第10話 エレベーター塔の試練2(化身視点)
「落ち着け。殺し合わなければならない理由が特にある訳じゃない。話し合おうじゃないか!」
俺は必死になって
「話し合う? あんたダンジョン入り口の守備部隊の大半を殺しただろう。もう遅いんだよ!」
俺達がダンジョン入り口を襲撃したことを中足は知っているようだ。やはり守備隊長の男を縛り上げて放置していたのは失敗だった。あそこは連絡が取れなくなるように容赦なく殺すべきだったのだ。
「もともとはオマエが俺の家と車をぶっ壊して、俺の身体を真っ二つにしたんだろうが!」
「ああ、だから話し合いなんて無意味なんだよ。強い者が弱い者を蹂躙する。ただそれだけだ」
交渉決裂。せめて凛子たち母娘3人の命だけはなんとか助けたい。俺はアイテムボックスから盾を取り出して、じりじりと後退した。
「まってください! 俺たちはこの人に脅されて協力しているだけです。降伏するので中足様の傘下に加えてください!」
入り口を襲撃したときに皆殺しを主張した
「ふむ。いいだろう。降伏する者は武器を捨ててこちら側に来い」
中足がそう言うと半分ほどの隊員たちが、俺を見捨てて中足に降伏する。
「お美しい女性3名は特に優遇しますよ」
中足はそう言ってウィンクした。
「絶対に嫌! 私がパパを守るから。殺すんだったら私から殺しなさいよ!」
普段は大人しい
「歌、あの男は助平だから何をされるかわからないが、女を殺すことはないだろう。お前たち3人が生きながらえるのなら、俺はここで死んでも構わないんだよ」
俺の場合は実際には死なない。獲得したスキルなどが無駄になるだけだ。が、歌は違う。彼女は本気で1つしか無い命を投げ出して、俺をかばおうとしている。
凛子が激しく悩んでいるのは傍から見てもわかった。恩人を裏切る形になってでも自分の娘を守るべき、という考えは理解できる。
「パパは大事だけど……私は死にたくない!」
舞が叫ぶ。まぁ、無理もない。すこし寂しいのは事実だが……。
「
「いや、あんたにはちょっと世話になりすぎちまった。どうせこんなご時世だから長生きする気なんて
稲味は格好をつけてそう言い放ったが、よく見てみるとすこし震えている。俺は嬉しかった。稲味は中足たちの強さをよく理解した上で、それでも俺の味方になる決断をしたのだ。
「凛子、俺のことは気にするな。歌と舞を連れてあっちに行け」
「でも……」
凛子はまだ逡巡している。こんなトロッコ問題を突きつけられたら誰でも悩むだろう。
「私は絶対にパパを守るからね!」
歌はそう叫んだ。号泣しているのでもはや聞き取ることも難しい。
「やれやれ。これじゃまるで僕が悪者みたいじゃないか。女性を害するつもりは最初から無いよ。僕のパーティに入るのが嫌ならば、自由に立ち去ればいいさ」
中足はそう呟いた。
せっかく獲得して+3まで育て上げた【鑑定】スキルと【分析】スキルをロストするのは痛い。睡眠魔法などのスキルも上がっている。しかし、事ここに至っては是非も無し。中足に一時的に勝ちを譲って、リベンジは本体で行おう。
「凛子、歌を連れて離れてくれ。巻き込みたくないんだ……頼む」
俺は凛子の瞳をまっすぐに見つめてゆっくりと言った。
俺の覚悟を感じ取ったのか、凛子は涙を流しながら頷いて、舞と一緒に歌を引き剥がして俺から離れる。
「仲間を巻き込みたくない。1対1の一騎打ちにしてくれ」
「無論かまわないよ。レベル51の勇者であるこの僕が直接引導を渡してあげるのだから誇りに思うといい」
勇者? レベル51になったということは進化しているようだが、ソフィアに【鑑定】してもらはないことにはよくわからない。魔人でないことは確かなので天人というやつだろうか?
「オマエのようなゲスが勇者とは世も末だ」
「ほざけ雑魚が!」
中足が一気に間合いを詰める。疾い。本体ならば余裕で勝てるが、この化身ではどうあがいても勝ち目はない。最初から回避に専念するつもりだったのだが、間に合いそうもない。
駄目だ。死ぬ。
そう覚悟した瞬間に「ガキン!」という音がエレベーターホールに響き渡った。
「エレベーター塔内部での戦闘は禁止されているぞ。
中足の攻撃を弾き飛ばした男は澄ました顔でそう言った。中足は【倍返し】を受けたというのに致命傷ではない。全力では打ち込んでいなかったのだろう。死なない程度に痛めつけてから、不死の秘密を聞き出す腹だったのかもしれない、
「ガラガエル……あんたなんでここに?」
俺がそう呟くと、空のエレベーターが下に降りていった。ガーゴイルを倒した本体が地下55階でエレベーターの操作をしたのだ。
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