第2話 魔剣ゲルガリア
「痛てぇな、この犬っころが!」
イーオンの攻撃は魔剣により防がれていたが、オカワリの牙は別の男の腕にしっかりと食い込んでいた。首筋の急所を狙った攻撃だったはずなので、転移直後の状態でとっさに急所をかばった男の方を褒めるべきなのかもしれない。
「離脱!」
イーオンがそう叫ぶと同時にオカワリは腕を離して、後方に飛び退く。次の瞬間、オカワリがいた空間を魔剣ゲルガリアが引き裂いていた。
「死にかけていたはずなのに、ずいぶんと元気そうじゃないか?」
魔剣を持った男はそう呟いて剣を構え直す。どうやら意識がはっきりとしてきたらしい。
「魔人レオナイト、あんたが治したのか?」
どうやらコイツも俺のことを知っているようだ。こちらは相手の名前すら知らないというのに、向こうは知っているというのは気分が悪い。
「ああ。で、あんたは何者なんだ?」
ソフィアによるとコイツのレベルは65だ。イフリート戦の直前に俺のレベルは62に上がっていたが、コイツのレベルは更に上。残りの連中もレベル60とレベル58なのでかなりの強敵だ。しかも敵のリーダーらしき男はかなりやばい魔剣を持っている。
「俺は魔人ラスカル。まったく余計なことをしてくれたが、邪魔をしないのならば同じ魔人のよしみで見逃してやろう」
敵のリーダーはそう吐き捨てると、虚空に向かって斬撃を放った。剣の切っ先から三日月のような形をした黒い波動が複数吐き出されイーオンに向かって飛来する。
俺はとっさに『常闇の大盾+3』を取り出し、身を挺してイーオンを護った。『大魔王ガーマの全身鎧』のお陰で闇属性の攻撃は無効のはずなのに、俺のHPは1割以上削れている。どうやら複数の属性が混ざった攻撃のようだ。
「俺の言葉が聞こえなかったのか? 手を出すなと言ったはずだぞ」
ラスカルは怒りをにじませながら吐き捨てた。
<助けたばかりの連中が目の前で殺されるのは気持ちが良くないからね>
雰囲気から言って、ラスカルという奴は信用できそうもない。イーオンとオカワリを殺した後で、俺たちに襲いかかってくる可能性も十分にある。だったら今のうちに5対3の状況で叩き潰しておいたほうが良いだろう。
「5対3ならば勝てると思ってるのか? この魔剣ゲルガリアがある限り相手が何人いても同じこと」
そう言うとラスカルは魔剣を中段に構えて両目を瞑った。
「させるかよ!」
大技の気配を察知した俺は反射的に【
「な!?」
次の刹那、俺は驚きの声を発していた。ラスカルたちに当たったはずの天魔断罪が反射されて、俺に戻ってきたのだ。俺の雷耐性は+10あるのでたいしたダメージではないが、3人分がすべて反射されて戻ってきたので流石に硬直する。
「ははっ、まんまと罠にかかったようだな。くらえ【
「やばいぞ。あの技だ!」
ラスカルとイーオンが同時に叫ぶ。が、俺は身動きが取れない。イーオンとオカワリを瀕死の状態にし、残りのパーティメンバーを全滅させたという技だ。恐らく俺のほうがイーオンよりも硬いだろう。だから、死ぬことはないと思うがかなりのダメージを食らう羽目になるのは間違いない。硬直が解け後の行動を脳内でシミュレートしていると、アヤさんの叫び声が聞こえる。
「うにゃぁーーーーっ!」
凄まじい勢いで回転しながらアヤさんはラスカルに突進する。アヤさんの【
「アヤさん、ナイス!」
危ないところだった。てっきり全体攻撃魔法が来るかと思っていたのだが、エネルギーを収束させて俺1人をピンポイントで狙った攻撃だった。あれをまともに受けていたら死んでいた可能性もある。
だが、よくよく考えてみれば理にかなった動きだ。短時間とはいえ俺は硬直していたし、味方の中で一番強いのは俺だ。俺を倒してしまえば後は掃討戦に移行できるという腹だったのだろう。コイツラは対人戦に慣れている。
