第6話 パパ活バンザイ

 町田や入間にもダンジョンはあるのだが、天使軍の管轄外なのでPKの被害者が多数発生しているという。

 安全なもので一番近いのは久我山ダンジョンだ。地下11階までは天使軍が常駐しており、PKの恐れがない。すでに地下22階はクリアされているが、地下12階より下はPKが禁止されていないので、腕に自信のある高レベル者しか立ち入らないようだ。


 ダンジョンに潜る前に情報収集をしっかりとしておきたい。香月母子の案内で俺は吉祥寺の「シヴァドヨカメラ」へと買い物に行った。


「マカのクレジットカードはまだ使えないけど、プリペイドカードならば作れるよ?」

 凛子にそう言われたのでカードを作っておくことにした。支払うたびに現金を【鋳造】するよりは、スマートに買い物ができるだろう


「お客様、おいくらほどお預けになりますか?」

 カード作成担当の受付嬢は俺の額のマークを見て緊張している。彼女のレベルは2だ。やはりリスク削減のためにレベル10まで貯めるつもりなのだろう。


「そうだなとりあえず2万マカほど——」

「に、2万!」

 

 受付嬢は目をひん剥いて大袈裟なほど驚いている。


「て、店長! レベル26のお客様が——!!」

 受付嬢はそう叫びながら店の奥へと駆けていった。


 その途端、あたりがざわつき始める。


「おい、聞いたかレベル26だってよ」

「ああ額を確認したが、間違いない。すげぇな。あんな高いレベルの奴は初めて見るよ」

「どおりで……なんか圧倒的なオーラを感じてたんだよな」

「レベル26って天使軍の連隊長クラスじゃねぇか、パネェ」


 うっ……、なんか注目されてる。しかし、レベル26の化身でこの反応なのだから、レベル52の本体を見たら心臓麻痺で亡くなるかもしれない。『大魔王ガーマの全身鎧』の禍々しい気にやられて、見る前に気絶するかもしれんが。


「お客様、大変申し訳ございませんが、この店で作れるプリペイドカードは3000マカが限度でして」

 店長がやってきてそう告げる。店長もレベル2だ。周りを見渡してみるが、レベル3以上の人間は数えるほどしかいない。レベル10以上の4人組というのはかなり特異な存在のようだ。

「じゃぁ、3000マカでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 店長とそのようなやり取りをしてしばらくその場で待機していると、中学生ぐらいの女子がこちらに歩いてきた。


「あれぇ、舞ちゃんじゃない。レベル10に上がったんだー……、おめでとうー」

「あ……麗奈れなちゃん。ありがとう」


 舞の知り合いのようだが、彼女の態度から察するにそれほど仲は良くないのだろう。お祝いの言葉とは裏腹に、麗奈という少女は面白くなさそうな顔をしている。


「でもねぇ、そこから上に行くのが大変なんだよねー」

 麗奈という娘はそう言って誇らしげに、額を誇示した。レベル12だ。舞は「はぁ」と気のない返事をしているが、麗奈は気にせずに続ける。


「麗奈はねぇ、これからパパとダンジョンに潜るの。パパってレベル19で光魔法が使えるのよ。ゴーストやレイスだって一撃なんだから!」

 どうやら麗奈という娘はレベル10になった舞に対抗意識を燃やして、マウントを取りに行っているようだ。


「えー、レベル26のお客さま、カードがご用意できました」

 その時、カードを作り終えた店長が俺に声を掛けた。


「レ、レベル26!?」

 麗奈は俺の額に目線を移し、驚きのあまり両手で口を塞いでいる。


「レベル26の人と、ど、どういう関係なのっ?」

 麗奈は狼狽しながら舞に尋ねる。


「私のパパよ!」

 舞はそう言うと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。懇願するような表情の舞と目が合う。


「そういえば舞と歌にお小遣いをあげてなかったな」

 俺はそう言うと3000マカ硬貨を2つ【鋳造】して、2人に渡した。


「パパの前でレベルアップするところを見せてくれないか?」

 俺がウィンクしてそう告げると、舞はその場でレベル13までレベルアップする。


「麗奈ちゃん、そこから上に行くのは大変だけど、頑張ってね」

 舞は胸を張って意趣返しをした。得意の絶頂と言った表情だ。


「なっ!? すぐに追いつくんだからっ!」

 麗奈は捨て台詞を残して走り去っていく。


「伊東さん、すみません。つい見栄を張ってしまって……」

 麗奈が視界から消えると舞は罰が悪そうに頭を下げた。


「むしろ嬉しかったよ。こんな可愛い娘を持ってみたいと思ってたんだ」

「じゃあ、今日からパパって呼んで良いですか!?」

 舞が目を輝かせて尋ねた。

 

「もちろん。さぁ、歌ちゃんもレベルアップしちゃって」

「本当に良いんですか?」

 俺が頷くと歌もレベル13になる。すると歌はもじもじしながら尋ねた。


「私もパパって呼んでいいですか?」

「もちろん!」

「じゃぁ、私もパパって呼んじゃお〜」

 おどけた調子で凛子りんこがそう言った。


 こういう健全なパパ活もなかなか良いかもしれない。

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