第3話 裏切り者の末路
「た、頼む。命だけは……。俺には8歳の娘がいるんだ。知ってるだろ、イーオン? 後生だから助けてくれ」
命乞いするジェイクを冷ややかな目で俺は眺めていた。
「いつの間にレベル58になったんだ? 最後に確認したときのお前のレベルは53だったはずだぞ。とりあえずその辺りから説明してもらおう」
とりあえず尋問はイーオンに任せることにする。
「そ……、その前にポーションをくれないか? こんな状態じゃ喋るのもままならねぇ」
たしかにこの調子だと尋問中に死亡しそうなので、ジェイクの懇願を聞き入れることにした。奴の装備を全部引っ剥がした上でロープで縛り上げる。そして一番安い無印ポーションを半分ほどジェイクの頭に乱暴に掛けた。
<喋るだけならばそれで十分だろ? アイテムボックスの中身も全部出せ。勝手に回復したら即座に殺すからな>
俺がそう言うとジェイクは苦虫を噛み潰したような顔をする。全回復してもらえると思っていたようだが、俺はそんなに甘くない。
こちらの尋問にたいしてジェイクはぽつりぽつりと経緯を話しだした。
ラスカルはもともとイーオンに雇われた下っ端だったが、なにかの拍子で魔剣ゲルガリアを手に入れて一気に強くなった。以前、レベル10未満の存在から得られるマカが劇的に減るという知らせを『理』から受けたことがあった。どうやらあれは効率的なレベルアップを追求したラスカルが人間を殺しまくったのが原因だったようだ。
大都市を天使が直接守護するようになった後もラスカルは人間を殺しまくった。やつが狙ったのは天使が守護する地域の外にいる郊外居住者で、すでに億単位の人間を殺しているという。一定数以上の人間を殺害した魔人は「魔王の卵」をその身に宿す。「魔王の卵」が育つに連れ、人間を殺した際に得られるマカの量が増えていくのだ。
魔王になる方法は2つある。1つは魔人が王級ダンジョンをクリアすること。もう1つは10億人以上の人間を殺害することだ。ラスカルは後者の方法で魔王になるのを目指しているという。
「その知識はどうやって得たんにゃ?」
尋問の途中でアヤさんが口を挟んだ。
「魔剣ゲルガリアに宿っている霊からラスカルが直接聞いたんだ。ラスカルはよく独り言を呟いているが、どうやらあれは剣と話しているらしい」
ジェイクが答える。
転移直後の混乱状態で反応できなかった攻撃を剣が勝手に動いて防いでいた。あの剣が自分の意志を持っているのは間違いなさそうだ。
DDは【鑑定】スキルに対して偽の情報を開示する【偽装】スキルを持っていて、スキルレベルは+9だそうだ。このため+10以上の【鑑定】スキル持ちでなければ正しい情報を喝破することは出来ないという。単純な戦闘力はそれほど高くないが、【壁抜け】やバフ・デバフ関連のスキルも持っているためラスカルというアタッカーがいる状態では非常に厄介な相手となる。
ジェイクは奴らに提示された5000万マカにつられてつい最近仲間になったばかりだと言う。自分は大量虐殺に加担していないと主張しているが、マカの為なら一切の手段を選ばないラスカルの仲間になっていたのだから、彼の主張を額面通りに受け取ることは出来ない。
「俺が知ってることはすべて話した。お願いだから助けてくれ。なぁ、イーオン、大学時代からの付き合いじゃないか? お前の才能を信じて一緒に起業していままでずっと付いてきた。魔が差しただけなんだよ」
ジェイクはイーオンの足元にすがりついて必死で命乞いする。イーオンの顔に迷いが浮かぶのが見えて、俺は唖然とした。まさか許すつもりなのだろうか? 転移前の裏切り行為でイーオンのパーティメンバーは全員死んだはずだ。そんな外道を許していたら命がいくつあっても足りない。
<生きたまま連れて行くならば、コイツに装備を返さなければ足手まといになる。が、いつまた裏切るかわからないし、なんらかの方法でまだラスカルと連絡を取っている可能性もある>
俺は冷めた声でそう言い放った。エナジードレインでレベル1まで戻して開放するならいいが、詩織がいないからその方法も無理だ。殺すしか無い。俺の中ではすでにそう結論が出ている。
俺はイーオンの額で輝く紋章を凝視した。俺がレベル60だったときの紋章とは色も形も違う。イーオンは光属性に秀でた神人。全人類の守護者を自認する英雄だ。恐らく未だに人間を殺したことがないのだろう。たとえ相手が悪人であっても殺すことに躊躇してしまうようだ。
「ちょっと考えさせてくれ」
イーオンはそう呟くと、踵を返してとぼとぼと歩いていき、その後を愛犬オカワリが心配そうに飼い主を見つめながら付いていく。
「あんたの娘の名前はにゃんだ?」
イーオン主従が十分に離れたところで、アヤさんが口を開いた。
「ジェシカ……ジェシカ・ローガンだが。それがど――」
発言が終るのを待たずにアヤさんの鋭い爪が急所に振り下ろされ、ジェイクは断末魔の悲鳴すら上げることが出来ずに絶命した。
「お前を殺して得たマカはあにゃいがジェシカに届けてやるにゃ。気が向いたらにゃ」
アヤさんはそう言ってから、鮮血が付着した爪先を舌でぺろぺろと舐める。
俺がやろうと思っていたことを代わりにされてしまった。残虐なようで慈悲深い殺し方だ――そう感心しながら俺は目を眇めて彼女を見た。痛みを感じることすらなく一瞬で終わらせたのだ。しかも今わの際には最愛の娘を思い浮かべることが出来た。悪党の割には幸せな死に方だろう。
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