第15話 旧自衛軍との対話

「魔人レオナイトの手の者だ。不二多ふじた閣下にお目通りを願いたい」


 戦闘可能領域外に設置された自衛軍の本陣を訪ねてみた。ダメ元で不二多有恒ふじたありつねへの面会を要求する。魔人レオナイトについては『ことわり』のウェブサイトで大々的にフィーチャーされていたのだから、不二多も本体のことは知っているだろう。


 1時間ほど待たされたが、意外なことに面会の要求は通った。本体のレベルが上ったので合わせて俺のレベルも29になったからかもしれない。世間ではレベル10以上の者を「強者」と呼び、レベル29以上の者を「超人」と呼んでいる。レベルが29になると目に見えて周りの反応が変わった。


「魔人レオナイトというのはてっきり海外の巨大ダンジョンを攻略中のものかと思っていたが、こうして使者がやってきたということは日本国内のダンジョンなのか?」

 両脇に葛飾男爵と松戸男爵を従えた不二多は開口一番こう言った。


「左様でございます」

 俺はひざまずいたまま、慇懃いんぎんな調子で返答する。


「それで日本のどこなのかな?」

「それは重要な情報ですね。友好的な関係を結んで頂けるのでしたら、お伝えすることもできますが……」

「レオナイト殿がどういう御仁か知れぬ。決めかねるな」

 

 どうやら不二多はあまり良い印象を持っていないらしい。あの写真を見たのだから無理はない。


「レオナイト様のレベルは59で現在は地下54階を攻略中——つまり明日にでも日本のどこかに侯爵領が出現するかもしれない、ということです。誼を結んでおいたほうが双方にとって得策だと思いますが?」


「レベル59で地下54階だと!? ブラフだ。あのイーオン・メロン=カモネギーですらようやく進化してレベル47になったところだというのに、いくらなんでもそんなに先行しているはずがない!」


 脇に控えていた松戸男爵の棚橋が席から立ち上がって叫んだ。


「無理に信じる必要はありません。当方との友好関係を望まぬと言われるのであれば是非もない。このまま神楽殿の陣地に赴いて彼らと誼を結ぶことにします」

 俺はそう言って、立ち上がった。


「待たれよ、ご使者殿!」

 葛飾男爵の重森が声を張り上げる。


「本当だったらどうするつもりだ、棚橋? 少なくとも1ヶ月ほど前にレベル47になっていたのは間違いない。レベル59になっているという話は本当かも知れない」


「そうは言うがな、重森よ。この男が言っていることをどこまで信用して良いのかさっぱりわからない。本当にレオナイトの使者なのかどうかもわからないのだ。同盟関係など到底不可能だ」


 その後、彼ら3人は額を突き合わせて小声で相談し始めた。【地獄耳】スキルを持ってしても完全に聞き取ることはできないが、「気持ち悪い」とか「暗い」というような単語には耳のほうが敏感に反応してしまう。やはりあの写真が与える印象はかなり悪いようだ。


「申し訳ないが、しばらく隣室でお待ち願おう」

 重森にそう言われたので、俺は素直に従った。


 小一時間ほど待ったところで、重森が独りでやってきた。


「相談した結果、貴方がたがダンジョンをクリアして領土を獲得するまでは正式な外交関係は結ばないことになった。が、非公式なかたちで友好的な中立関係を築きたいと思っている。できれば神楽たちに味方するのもやめてもらいたい」


 ずいぶんと勝手なことを言っている。それは重森も分かっているのだろう。表情が冴えない。


「はぁ、なるほど。とりあえずはそういうことにしておきましょう」

 俺はそう言って右手を差し出した。

 重森は俺の右手を眺めながら、握手すべきか否か逡巡している。


「握手すらできない関係である、と主には報告せざるを得ませんな」

 俺がそう言うと、重森は慌てて俺の右手を握って作り笑いを浮かべた。

 

 ミッションコンプリート。

 正直言って、旧自衛軍との友好的な関係はあまり期待していない。

 本当は「盗視聴ミミズ」を不二多に擦り付けたかったが、旧自衛軍勢力の幹部から情報を入手できるようになるのだから上出来だろう。


 そろそろ本体が地下55階に到達する頃だ。パラシュートも確保できたし、30名ほどの新メンバーもスカウトした。数日中には本体もエレベーターにアクセスできるようになるだろうから、最小限のリスクで合流できる。


 一旦「裏庭ダンジョン」に帰るには良い頃合いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る