第3話 急がば回れ

 地下25階では何度かヒヤリとするシーンがあった。

 急がば回れだ。この辺りで腰を押し付けてレベル上げに専念したほうが良いだろう。地下33階のボスが何者なのかはわからないが、モンタロスよりも強い筈だ。


 この休憩室から出て階段を地下25階に上がるとホールがある。そこにはオーク・ジェネラル2体に率いられた計60体ほどのオークの軍団がいて、宝箱も2つある。26階でもう1つ別の狩り場を見つければ効率よくレベル上げができる。

 良い狩り場を求めて、俺たちは地下26階の休憩室付近の探索を開始した。


 最初に出会ったのはレベル37のサイクロプスだ。かなり強いのだが、敵は単体だったので戦闘は余裕だった。なにしろ【召喚】スキルがレベル4まで育ったので、モンタロスが【眷属召喚】で呼び出せる手下の数が4体になったのだ。


 魔馬まばシャルエスも呼び出せばパーティメンバーは9人になる。いくらレベルが高くても単体では勝負にならない。

 獲得したマカは2230。獲得マカの観点で見ると、単体の敵はあまりタイパがよくない。雑魚敵を大量に倒したほうがずっと効率が良いのだ。それでもドロップ品の質は高レベルの敵のほうが高くなるので、通り道にいるのであれば倒す価値はある。


 続いて遭遇したのがリザードマン7体のグループだ。リーダー格がレベル33で残りがレベル30。フィジカルも強く風魔法や雷魔法を使ってくる敵だが、氷属性が弱点なので簡単に動きを制限できる。こちらの方が頭数が多いこともあって苦戦はしない。獲得マカは8408。出現した部屋には宝箱もあるので一日一回は倒したい。

 

 リザードマンの部屋の向かいは直径100mを優に超える大きなホールになっていた。奥の方には奥行き50mほどの池があり、その先には宝箱が2つ置いてある。


 左側にはブラック・クロコダイルというワニの一団がいた。30匹ほどの集団だ。キラー・アリゲーターより大きくてレベルも高い。

 右側にはブラック・ヒッポというカバの集団がいた。全部で7匹だが、レベルは34~36。たぶんこっちのほうが厄介だ。


 ワニとカバの仲が良いなどという話は聞いたことがないが、共闘されるとやっかいだ。まずは両集団の中間辺りに土魔法でバリケードを作る。


「詩織、結界を頼む」


 最近詩織は結界魔法を覚えた。結界単独でも十分な威力なのだが、土魔法や氷魔法で作り出した物体を結界で強化することができるのだ。結界で強化された物は3時間ルールを超えて8時間ほど存在し続けることができる。23階でこの魔法のスクロールが出てくれたお陰で攻略が随分と助かっている。


 カバを刺激しないように注意しながら池の左側に向かう。まずはワニが相手だ。強くなっているとは言え、基本的にキラーアリゲーターのときと一緒だろう。俺は土魔法で5メートル程の高さの台を作り、その上に乗っかった。


 全体が見渡せて指揮が取りやすいというのもあるが、ここからならば下で戦う味方を巻き込むことなく長距離攻撃がし易い。台を作らないで後ろから【雷束撃】を放つと、激しく動いている味方に誤って当ててしまうことがある。


 まずはボスの腹を土魔法で突き刺して台の上から【雷束撃】を連射していく。俺が狙うのはまだ池の中に入っている敵だ。池から出てきてこちらに向かってくる敵はアヤさんとモンタロス達に任せる。詩織も俺の隣で補助魔法を掛けつつ雷魔法で攻撃する。


 思った通り、ブラック・クロコダイルはやりやすい相手だった。だが、ワニ達を殲滅すると同時にカバ達がバリケードを壊してこちら側に向かってくる。共闘というよりもワニに向けた攻撃で感電したことで怒っているようだ。


「詩織、近づいたカバを眠らせて」

「ソポリファイ!」


 カバの1頭が眠りだす。カバは睡眠耐性がないのだ。ぶっちゃけ地下22階にいたときは俺たちもなかったが、今ではみんな【睡眠耐性】を持っている。敵の魔法への抵抗力が付くだけでなく、徹夜で働いても結構大丈夫というブラック臭が漂う耐性だ。


 カバはフィジカル面がとにかく強い。防御力が高く、顎でかみくだく力も強い。なるべく近づかないで魔法で相手をするほうが無難だ。予めバリケードを二重にしていたこともあって、敵が近づいてくる前にかなり削ることができた。


 最後にはアヤさんが【獣化】スキルで獣の姿になって残った敵を蹂躙した。


 このスキルを使うと一時的に大型獣の姿になってステータスがすべて瀑上がりする。獣化していられる時間は【獣化】スキルのレベルに依存し、獣化が終了した後は1分ほど動けなくなるので諸刃の剣だ。


 難敵相手に使う場合はリスクが高いので、今回のように勝利が確定的な場面で使って、アヤさんはスキルレベルを伸ばしている。


 池に近づくと魚の死体が浮いていた。メタル・ティースというピラニアを一回り大きくしたような魚だ。歯が異常に鋭いので噛まれたら厄介だが、死体になっているということは雷に弱いのだろう。池の中に入る前に念のために【エレクトリック・フィールド】という雷魔法を広範囲に掛けると、更に十数匹が水面に浮かび上がってきた。


 獲得マカは53,162。リスクが低い割には美味しい狩り場だった。

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