第9話 エレベーター塔の試練1(化身視点)

 地下22階でレベル上げを続けて、凛子りんこ稲味いなみはレベル29になり、他のメンバーも全員がレベル26を超えた。みんな順調に成長している。


 一方、俺のレベルは変わらない。本体のレベルの半分に制限されるので、これ以上はレベルを上げられないのだ。


 いまのところは俺についてくることで利益があるので、みんな俺の指示に従っている。が、部下たちが俺のレベル追い越すような事態になったら、たぶん俺の言うことをまともに聞かない奴が現れるだろう。その前に本体である『魔人レオナイト』の圧倒的な実力を見せつけておく必要がある。


 本体が地下55階のエレベーター開放に向かったので、俺たちも地下22階のエレベーターへと向うことにした。


 全員毒耐性を+3以上にあげているので、水上バイクで一気に対岸まで渡る。


 地下22階のエレベーター塔を守護しているのはジャイアント・グローラーという大型の熊だ。リーダー格の巨大な1頭がレベル33で、それ以外がレベル29。敵のほうが格上だが、こちらのほうが数が多い。


 物理が通るので、M202ロケットランチャーと重機関銃で敵の射程外から斉射してリーダーを倒す。咆哮を上げてジャイアント・グローラー達は突進してくるが、土魔法で築いたバリケードに達する前に数は半減していた。それを5体1で確実に倒していった。


「これだけの強敵相手に1人の犠牲者も出さないなんて、あんた指揮が上手いな」

 稲味が感心して言った。


「ほんと、パパの言う通りにしていれば間違いないね!」

 舞も追従して俺を褒める。


「まぁ、この敵と戦うのは初めてじゃないからね」

 俺はそう言いつつ、エレベーター塔の中に入っていった。


「ここで休憩しながら、レオナイト様を待つぞ」


 周りを確認してみたが、ミルチェルはいない。代わり看板が立ててあり、エレベーターの仕様と操作方法が記載されている。どうやら人手が不足しているらしい。いや、人じゃないから「天使手不足」と言うべきか……。

 

 ジャイアント・グローラーとの戦闘が終了するのに合わせて、地下55階では本体がガーゴイル4体と戦闘を開始している。本体と化身の同時操作は厳しいので、化身『人間伊東3号』はここでひたすらボーっとしながら、本体の到着を待つのみだ。


 エレベーターが起動する音が唐突に鳴り響いた。地下55階の本体はまだガーゴイルと戦闘中なのだから、他の何者かがエレベーターを使用しているということになる。


 逃げるべきだろうか? 今は本体の戦いが佳境に入っているので、こちらに意識をまわせないから、指揮を取ることはできない。ろくに戦闘もできないし、全力疾走で逃げることすらもままならない。ふらふらと外に出ていったら却って危険だ。


 エレベーター塔の内部は戦闘禁止というルールの筈だし、この階層を飛ばして上に向かう可能性もある。恐らくここにいたほうが安全だろう。


 だが、俺の希望的観測はあっけなく裏切られ、エレベーターはこの階層で停止した。開いた扉から多数の女を引き連れた見知った顔が現れる。


中足なかたし、やっぱりお前か……」


 友好的な存在がやってくる可能性にすこし期待していたが、やってきたのは俺の家を燃やした宿敵だった。


 中足の容姿は変化していた。魔人のように角は生えていないが、頭の後ろで後光が輝いている。見た目だけは神々しい。前に見たと時は4人組で行動していたが、レベルが低めの女が10人ほど増えている。ハーレムの規模を拡張したようだ。


「あ、メタルおやじ!」


 中足と一緒にいた女がそう叫んだ。レベルは46。たしか「くるみ」という名前の女だ。


「メタルおやじ?」

「あんたレベル25だったのに、5万マカも落としっていったじゃん」


 なるほど。レベルの割にマカが美味しいという意味か。ハーレー・ダビッドソンに乗ってメタリカのコピーバンドをしているおっさんを想像してしまった。


 レベル25なのに5万マカも所有していたのは、たしかに不自然だった。普通はそのマカでレベルを28まで上げる。


「あんた、なんで生きてるんだ? 確かに真っ二つに斬り裂いた筈だが……」

 中足はそう口走りながら剣に手をかけた。


「ちょっと待て! エレベーター塔内部での戦闘は『ことわり』により禁止されているぞ」


 俺はそう叫んで看板を指し示した。

 本体がやってくるまでなんとか時間を稼がねば。下手をしたら、手塩にかけて育ててきた部隊が全滅だ。


「『エレベーター塔内部での戦闘はお控えください』と書いてあるが、禁止とは明言されていない。戦闘が非推奨というだけだろう。エレベーターを担当していた使は地下33階に異動しているから、誰も止める者はいないぞ?」


 どうやらガラガエルが抜けた穴をミルチェルが埋めているらしい。俺は内心で舌打ちした——ガラガエルめ、つくづく迷惑な奴だ!


「そういう時に自制するのが真の英雄ヒーローだぞ。『大いなる力には大いなる責任が伴う』って言葉を知らないのか?」


「ふんっ。馬鹿らしい。罰則のないルールなんて無視すればいい」


 そう言い放って中足は抜刀した。


 

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