第6話 地下51階

 進化した小太郎はかなり頼りになるので、索敵と偵察は彼に一任するようになった。小太郎が敵を発見したら、感づかれない程度に近づいて簡易の陣地を形成する。そして小太郎が【鑑定】と【分析】をした上で、敵をおびき寄せて陣地まで戻るというのが必勝パターンになった。


 一方、詩織の役割は進化後もあまり変わらない。というのも彼女の特殊能力である【魅惑】や【洗脳】は雄の人型が相手ならば強力なのだが、この階層にいるのは昆虫型ばかりなのでまったく通じないのだ。


 この階層の敵はかなり強い。レベル59の大百足にはかなり苦戦した。あれが、10匹単位で出てきたら逃げたほうが良いだろう。ゆっくりと慎重に探索を進めて遂に下の階層へと続く階段を見つける。階段の先にあった休憩室の扉には『B51F』と書いてあった。


「どおりで強いわけだにゃー」

 とアヤさんが呟く。


「<なるほど地下44階のボスはバイパスした訳か>」

「地下44階を目指して上に行くいう手もあるが……どうするオヤカタサマ?」

「<むろん地下55階を目指す。しばらくはここをベースキャンプにしてレベル上げとトレハンだ>」


 モンタロスの問に俺は即答した。確かに地下44階を目指したほうが安全だろうが、あまりにも時間がかかりすぎる。


 1週間ほどレベル上げすると、俺のレベルは58になった。晶とメグ姉は人間のままなのでレベル46でカンストしてしまっているが、それ以外の主要メンバーは全員レベル50を超えた。マカはちょくちょく100万単位で配っている。俺だけが突出して強くなってもバランスが悪いし、自分基準で物事を考えて無理をしすぎる恐れもある。


 優れた防具やアクセサリーは晶とメグ姉に優先して渡している。最近はヒーラーを2人にませて、詩織が中衛まで出ることが多くなった。晶は補助魔法と結界魔法、メグ姉は回復魔法と土魔法のスキルを優先して磨いている。最近は陣地づくりも2人に任せることが多い。


 なんだかんだと言って『大魔王ガーマの全身鎧』を押し付けられなかったら、これほどマカに余裕が出ることもなかった。地下50階に降りた時にエスカトニック・スコーピオンの群れを倒すのも難しかっただろう。レベルが上がるに連れて、この全身鎧を着て活動するのが楽になってきた。


「チームで戦うのだからもう少し厳密に役割分担を決めたほうが良いのではないか?」


 モンタロスが進言する。得意なスキルや属性がすこし被りすぎているので、的を射た指摘だ。


 とりあえず特異な属性をバラつかせることで、どんな敵にも対応できるようにする。

 俺は雷、アヤさんは炎、小太郎は風、メグ姉は土、詩織は水、白姫は氷、モンタロスは光、ブラックモアは闇を重点的に鍛える。晶とアクラとニャンキーについては全属性を満遍なく鍛えてもらう。


 1週間ほどのあいだ地下51階の休憩室を拠点にレベル上げに専念していたが、パーティメンバーのレベルも上がってきた。そろそろ地下52階を目指して探索を進めていく。地下55階のオープンフィールドまでなるはやで攻略したい。


 いつもは小太郎に先行してもらうのだが、ふらふらと言った感じで俺が先行してしまった。化身のほうに意識が取られているので、ほぼ無意識の行動と言って良い。


「ビュッ!」という風切り音で俺は我に返った。自分に向かって複数の大矢が放たれている。ヘッドショットはかろうじて避けたが、HPを半分近く削られてしまった。敵の奇襲だ。


 化身のほうから意識を強制的に引き戻して、集中して対応する。敵はレベル59のエリート・サイクロプスが6体。数ではこちらが上とはいえかなり強い敵だ。防御に専念しながら後退すると、詩織の治癒魔法で体力が回復する。


「私にお任せください!」


 詩織はそう言うとサキュバスの特殊能力である【魅惑】を使った。あっという間に3体ほどが魅惑され、矢を射るのをやめてぼーっと呆けたように佇んでいる。


 詩織はすかさず【洗脳】を続けて掛ける。すると2体のエリート・サイクロプスが完全に洗脳されて同士討ちを始めた。


 こうなると楽勝だ。洗脳されていない敵に攻撃を集中させて壊滅させる。詩織は洗脳されたエリート・サイクロプスをそのまま引き連れて、次の戦闘で使い捨ての駒のように使った。


 最近の詩織はちょっと怖いぐらい頼りになる。俺はふらふらと前に出ることがないように、鬼姫アクラにおんぶされた状態で進むことになった。まるで幼児だ。


 この階層の宝箱からはたまにレジェンダリーのアイテムが出るので、装備品も徐々にパワーアップしている。防御力を上げるアイテムについては晶とメグ姉に優先して渡す。


『鉄壁の指輪』というレジェンダリー・アクセサリーはメグ姉に与えて、例のルビーの指輪の代わりに付けてもらった。全属性攻撃を25%カットした上にHP自動回復能力もある優れものだ。思い出も大事だが、戦闘では役に立たない。


『まほろばの盾』というレジェンダリー装備も出た。物理ダメージカット率100%で、その他の属性すべてのカット率が60%を超える。これは晶に渡した。


 かなり強力な装備だが、これでもポテンシャルをフルに発揮できていない。2人が進化すれば更に強力な防具になるだろう。


 カンストしたまま進化できないでいる2人だが、これで不慮の事故は防げる筈だ。地下55階についたら2人が進化する方法を探るとしよう。

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