第16話 火炎城

「とどめにゃー!」


 アヤさんが水属性を付与した連撃で華麗に敵を倒す。ドロップ品を拾ってそのまま先に進むと行き止まりだった。


「ファック、また転移だ!」


 俺は思わず叫んだ。行き止まりの城の構造を調べようとしたところで、転移罠が発動したのだ。地下44階のフィールドは広大だが、上空から地形を確認できたので意外と早くこの火炎城までたどり着くことができた。だが、この城の構造は厄介だ。


 転移罠が多く設置されており、すでに何度も入り口まで戻されている。『叡智のヘッドギアPRO』のオートマッピング機能がなければ、詰んでいたかもしれない。この機能のおかげで同じ転移罠には引っかからないで済んでいる。


 敵に関しては苦労しなかった。火属性が得意な魔物ばかりが出現したが、火属性が弱点のメンバーはいない。俺の火耐性は『大魔王ガーマの全身鎧』のバフをあわせると+10を超えているので、派手な攻撃を食らってもたいしてダメージを受けることがなかった。


「この調子じゃとこの階層のボスも火炎系じゃろうな」

 鬼姫アクラがそう呟くと、ブラックモアが首肯して続ける。

「今のところ楽な相手ばかりですが、念のために対応した装備を身に着けておいたほうが良いかもしれません」


<「うむ。油断大敵というからな。念のために装備を整えよう」>

 

 膨大な数の所有アイテムの中から適切なアイテムを選定するのは簡単ではない。が、『叡智のヘッドギアPRO』にはアイテム管理機能もついているので、ソフィアに頼むと簡単に候補を絞り込むことができる。火属性が得意な敵はたいてい水属性が弱点なので、水属性攻撃にバフを与えてくれるアイテムも同時に探し出す。


 俺自身については火耐性をこれ以上上げることができないので、水属性がエンチャントされている『水龍の鉾』というレリック武器を用意しておいた。属性の相性だけを考えれば『天魔のハルバード』よりも『水龍の鉾』のほうが良いのだろうが、何しろ神器である『天魔のハルバード』は素の攻撃力や武技の威力が凄まじいので、どちらが良いかはケースバイケースだろう。


 転移罠に何度も引っかかったので城の中を4日も彷徨う羽目になったが、ついに俺たちはボス部屋の前に出た。化身を作って死亡覚悟の偵察をしたいところだが、化身『人間伊東3号』は詩織たちと一緒に東京で活動している。


「ガーゴイルよりも弱いはずにゃ。心配するにゃ」


 アヤさんがそう言うとモンタロスも首肯する。敵を侮るつもりはないが、今回に関してはとりあえず化身による神風偵察なしで戦うことにした。


 ボス部屋の中はいつもと同じようなホールだった。ただし壁からは炎やマグマが吹き出していて、光熱で鈍い赤色に輝いている。ボス部屋の奥にあるラクスティーケの像の周りだけは熱の影響をあまり受けていないようだ。


<「現れた瞬間を総攻撃で狙うぞ。早すぎるとヒットしないが気にせずに連続で攻撃を続けろ」>

 

 俺がそう命じると背後から声が聞こえた。


「ずいぶんと卑怯なことを企んでいるようだな」


 その台詞と同時に強烈な火炎攻撃を背後から受ける。火耐性が+10あるので致命傷にはならなかったが、2割ほどHPを持っていかれた。


「ご主人さま!」


 ダメスが大げさに叫んで回復魔法を掛けてくれた。もともとはタンクだったが、詩織が抜けた穴を埋めるために、回復を中心に担当するように命じている。元はムカつく男だったが性転換後はなかなか使える女になっている。


「なんだと!? その程度のダメージしか入らないとは……貴様は不死身か?」

  

 敵が驚嘆している間に俺は体制を立て直し、距離を取って敵を【鑑定】する。敵は炎の精霊イフリート。レベルは59だ。

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