第13話 先遣部隊の隊長

「情報が手に入ったんにゃら、殺すべきだにゃー」

 アヤさんは機嫌が悪い。恐らくケモナーが1人もいなかったからだろう。

「皆殺しにするべきなのだ!」

 ミルチェルが同調する。


「とりあえず持ち物はすべて没収して、裸族として過ごしてもらおう。相模原男爵を離れて俺の下に付く者にはそれなりの装備を与える」

 裸にされて縛られた状態で更に氷魔法で下半身を氷漬けにされた連中に、俺はそう宣言した。アメとムチだ。


 尋問で得られた情報を整理するとこんなところだ。


 中足なかたし英雄は「マイナー登山道開拓団」というマニアックなサークル活動を主宰していた大学生だった。リスクが高い登山はしないで、低山を中心にマイナールートを開拓していたようだ。


 丹沢山地のマイナー登山道を開拓している時に「シューターズ・クラウド」が現れ、中足のグループはダンジョンポータルを見つけた。そして2ヶ月間ほどの時間を掛けて先日ついに地下22階のラスボスを倒したのだという。


 地下22階が最下層のダンジョンは「男爵級ダンジョン」と呼ばれているそうだ。誰がそう呼び出したのかというと『ことわり』の公式ウェブサイトにそう書いてあるのだという。

 公式ウェブサイトがあるとか……。てっきり秘密結社的な存在だと思っていたが、かなり大っぴらに自分たちの活動を人類にアピールしているらしい。


 最初にダンジョンをクリアしたパーティのリーダーは『理』によりダンジョン規模に応じた爵位が授与され、その辺り一帯の『神性支配権デイヴァイン・ヘゲモニー』が与えられる。ダンジョンはクリア後に解消され、その代わりに城が出現しクリアした者がそこの城主になる。


 神性支配権にはいろいろな要素があるが、いちばん重要なのはマカ徴収権だ。これにより自分の領地内で発生するマカのやり取りから一定のマカが自動で徴収される。つまり魔獣が人間を殺しても、あるいは人間同士で殺し合いをしても、ある一定量のマカが手数料として支配者に自動で流れる。要するに濡れ手に粟で何もしなくてもレベルアップできる。


 ただし彼の領地は神奈川県相模原市の西側、つまり山梨県寄りなので支配下に組み込まれた人間の数自体は少ないようだ。ここにいる連中もたまたまその時に相模原市西部にいたために中足の支配下に組み入れられたらしい。


 中足のレベルはまだ36。将来的に敵対することになるのであれば、今のうちに叩き潰しておいたほうが良いのかもしれない。

 

 とはいえ、男爵級ダンジョンは続々と攻略されており、中足英夫のパーティは世界で3番目の男爵級ダンジョン制覇者だ。これから先、子爵級や伯爵級ダンジョンの制覇者も出てくるだろう。そういう連中をいちいち相手にするよりも、このダンジョンのクリアにフルコミットするほうが賢明なのかもしれない。


「この中に子パーティのリーダーがいる筈だ」

 俺がそう宣言するとレベル18の男が答える。

「俺だ。正確には『孫パーティ』だけどな。『子パーティ』のリーダーの風間さんはいまこっちに向かっている」


「その風間ってのは——」

「俺だ」

 いつの間にか現れていた男が途中まで言いかけたセリフを遮る。反射的に【鑑定】する。レベルは33で、『器用さ』や【隠密】などの忍者・アサシン系のスキルに特化した個性的なステータスをしている。


「配下の者が迷惑を掛けたな。謝罪しよう。なにしろ急ごしらえの集団でまだ統制が取れていないんだ」

 風間はあっさりと自分達の非を認めた。


「あんたレベル33ってことはもしかして……」

「ああ、中足のパーティメンバーだったよ。今は独立した『子パーティ』を率いて他のダンジョンにアタックしているところだ。ここはなかなか良いダンジョンだと思ったんだが……」

 そう言うと風間はため息をついて、俺の額を見る。


「あんたのレベルが俺よりもずっと上だってのは分かるけど、いったいレベルはいくつなんだ?」 

「【鑑定】スキルを持ってないのか?」

「一応持っているが、あんたのレベルが高すぎて鑑定不能だ」

「『叡智のグラス』や『叡智のヘッドギア』も持ってないようだな」

「ああ、中足は『叡智のグラス』を持っているが、俺は持っていない」


 自分のレベルを自慢気に語るということも可能なのだが、相手の知らない情報をぺらぺらと喋るというのも賢くない。喋ってしまえば手札が減ってしまうのだ。


「戦う気がないのならば、情報交換と行かないか?」

 俺は風間にそう提案した。

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