第11話 親パーティと子パーティ

 レベル差があるせいか晶くんたちはかなり緊張していた。が、ダンジョン内の街には守護天使がいて街中での戦闘が禁止されている、ということを知るとだいぶリラックスできるようになったようだ。ルールを破って攻撃を仕掛けた者は天使により罰せられる。


 街の守護聖人であるウンブリエルに挨拶する。地下33階のガラガエルとは違い常識的な普通のおっさんだった。彼の趣味に合わせて、地下22階の街は外食系の店を充実させるつもりだという。


 一方、地下33階の街は道具屋や防具屋の品揃えが良かった。階ごとに守護天使の好みが反映されるようだ。


 地下22階の食堂でラーメンと餃子を食べながら、晶くんたちと談笑する。腹が膨れてきてだいぶ落ち着いてきたようだ。

のパーティに入れてもらうことはできませんか?」

 上目遣いで晶くんが尋ねた。


「入れてあげたいのはやまやまなんだけど、君たちは地下33階までエレベーターで行けないんだよね。でしょ?」

「そうなのだー」

 なぜかここまで付いてきて一緒に食事しているミルチェルが答える。仕事のときだけエレベーターに戻れば良いということになっているらしい。ホワイトな職場で羨ましい限りだ。


「でも、一旦パーティに入ってもらおうか。そうすればソフィアがいろいろと情報を入手できるだろうから」

「ソフィア?」

「あ、このヘッドギアの中の人。いろいろと情報を解析することができるんだ」


 とりあえず晶くんと白姫ちゃんには臨時メンバーとしてパーティに加入してもらうと、ソフィアがすぐに分析を始める。晶くんのレベルは30だが、白姫ちゃんのレベルは29だ。ずっと一緒にレベルアップしていたので、不思議に思っていたところだという。


「白姫ちゃんはカンストしてしまってるね。レベル30になるには『進化の実』が必要だ」

 進化先はアヤさんのときと同じで、上位魔獣、獣人、聖獣のどれかになる。


「どこで手に入るか知っていますか?」

「宝箱でたまに出る。下層に行くほど出やすくなるね。地下33階の道具屋でも100万マカで買えるよ」

「100万マカ……ですか。正直言ってピンときません」

鎧カニアーマード・クラブが一匹360マカだから、2800匹分ぐらいだね」

「そんなに!? 僕たちが倒した数よりもずっと多いじゃないですか!」

 

 鎧カニばかりを倒していたので、晶くんにはこちらのほうが通じるようだ。


「4つ持ってるから1つあげてもいいよ」

「えっ、でもそんな高価なものを貰っていいのでしょうか……」

「もちろん只じゃないよ。晶くんの躰で返してもらう」

「えっ!」


 晶くんは耳まで真っ赤になってもじもじしながら「そんな……困ります」と呟いている。


 思ったとおりだ。レベルアップするたびに自分の理想の姿に近づいていくのだとしたら、彼は元々「美女」になりたかったということになる。かわええのぅ。この初々しさがたまらん。


「冗談だよ。そうだな……そう言えば、『親パーティ』と『子パーティ』という概念が実装されたのは知っているかな?」

「いえ……なにしろずっと毒沼の孤島にいたので何も知りません」


「子パーティ」が獲得するマカの一部が「親パーティ」に徴収されるという制度だ。また、子パーティのリーダーは親パーティのリーダーと【長距離念話】で話すことができるので指揮系統に組み込むことが可能になる。


「晶くん、提案があるんだが……俺たちの子パーティにならないか? これはそのための初期投資だ。進化すれば君たちは死ぬ確率が大幅に減るし、俺たちは長期的に利益を出す可能性がある」


 子パーティから徴収する「税率」は10%~50%の間で設定可能なのだが、一番低い10%に設定する。100万マカの投資を回収するのにかなりの時間を要しそうだが、【長距離念話】を使って他の階層の状況を知ることができるというのは便利だ。


「ホホホホホホッホーホーホッホッホホホー」

 晶くんと白姫ちゃんは顔を突き合わせて、文字で表現するとゲシュタルト崩壊を起こしそうな鳴き声で相談する。


「そんな条件でよいのでしたら、ぜひ! べ、別に躰ではr……」


 語尾はフェードアウトして言ってよく聞き取れなかった。

 萌える。


 最近の詩織は性的快楽に貪欲すぎて、相手をするのがちょっとしんどい。

 甘いものをずっと我慢していた頃に「死ぬほどチョコパフェ食いてぇ」と願っていたら、実際に食べることができた。目出度い。スーパーハッピーだ。


 が、いつの間にかチョコパフェが主食になってしまった。秋刀魚さんまの塩焼き定食が食べたいときでもチョコパフェ。イカの塩辛が食べたいときでもチョコパフェ。常にチョコパフェ。朝昼晩とチョコパフェが続く。そうすると甘党の俺でも流石に耐えられなくなってきた。


 そんな感じの贅沢な悩みを持っているので、晶くんの態度に萌えてしまう。人間というのはつくづく無い物ねだりなのだ。


 晶くんと白姫ちゃんには子パーティを結成してもらう前に、一緒に地下11階を見学することにした。地下11階のボスと闇騎士は放置したままなので、地下33階のボス戦をする前に前菜代わりとし倒しておこう。


 エレベーター塔に向かうと魔獣が湧いていた。ジャイアント・グローラーというレベル33の巨大な熊が12頭ほどの配下を率いている。楽勝だったが、晶くんたちの戦い振りを見たかったので、わざと1匹残してフィニッシュは任せた。


 初見の敵だと言うのになかなか上手に立ち回る。特に白姫ちゃんは上空での機動力を生かして相手の背後を弱点属性で突くという、いい意味で嫌らしい攻撃を得意としている。


 長い目で見れば戦力として期待できそうだから、ここで投資をしておくのも悪くない。

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