第16話 世界の変化と彼女の変身
発端は【鋳造】スキルの実装だ。金本位制だった頃とは異なり今の通貨というのは「国家の信用」という実体の無いものに根ざしている。魔物やダンジョンが出現しているというのに、国家は事態を収拾できない。国家の信用は根底から揺らいでいる。
一方、マカを使えば実際にレベルが上がるのだから、多くの金持ちが私財をなげうってマカを求めた。その結果マカの価値は上がり、ドルや円などの通貨の価値は下がった。
もはや国際基軸通貨としての地位はドルからマカに移りつつあるらしい。マカによるキャッシュレス決済のシステムも『
たとえば世界有数の大富豪だったイーオン・メロン=カモネギーは企業経営からの引退を宣言して、ダンジョン探検家に転職したそうだ。株式を売却した金でマカとダンジョンポータルがある土地を買い漁ったという。
オクラホマ州におけるアンデッド騒動を収束させたのはこの男が率いたパーティだった。彼のパーティは光魔法を使ってアンデッドの軍団を鎮圧したのだ。なにしろ軍が鎮圧に失敗した魔物を一般人が鎮圧したのだから、国家の威信は大きく下がっただろう。
次期大統領選に出馬する意図があるのか尋ねられた時にイーオンはこう答えたという。
「もはや、人々は国家を必要としない。人々が必要なのはダンジョンをクリアして地上に戻ってくる英雄だ!」
それが約3週間前のことで、その時点でイーオンのレベルは33だった。今のレベルは41で、知られている限り彼のレベルが世界最高のようだ。
「ちょっと待ってくれ。イーオンは20兆円近い資産を持っていただろう。なぜ全額マカに変えてレベル47まで上げないんだ?」
レベル41からレベル47まで上げるのに必要なマカは約1500万なので、単純計算だと15兆円で可能なはずだ。
「そんなに市場に出回るはずがないでしょ。そもそも今となってはマカを円やドルに換金する人は滅多にいないよ。【鋳造】スキルの実装直後に先の見えないバカが換金したけれど、長期的に見ればマカの価値は上がる一方で既存の通貨は下がる一方。だから相場はあって無いようなもの。15万マカを他人に分け与えるなんて、前代未聞なんだよ?」
メグ
「本当にこんな大金もらちゃって良いのかな?」
メグ姉は俺が渡した15万マカの圧倒的な輝きに気圧されながら呟いた。そう呟いてはいるが瞳を見れば魅了されているのは明白だった。
「まぁ、投資だからね。期待してるよ」
「投資って……幼馴染だったから信頼してくれるの?」
メグ姉は戸惑っているようだ。安物のルビーの指輪をもらうのとは訳が違うのだろう。が、安物と言ってもあれはバイトの給料半月分の価値があった。一方、いまの俺にとって15万マカなんてはした金だ。
「まぁ、そうだね。パーティ全体の稼ぎが一日で200万マカぐらい行くから。信用に応えてくれるんだった大当たりって感じだな」
メグ姉が目を丸くする。
「あの……私いま独身なんだよね。小太郎が大学生になった時に旦那とは別れたんだ……」
なんの脈絡もない事をメグ姉は口走った。
なるほど。そう言うことか。たぶんレベル45の男って世界有数の金持ちと同じぐらいモテる存在なんだろう。世の中変われば変わるものだ。
「3号さんで良いなら」
俺がそう言うとメグ姉と詩織が同時に「えっ!?」と驚いた。
「お屋形さま、2号は誰なんですか?」
詩織が驚いてそう尋ねる。
「詩織だよ?」
「えっ、じゃぁ1号は?」
「アヤさんに決まってるじゃないか」
パーティ内での序列をはっきりさせておく良い機会だ。
アヤさんとそういう関係になったことはないが、形式的にはアヤさんが本妻という形にしておこう。ただし、人間社会におけるような婚姻制度で彼女を縛るつもりもない。
そもそも猫は多排卵動物で父親が違う子どもたちを一度に出産するのも珍しくない。
「レオニャはわかっとるにゃー。そのうちおみゃーの子を孕んじゃりゅにゃ」
アヤさんはそう言って頷いた。もう3月なので発情期がきていても不思議ではないのだが、ダンジョンの中にいて体内時計が狂っているのだろう。いまのところ彼女は性的な活動に興味がないようだ。
「じゃあわたすは1.5号になるのだー」
何故かミルチェルまで一緒になってはしゃいでいる。うーん、意味わかって言ってますか?
「わかった3号でいいよ。あっ……口の利き方も気をつけたほうが良さそうだね。やっぱ幼馴染だったからと言ってタメ口じゃまずいかな。これからは私もレオ坊のことを『お屋形さま』って呼びますね」
恥ずかしさを紛らわせるために思わず照れ笑いを浮かべそうになるが、ここはロールプレイに徹するべきだろう。信玄公になったような心持ちで「左様であるな」と言って鷹揚にうなずく。
「詩織さんに1つ質問があるんですけど……」
メグ姉が切り出す。
「なんですか? 詩織でいいですよ〜」
「でも私は3号で詩織さんは2号さんだから……」
「あっ、そうだね! じゃぁ詩織さまで!」
むっ、詩織は適応が早いな……。
「詩織さまはブラをしていないようですが大丈夫なんですか?」
「それが大丈夫なの! こんなに大きく育っちゃったけど垂れる気配はまったくないよ!」
「なるほど……」
メグ姉は覚悟を決めたかのように頷いた。
「メグ姉に1つ頼みがある。レベルアップの変化を動画に取ってもいいかな?」
「ええ、もちろん」
メグ姉は不思議そうな顔をして承諾した。
メグ姉は15万マカのコインを手に握ると。深呼吸してから【溶解】する。
40ぐらいだった彼女の容姿が20代後半ぐらいまで一気に若返る。もともと大きかった胸はさらに巨大化して服のボタンを飛ばして、遂には引きちぎった。
スタイルも良くなったが、それ以上に変化したのが肌だ。西洋人の女優のような外観に変化してしまった。真っ白な乳房にはうっすらと静脈が浮き出ていてとてもエロい。しかも桃色の突起からは白く尊い液体が滴り落ちている。
茶髪だった髪の毛はキャラメル・ブロンドに変化し、瞳の色も青くなってしまった。レベルアップと言うよりはもはや変身だ。人種が変わってる。
大きい事はすばらいのだが、大きくなるというプロセスというのは更に輪をかけて素晴らしい。こんな急激な変化は1回だけだ。この動画だけで15万マカ以上の価値があるな。ぐふふ。
メグ
「レベルアップって本当にすごいわ。若い頃、ハリウッド女優のシャロン・ライアンにすごく憧れてたの。もう昔のことだと思ってたけど、心の奥底ではまだこんな姿になりたがってたのね」
メグ姉がひとりごちる。
確かに言われてみれば全盛期のシャロン・ライアンに顔は似てる。胸や尻のサイズは本家よりも遥かに大きいが……。
その時ふと風間と目があった。
母親の変化にかなり困惑しているようだ。実の息子の前で3号がどうのこうのという会話は流石にまずかったな……。どうもすみません。よくよく考えてみれば2人とも苗字は風間だから、息子の方は小太郎と呼ぶか。
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