第8話 ガーゴイルとの戦い

 しばらくは地下55階の街を拠点にして、街の周囲を跋扈する魔物を倒して回った。そしてマカが貯まると武器屋と防具屋に行って装備をアップグレードする。


「ゆっくりして行け、レオナイトよ。なにしろ下層は退屈でな。下手をするとお前たちが最初で最後の客かもしれん」


 ユリエルはそう言って微笑んだ。普段はむっつりしていてどちらかというと剣呑な感じなので、少し微笑んでくれただけで嬉しくなってしまう。


「<とりあえずさっさとエレベーターだけ開通しますが、しばらく滞在するつもりです>」

「こんど家に遊びに来い。瀟洒な家を建ててもらったというのに来客がまったく無いというのも侘しいからな」


 ユリエルはそう言って広場に面する豪邸に視線を移す。


 こんなに立派な家や街を作っても使う者はかなり少ないのだろう。そう思うと『理』はかなりリソースの無駄遣いをしているようにも感じられる。が、ひょっとしたら『理』は無尽蔵のエネルギーを持っていて、この程度の浪費はどうということはないのかもしれない。


 俺の仮説が正しければユリエルも化身の筈だ。彼女のレベルは62で俺とそう変わらないが、恐らく本体のレベルは124以上。


 俺の【化身】スキルもようやくレベル2になりそうだ。かなり長期間使い続けているが、流石に神性スキルというだけあってスキルレベルを上げるのは容易ではない。最近になってようやくこの【化身】スキルの奥深さが分かるようになってきた。


 神性スキルである【化身】は他のスキルと違ってスキルツリーがある。


 第1のブランチでは化身の数を増やすことができる。と言っても、複数の化身を同時に操るのはなかなか難しい。少なくとも現時点では本体と化身1体を同時に使うのも大変なので、1体を操作している時は1体は休眠状態になるだろう。


 第2のブランチでは化身の能力を上げることができる。時間制限があるが一時的に化身の能力を本体により近づけることができるのだ。このブランチを極めると本体と同じレベルで数時間活動できるようだ。


 第3のブランチでは化身とアイテムボックスやスキルを共有することができる。たとえ化身が別行動中に殺されたとしても、それまでに化身が獲得したアイテムやスキルが無駄にならないで済む。


 恐らく天使たちの本体は高いレベルの【化身】スキルを持っているのだろう。だから、ユリエルはここで暇をしているように見えて、他の化身が一生懸命働いている可能性もある。また強敵との戦闘の際には、一時的にレベルを上げて応戦することもありうる。


 進化できずにレベル46で留まっている晶とメグ姉はそろそろ厳しくなってきた。進化しない限り、この階層のボス戦には連れていけそうもない。人間のままだとレジェンダリー装備のポテンシャルをフルに発揮できないのも辛いところだ。


 今のところ防御重視の装備で土魔法と結界魔法に特化してもらっているが、これ以上敵が強くなるとワンパンとは言わないまでも2発でやられてしまう可能性がある。


 地下55階の敵との戦闘にも慣れてきたので、エレベーター塔の攻略を目指すことにした。エレベーター塔の近くまで全員で移動して、小太郎が斥候として先行する。高レベルの魔物は鑑定を受けると敵の気配に感づくことがあるので、念のために陣地を作って小太郎の帰りを待った。


「レベル65のガーゴイル4体がエレベーター塔を守護しています」


 小太郎によると精神耐性も雷耐性も高いが、主な攻撃手段は火と物理だという。『大魔王ガーマの全身鎧』を着ているので火耐性と物理耐性は+3されており+10と+9とかなり高い。俺の攻撃は通りにくいが、敵の攻撃は更に通らない。俺がタンク役を買って出ることにした。


 単騎で飛び出して行って敵に【天魔断罪】を浴びせる。雷耐性が8あるのであまり効かないが、それでもヘイトは十分に稼げる。そこに仮の陣地に陣取った味方の本体が、光属性の攻撃を1体に集中砲火する。ガーゴイルがいちばん苦手な属性だ。しかしガーゴイルは自己再生能力が高く、なかなかHPを削り切ることができない。


「こっちのもいるホーッ!」


 語尾の「ホーッ」の音程がなめらかに上昇して超音波となり、ガーゴイルが不快感に顔を歪ませる。実際のダメージは大したことが無いようだが嫌がらせとしては秀逸なようだ。教室の黒板に爪を立てるような、そういうたぐいの嫌がらせだ。


 ガーゴイルの1体が迎撃すべく飛び上がる。1対1の戦闘になると敵のほうが強いが、空中での機動力に関しては白姫のほうがやや上だ。巧いこと逃げ回っている。


 光属性で遠隔攻撃をしている味方の本体にガーゴイルが突進しようとすると、アヤさんが飛び出して素早い動きで翻弄する。俺とアヤさんが前後から挟撃する形で【破荒突はすさつき】と【破転爪】を同時に放つとガーゴイルの1体がついに崩れ落ちた。こうなるともはやこちらの優位が決定的になる。


 さらにもう1体を倒すと掃討戦の様相を呈してきた。俺はかなりなりふり構わずスキルを連発して残りの2体を素早く倒した。普段ならばこんなことはしない。むしろ自分ばかりが無双するのではなく、仲間に花を持たせるように心がけている。


 だが、俺はすこし焦っていたのだ。なにしろ化身の『人間伊東3号』が地下22階のエレベーター塔で中足なかたし達に遭遇してしまったのだ。

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