第7話 この娘にしてこの父あり
久我山ダンジョンに突入する前に、電源が使えるカフェに入ってノートパソコンで情報を収集する。『
『
メグや小太郎から情報を仕入れた時は
リンクをクリックして記事を読む。内容を要約するとこんなところだ。
新たに男爵に叙された神楽は20歳のフリーターだった。岩手県から上京してアルバイトで糊口をしのぎながら、動画配信者を目指していたが人気はなかった。
人生に絶望した彼は昼間から代々木公園のベンチに座ってアルコール度数9%の缶チューハイをがぶ飲みしていた。つまみとして買っていたポテチを付近にいた鳩たちに与えていると、通りすがりの会社員風の男に注意された。公園でハトに餌を与えるのは禁止されていたのだが、神楽は機嫌が悪かったので逆ギレした。
その会社員風の男の胸ぐらを掴んだその瞬間、額に疼痛が走り、目の前にダンジョンポータルが出現していたのだ。
その会社員風の男の名は
「明日、『代々木城』で新メンバーのオーディションをするってさ」
俺の読んでいる記事に気づいた凛子の声が後ろからする。「代々木城」というのは、代々木公園のダンジョン跡地に昨日出現した神楽の城だ。
「寄らば大樹の陰って言うけど、そのぶん自由も制限される。とりあえずはこの4人で独立パーティとしてやっていこう」
神楽の人となりは気になるが、わざわざオーディションを受けようとは思わない。自由な立場で世界の有り様を調べたい。
その日はダンジョンに潜ることができなかった。入場数が制限されているので、朝から並ばないと難しいらしい。吉祥寺の三つ星ホテルに宿を取ったが、たったの20マカで泊まることができた。「裏庭ダンジョン」の地下33階の宿は一泊500マカなのだが、この20マカの宿のほうが遥かに豪華だ。金銭感覚が変になる。
翌朝は早朝から入場待ちの行列に並んだ。
「まるで人気のテーマパークだな」
俺は人が多いところがあまり好きではないので、思わずため息がでる。
3時間ほど並んで、ようやく俺たちの番がやってきたが、眼の前に男が立ちふさがった。
「今日はこれまでだ」
ダンジョンポータルの警備部隊の隊長らしき男が野太い声で告げる。その隊長の脇には昨日電気店で会った麗奈という女の子が意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「あら、舞ちゃんじゃない。残念ねーぷぷぷ」
どうやら彼女の知人のようだ。ひょっとしたら父子かもしれない。
「おいおい、公私混同だろう。ゲートを私物化して許されるのか?」
「そんなことは無い。たまたまお前達の番でいっぱいになったのさ。明日また来るんだな——たぶん結果は同じだろうけどな!」
そう言うと隊長は呵々大笑した。
すると俺たちの後ろに並んでいた男が人目につかないようにこっそりと隊長にマカを渡した。隊長はわざとらしくあさっての方を向いて、その隙に男はゲートを通り抜けてダンジョンの中に入っていく。
「お前、入場券を発券しなかっただろ。賄賂じゃないのか?」
「さぁ、なんの事だ。証拠でもあるのか?」
くそっ、スマホで撮っておけばよかった。
「おいっ、あんた見てただろ。証言してくれ!」
俺はダメ元で隊長の部下らしき男に声をかけた。筋肉質の身体をした禿頭の男で、ラテン系っぽい雰囲気がある。ん、どこかで見たような?
「隊長、賄賂は駄目ですよ。それにまだ入場制限するほど入れてないじゃないですか?」
「おい、新入り! てめぇは分かってねぇようだが、ここでは俺がルールなんだよ!」
「ルールは東京を統治する正天使アウストレイヤ様が決めることでは?」
「はっ! 新任の天使の名前なんてよく覚えてるな。あんなのはただのお飾りなんだよ。現場のことは現場で決める。お前、性根を叩き直してやるからちょっと来い!」
隊長はそう言うと、新入りと呼ばれた男の胸ぐらを掴んだ。そして近くにある雑居ビルの方に強引に引きずって行こうとする。どうやら守備隊の詰め所として使用しているビルのようだ。
しかし、新入りは微動だにしない。
「なっ……、レベル14の分際でなんて力だ」
隊長が驚きの声を上げた瞬間。その新入りは天使の姿に変化した。
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