第7話 塔の守護者

「一発でオークの居場所を見抜くなんて、さすがです!」

 詩織が興奮してまくしたてる。まぁ、そういうことにしておこう。


「しかもオークキングがいます。キング睾丸ゲットしましょう、キング睾丸っ!」

 詩織の口元からヨダレが垂れている。「睾丸」という言葉を使う時に恥ずかしがって真っ赤になるようなキャラが良かったな~。そう思うがもはや手遅れだ。

 俺は休肝日のようなものを設けて毎日食べないようにしているが、詩織は完全に中毒になっていた。


「敵が多いにゃ。きゃこまれにゃいようにしにゃいとにゃらにゃいぞぇ」

「ああ、ちょっと準備が必要だ」


 オークキングはレベル38なので、今の俺たちには脅威ではないが、配下の数が多い。オークジェネラル(LV31)4体がそれぞれ100体ほどのオークを率いていて、オークキングの周囲には20体以上のオーク・ロイヤルガード(LV30)が配置されている。更にオークプリーストの集団とオークメイジの集団もいる。総勢は500名ほどでパーティと言うよりはもはや軍隊だ。


 塔から300mほど離れたところが少し小高くなっているので、土魔法と結界魔法を使ってそこに臨時の砦を築く。

 オーク軍はこちらの存在に気づいたようだが、警戒態勢を取るだけでこちらまで打って出ようとはしてこない。弓矢を放ってくるが距離があるので当たってもほとんどダメージにはならない。おかげで魔法を練り上げて砦の強度を高める余裕ができた。


 俺は口径12.7mmの重機関銃を取り出し、弾帯に光属性を付与する。オークに対しては雷属性や火属性も有効なのだが、このあたりの属性は銃が誤動作する原因になりかねないので使わない。今回はちゃんと三脚も利用するから格段に狙いの精度が良い。


「ドダダダ、ドダダ、ドダダダダダダッ」

 俺はオーク・プリーストの集団に重機関銃を連射した。敵は密集しているので、面白いように当たる。

 この重機関銃の有効射程距離は2000mだ。この程度の距離はまったく問題にならない。


 一方、敵の魔法はここまで届かないし、弓矢の威力も減衰してしまう。敵に残された選択肢はこちらの陣地に突撃することぐらいだ。

 だが、オークの一般兵士ではこの砦を破壊することはできない。なにしろレベル6の土魔法で作った砦をレベル6の結界魔法で強化しているのだ。


 俺に任せろとばかりにオーク・ジェネラルが前に出てくると、集中砲火ですぐに倒す。

 砦の前面は狭くなるように設計しているので、土壁に取り付くことができるのは一度に10名程度だ。が、数百体のオークが殺到したため、敵は進むことも引くこともできなくなっていた。


 オーク・プリーストとオークメイジの掃討があらかた終わると、重機関銃は一旦アイテムボックスにしまって、『上級魔術師の杖』を装備する。エピックの杖で使用MP30%減少、魔法与ダメ40%上昇の効果がある。


「アポカリプティック・インフェルノ」

 火魔法が+7になって覚えた範囲攻撃魔法だ。【ファイア・フィールド】の上位版で任意エリアを火炎地獄に変えてしまう。詩織もタイミングを合わせて魔法威力増大の補助魔法を掛ける。


 蹂躙。数百体のオーク達が一気に溶ける。残りはキングとロイヤルガードを掃討するだけだ。


 退屈そうに魔法攻撃をしていたアヤさんは俄然やる気を出して、スピードに物を言わせて強引に敵陣に入っていく。

 俺もシャルエスに跨り、アヤさんと同様に敵陣を撹乱した。スピード差がありすぎて敵の攻撃はまず当たらない。


 こういう時ぐらいしか使い所がない【馬落斬まらくざん】を連発する。

 正面からはモンタロス率いるミノタウロス軍団が弓や攻撃魔法を放ち、詩織が補助魔法で味方にバフを掛け、弱体魔法で敵にデバフを掛ける。

 敵の数が10体を切ると俺は馬から降りた。シャルエスには勝手にその辺で暴れ回ってもらう。


 溜め攻撃の【破荒突はすさずき】を使うと、満タンの敵でも一撃で沈めることができる。キングめがけて放つとロイヤルガードが身を挺して護る。しかし、その度に敵の数は減っていく。


 フィニッシュはアヤさんに譲ることにした。獣化して残った敵を圧倒的な破壊力で粉砕する。

 パーティ全体が獲得したマカは300万超えだ。一回の戦いとしては破格だろう。アヤさんと詩織のレベルが44になる。


「やった! キング睾丸ゲットですよ!」

 詩織が胸を揺らせて大喜びする。

「やったね! でもそれはレベル46になった時のお祝いにとっておこう」


「今から朝までしませんか!?」

 とか言い出しかねない雰囲気だったので、先手を打って釘を刺す。不承不承、詩織は俺の申し出を承諾した。

 

 たまに羽目を外すのは悪くないが、俺たちはいま先行者同士の争いの渦中にいるのだ。お楽しみばかりしている訳にはいかない。


 この混乱期の間にできるだけレベルを上げる必要がある。社会が落ち着けば平和になるだろうが、下剋上のチャンスも無くなってしまう。自分たちよりもずっと強い大型パーティやクランに圧力を掛けられたら唯々諾々と従わざるを得ないだろう。


 ダンジョン内の街では運営である『ことわり』が戦闘を禁止しているが、逆に言えば、それ以外の場所ではPKが禁止されていないということだ。

 将来的に一番怖いのは他の人間だと思う。レベルマッチングなしの対人戦なのだからレベルが高いほうが圧倒的に有利。高いレベルというのは抑止力になる。

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