第14話 代々木城の戦い

 代々木で城攻めが行われるという情報を入手すると、さっそく見物に出かけることにした。東京での戦闘は認められていないが、代々木は神楽かぐらの領地なので別だ。戦闘可能領域をわかりやすく示すように緑色の光の壁で、代々木男爵領は区切られている。


 中足が統治する相模原男爵領は広大な相模原市の半分ほどを占めるが、代々木男爵領はずっと狭い。それでも住んでいる人間が多いので、領地から得られるマカは相模原よりも多いようだ。渋谷や表参道といった都心の一等地も領地に含まれている。


 駒場東大前駅近くのビルが屋上に特等席を設置していた。料金は1人50マカだ。戦闘可能領域からぎりぎり外れたあたりで、眼下に布陣している自衛軍を至近で眺めることができる。


 稲味いなみたちが合流したので大所帯になってきたが、全員分の料金を俺が払って特等席を確保した。東京で購入した高性能のミラーレス一眼カメラに望遠のズームレンズをつけて動画を撮りながら彼らの様子を確認する。


 自衛軍残党の動きは早かった。

 ここに来る前、統合作戦本部長の不二多ふじたは自ら部隊を率いて「我孫子ダンジョン」に潜っていた。ダンジョンをクリアして我孫子男爵になったのがつい3日前。領地経営もほどほどに代々木城に標準を合わせて電光石火の早業を見せたのだ。


 なにしろ神楽達はオリジナルパーティーのメンバー全員で「久我山ダンジョン」の攻略に向かっているのは周知の事実なのだから、妥当な判断だろう。ダラダラとダンジョン攻略を続けて隙を見せてしまった神楽がアホなのだ。


 葛飾男爵と松戸男爵の軍を合わせた自衛軍残党の数はおよそ500名。数の優位は明らかだった。


 守る側は代々木ダンジョンのラスボスだったリッチが率いる神楽配下の軍勢だ。物理耐性が強いアンデッド系なので、自衛軍相手ならば相性が良さそうだ——そう予想したが、間違いだった。ここで展開している自衛軍の連中は詩織が所属していた部隊とはまるで違っていた。


 光魔法の使い手の数は多くないが、それでも30名以上いる。更にほぼ全員が何らかの魔法を使いこなしていた。彼らの動きには無駄がなく統制が取れている。もともと戦闘のプロだけあって「魔法」というハードルさえ越えてしまえば強い。


 軍の4WD車両から合計6発の対戦車ミサイルが発射され、代々木城の正門を粉砕する。反則的な威力だ。


 しかし自衛軍が城内になだれ込んだところで、久我山ダンジョンから戻ってきた神楽達が自衛軍の本陣を後ろから急襲した。タイミングを合わせるかのように、城内からリッチに率いられたアンデッド軍団も打って出る。


 流石に地下33階まで行っても揉まれただけのことはあって、神楽のレベルは42になっていた。麗奈ですらレベル32になっている。これは舞には会わせないほうが良さそうだ。


 自衛軍が優位だったが、ここに来て攻守が逆転する形になった。


「即座に戦闘可能領域から撤退」


 戦闘に直接従事している麗奈の視聴覚情報も共有しているので、不二多の声がよく聞こえた。

 自衛軍は戦闘可能領域の境目あたりまで撤退すると、遠距離攻撃を行い、間髪入れずにすかさず戦闘可能領域の外に出る。ちょっとこすい戦術だが、この条件下では有効だ。


「汚ねぇぞてめぇら!」

 ここまで聞こえるほどの大音声で神楽が叫ぶ。が、不二多は取り合わず、粛々と戦闘に必要な指示のみを出している。


 星屋にたしなめられて、神楽たちも同様に戦闘可能領域の外に出た。そして一歩踏み込んで領域内から撤退中の敵兵を攻撃して、即座に領域外に引いた。そんな行為を繰り返している内に両軍ともに戦闘可能領域の外ぎりぎりのところで待機する状態になって、戦闘は膠着した。


 痛み分けと言ってもいいが、自衛軍の死者は10名ほど。一方、代々木軍の魔物は100匹ほど倒され、城門も破壊されている。更に女のパーティメンバーも数名死亡したようだ。どちらかと言えば代々木軍の損失のほうが大きいだろう。


 それでも神楽は幸運だった。久我山ダンジョンの地下33階に行ってエレベーターを開通した直後に、彼は自分の城が攻められているのを知ったのだ。もし城攻めが始まったときにエレベーターから遠い階層にいたら、為すすべもなく城を奪われていただろう。

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