第4章 転移

第1話 やっぱりサキュバス

「隠し部屋を見つけたにゃーん」


 アヤさんが【念話】を使って報告してきた。


 東京で活動している化身『人間伊東3号』にメインの意識を置いているので、本体である『魔人レオナイト』の方は何もしていない。現在は地下35階の探索をみんなに任せて、【眷属召喚】で呼び出した鬼姫アクラの侍女に介護されている。


 ひたすら「ファック……」と呟きながら、【鋳造】スキルを磨いたり、「もみもみ」と「ぱふぱふ」を繰り返している。良いご身分である。『大魔王ガーマの全身鎧』による呪いは未だに辛いが、だいぶ慣れてきた。着始めた当初の絶望的なうつ状態はすでに脱したと言ってよいだろう。


 アヤさんが隠し部屋を見つけたのは地下35階の探索もほとんど終わった頃だ。現場に駆けつけてみると、なんの変哲もない壁が忍者屋敷の「どんでん返し」のようになっていた。


<「アヤさん、よく見つけたね!」>

「ふふふ。まーにゃ」


 アヤさんは胸の前で腕を組んで鼻高々なご様子だ。


「大技を敵に躱されて、壁にぶつかったんですよ。そうしたら壁がくるくる回りだして、あのときのアヤさんの慌てふためいた様子ときたら……思わず吹き出しちゃいました」


「シオリーッ! レオニャには言うなって言っただろぎゃあ!」


 半分本気で殴りかかったアヤさんの一撃を詩織は紙一重で躱す。低レベルの者ならばかすっただけで即死だろう。詩織も強くなったものだ。


「ひええ、ごめんにゃさーい!」


 詩織はアヤさんの喋り方を真似しながら逃げていく。どうやらからかっているようだ。アヤさんは本気度を上げた動きで詩織を追いかける。


<「結果オーライだ。みんなもアヤさんを見習って隠し通路やどんでん返しを見逃さないように探索を続けてくれ!」>


 この調子でアヤさんが熱くなると、刃傷沙汰になりかねない。俺はアヤさんを大げさに褒めてこの場を収めることにした。全員で盛大な拍手を送ると。アヤさんは満足げに喉を鳴らす。


 どんでん返しの先には大きな空間があって、大型の螺旋階段が設置されていた。

 天井は異常に高い。薄暗いこともあって、見上げても天井がよく見えなかった。上部の様子を確認すべくみんなで階段を上る。


 ——長い。こんな長い螺旋階段は初めてだ。天井に到達するまでに小一時間ほどを費やすことになった。


 天井には魔法陣が描かれた御札が張ってある。隠し扉の裏側などに貼ってあるのと同じものだ。


「うわっ!」

「ニャンだこりゃ!」

「ファック!」


 何も考えずに半ば条件反射で剥がすと、すごい勢いで上から水が流れ落ちてきた。

 見覚えのある魚も一緒に流れ落ちてくる。メタル・ティース――ピラニアに似た鋭い牙を持った魚だ。水がすべて流れ落ちると、俺たちは天井の上に顔を出してみた。


「ここは……地下26階の狩り場だな!」

 モンタロスが驚愕の声を上げる。

 

 なるほど、こういうパターンもあるのか。あのとき気づいていれば、一気に地下35階まで進めることができたのか……。でも、そうしたら新しい仲間に出会わなかったかもしれない。結果的には気づかなかくてよかったのかもしれない。


 さっそく晶に【念話】で連絡する。


『晶、いまどこにいる?』

『地下27階です!』

『地下26階から35階に下りるショートカットを見つけたから、池のある大部屋まで戻ってくれるかな?』

『了解です!』


 思いのほか早く合流できそうだ。とりあえず辺りにいる魔物を一掃して宝箱だけ開けてすぐに地下35階に戻る。


<「池がある場所を再び見つけることがあれば、徹底的に調査したほうが良さそうだな」>


 とソフィアの声で呟きつつ、地下36階の休憩室に入った。



「シオリーもそろそろ進化する頃じゃにゃいのか?」


 両手のひらで詩織の尻をムニュムニュと交互に押しながら、アヤさんが尋ねる。別にユリという訳ではなく、単にさわり心地が気に入っているようだ。猫の習性として押したくなる肌触りと弾力性らしい。


 アヤさんはすでにレベル49になっている。獣人はレベル47になると上位獣人となるが、コクーンに入ることなく自動で上位獣人への変化する。見た目も劇的には変化しない。一方、詩織の場合は俺のときと同様にコクーンに入る必要がある。


<「それで、進化先はどうするんだ?」>

「それが進化先は選べないようです。選択肢が1つしかありません」


 詩織は眉を八の字にして困惑したように言った。


「それで、その1つってのは?」

「サキュバスです」

「あ、やっぱり」

「……どういう意味ですか?」

「こういう意味です」


 そう言いながら、俺は彼女の豊満な房をした。すると詩織は「セクハラはやめてください!」と言いつつ躰を擦り寄せてくる。


 人間である彼女とお楽しみができるのも今のうちだ。サキュバスに進化してしまったら、とてもではないが俺ひとりの手には負えないだろう。そんな予感がする。




*****


投稿間隔が開いてしまって申し訳ございません。待っていてくれた皆さんどうもありがとうございます! 完結を目指して頑張ります。

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