イーオンとオカワリはすかさず攻勢に転じ、ラスカルに襲いかかっている。通常の魔物が相手ならば、弱い敵から順に倒して言って敵の頭数を減らすのがセオリーだ。が、とにかくあの魔剣が厄介なので大技を出させないようにするのが肝要だろう。
「ダメスはイーオンたちに加勢してラスカルを抑えろ、アヤさんは――」
俺が言い終わる前にアヤさんはこちらの意図を察してレベル60の男に躍りかかる。以心伝心。もはや言葉で伝える必要がないぐらいだ。
「で、あんたは俺が殺す」
俺はそう吐き捨ててると『雷神の加護』をがぶ飲みした。裏庭ダンジョンの地下55階で入手したもので、約1分のあいだ雷属性攻撃を無効化する。雷耐性が+10あるので必要なさそうだと思いつつ、念のために買っておいた。心配性の性格が幸いしてくれたようだ。
「はっ甘く見るなよ。別に俺ひとりでお前を倒す必要はないんだ。守りに徹して時間を稼げば、ラスカルかDDがなんとかしてくれる」
レベル58の男はそう吐き捨てる。確かにそのとおりだ。3人がかりでラスカルを抑え込んでいるが、ダメスとイーオンたちはあまり連携が取れていないので、隙が生じてしまうのは時間の問題だろう。だから、その前に確実にこいつを倒しておく必要がある。
「
俺は天魔のハルバードの武技を放った。雷属性攻撃なので先程と同様に反射されて戻ってくるが、『雷神の加護』のお陰で硬直はまったく無い。
「はぁ、お前は馬鹿か? 雷属性は効かないんだよ!」
レベル58の男はそう言いつつも顔に焦りをにじませている。俺は見逃さなかった――最初に【天魔断罪】を放った時にやつが身につけているネックレスの勾玉が1つが砕け散ったことを。
【雷属性反射】などというレアなスキルを3人揃って持っているなんて、普通はありえないはずだ。いま撃った【雷束撃】で確信した。このレベル58の男は装備品に頼っているのだ。ネックレスの勾玉がすべて砕け散れば、【雷属性反射】は無効化されるだろう。
「雷束撃! 雷束撃! 雷束撃!
【雷束撃】をできるだけ高速で連発していた俺は新たな武技に目覚めた。俺は目にも止まらぬ高速でハルバードを動かしながら【雷束連撃】を放つ。狙いは出鱈目だが、これだけ連発すれば必ず当たる。みるみる間にレベル58の男が装着しているネックレスの勾玉の数が減っていく。
<ところであんた名前は何ていうんだい? 脳内で「レベル58の男」って呼び続けるのに疲れちゃったよ。あ、もう手遅れか>
レベル58の男はもはや虫の息になっていてぴくりとも動かない。
「おいラスカル、ジェイクがやられちまったぞ!」
レベル60の男が叫ぶ。たしかDDと呼ばれていた男だ。
「ああ、こっちも勇者の卵をもった
勇者の卵? ああ、そういえばダメスが男だった頃にそんなことを口走っていたな。しかし、なぜそれが面倒なことにつながるのだろう?
「おい、ジェイクって奴はまだ息があるぞ。置いていくのかよ?」
俺がそう尋ねるとラスカルは素っ気なく返した。
「ああ、足手まといの使えない男だ。好きにしてくれ」
「逃がすと思うか? くらえ
イーオンはそう叫ぶとオカワリと協力して強力な氷魔法を放つ。横目でちらりと確認しただけだが、どうやら今までの攻防で氷属性の反射は無いと確信しているようだ。
ラスカルとDDの両脇に氷の壁が出現して逃げ道を塞ぐと同時に前方から無数の氷の槍を叩きつけるという技だ。これは避けようがない。ブロックしたとしてもかなりのダメージを与えられるだろう。
だが、彼らはこの攻撃を避けてしまった。信じられないことだが、DDが「壁抜け」と呟くと同時に彼らの身体が後方に位置する壁を通り抜けてしまったのだ。
【双璧氷牙衝】は虚しく無人の空間を抜けて壁に穴をあけた。が、ダンジョンの壁は分厚く、これほど強力な攻撃であっても破壊することは出来ない。
「壁抜けだと!? DDのヤツいつの間にあんな技を……」
壁に突き刺さった氷槍を睨みながらイーオンが呟いた。
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