第10話 僕と白姫の冒険(晶視点)

 僕は中学生の頃に不登校になった。いちおう卒業はさせてもらったが終盤はほとんど出席していない。見た目が女性的なことを揶揄からかわれることはあったけど、深刻なイジメがあった訳では無い。ただ単に大きな集団に属するのが子供の頃から苦手だった。


 家は父子家庭だったけど、父にはとても感謝している。学校に行きたくないという僕の我儘を認めてくれた。なによりも16歳の誕生日にシロフクロウの白姫しらひめを買い与えてくれた時は本当に嬉しかった。


 人間同士、とりわけ大勢の人間とのコミュニケーションが苦手な僕にとっては白姫だけが心の友だ。


「シューターズ・クラウド」が出現したあの日、僕たちはパーティを組んだ。それは当然の成り行きだったと思う。白姫が外に出たがっているのを感じて、僕は彼女を自由にした。すると僕はなにもしていないのにレベルが上がった。思わずガッツポーズがでるようなすごい高揚感とともに額のマークが「二」に変わった。


 理由は白姫だった。彼女は外を飛び回って、魔獣化した小動物を狩っていたのだ。


 悲劇は4日目に起こった。魔獣化したツキノワグマが里まで降りてきて被害者が出たため、猟友会のメンバーを中心に山狩りが行われたのだ。父はそのメンバーにボランティアで参加したのだが、帰ってくることはなかった。


かたきをとりに行こう」


 レベル3に上がった時に僕はそう決心した。魔物の発生源は集落から山側に5〜6kmほどの場所だということはほぼ特定されていた。僕は長期的な山籠りにも耐えられるようにバックパックに荷物をたくさん詰め込んで家を出た。


 家の近所の魔物はレベル1が多かったが、発生源に近づくにつれレベル2や3の魔物が増えてくる。だけど白姫はとても強い。同じレベルだったらまず負けなかった。


 僕はどちらかというと虚弱な体質だったけど、レベル3になるとすごく元気になっていた。家にあったナタを武器として持ち歩いていたけど、軽々と振り回すことができた。


 日が暮れる頃になって僕たちは山奥にぽつんとある民家についた。都会からきた変人が住んでいることで、地元ではちょっと知られている家だ。


「都会から来た人間があんな不便なところに住めるはずがない。どうせ1年もすれば引っ越していくよ」

 みんな口々にそう言っていたが、そのおじさんは意外としぶとく住み続けた。登山道の近くにある家なので、一度だけそのおじさんの姿を見つけて挨拶したことがあるが、普通に挨拶を返してくれた。


 呼び鈴を鳴らしてみたが、おじさんは留守だった。外にある水道を勝手に使わせてもらって飲水を補充させてもらう。


 するとヤツが現れた。


 その熊はレベル7になっており、ツキノワグマというよりもヒグマぐらいのサイズ感があった。しかも動きがものすごく速い。

 でも僕たちもレベル5になっている。僕が足を引っ張らなければ十分に勝機はあるだろう。

 

 熊には空中に逃げた白姫を攻撃する手段はない。

 だから熊はそのあいだ僕を標的に定める。僕がやることは逃げに徹して、白姫が攻撃する隙を作ることだ。僕を夢中になって追いかければ大きな隙ができる。

 

 この作戦は最初のうちは上手く行っていた。だが家のL字型になっている部分の外壁に僕は追い詰められてしまった。倉庫の側に横たわっていた腐りかけた鹿の死体に目を奪われたのが原因だ。


 横に飛び退いて熊の突進をかろうじて交わしたが、僕は転んでしまった。熊はすぐに反転して僕に向かって襲いかかってくる。熊の背中側には家があるので白姫も背後からの奇襲が掛けられない。


 その時、ふと地面に落ちている手斧が目についた。こんなところに手斧が落ちているなんて不思議だが、これぞ天佑てんゆうだろう。

 僕は手斧を掴むと熊に向かって思いっきり投げつけた。

 

 まぐれ当たり。でも当たりは当たりだ。

 こちらに向けて突進していた熊の額に斧が食い込んだ。

 白姫がすかさず首筋にくちばしを突き刺して、熊はついに事切れた。そして僕たちはレベル6に上がった。


「ホーホー」

 白姫が何かを見つけたようだ。彼女に付いていくとそこには地下へと続く階段があった。


 それは「シューターズ・クラウド」が出現して5日目のことだった。

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