


「いや、しばらく穴は掘らないでいいから」

 ダメスがそう言ってオカワリをたしなめた。が、オカワリは聞く耳を持たない。「ワンッ! ワンッ!」と鼻をピクつかせながら駆け出した。


「オカワリは特殊な探索スキルを持っていて、ダンジョン内の休憩室の場所が分かるんだよ。どうも微小な匂いが出ているらしい」

 満面のドヤ顔でイーオンはふたたび愛犬を自慢した。


 イーオンのドヤ顔が少々はなにつくが、非常に便利なのは間違いない。お陰で休憩室でゆっくりと休むことができるのならば文句は言えないところだ。オカワリの後を付いていくと、そこには『59』という数字が書かれたドアがあった。


「地下59階か……、地下44階と地下55階のボスはスキップしたってことだな」

 イーオンがつぶやく。


<別に良いんじゃないか? また転移させられたんじゃたまらないからな。とりあえずレベルを上げながら地下66階まで降りて、その階層のボスを倒す。もし地下66階のボスがこのダンジョンのラスボスじゃなければエレベーターで地上に戻って解散する――ということでどうだろう?>

 と、俺は提案した。


 このダンジョンに来てから外界との連絡がつかなくなっている。化身からの連絡すら届かない。詩織たちがどうしているのかも心配だ。できるだけ早く連絡を取りたいと思うその一方で、オカワリのような便利スキル持ちがパーティにいるうちにさっさとダンジョンを1つクリアしてしまいたいという欲もある。イーオンはもちろんダメスですら既にダンジョンをクリアして爵位を持っているのだが、俺は未だに1つもダンジョンをクリアしていないのだ。


 地下66階のボスは上手く行けば2週間ほどで倒せそうだ。66階に降りた時点で先にエレベーターを開放して外界との連絡をすませるのもありだろう。

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