第42話 こんなおばちゃんでいいんですか?(詩織視点)
第一印象はすごく良かった。颯爽と現れて命を救ってくれたイケメンにときめかない女子はいない!
私よりも若そうだったので相手にされないだろうと思ったけど、熱い視線を送ってくれた。ひょっとしたら脈があるのかもしれない。そう思って彼の方に駆け出してお礼を言った。彼の視線が胸に刺さる。
大きい胸が好きならばチャンスはあるかも! もともとはDとEの中間ぐらいだったが、レベルが4まで上がると何故か胸のサイズも大きくなった。今はEカップのブラがきついので、一番外側のホックで止めてる。
ここからどうやって「LINEar交換」に持ち込もうかな、と思っていると、隊長が「悪魔に違いない」とか訳のわからないことをわめき始めた。
妬いているのだろうか? ゴリラのような容姿の男だが、しつこく迫ってきたので何度か躰は許した。
だけど、別に彼とか彼女とかそんなのじゃない。ぶっちゃけ隊長以外の隊員数名もすでに味見しました。そう味見。私はとりあえず味見してみる主義なのだ。世間ではビッチと言うらしいが、私は欲望に正直なだけだと思ってる。
非モテの男にもチャンスを与えてるんだからむしろ偉いでしょ? アレが上手ければブサくてもニートでもOK。なんなら私がホテル代を出してやっても良い。上手くなくても私を気持ちよくしたいという熱意があれば、長い目で育てます。流石に最低限の清潔さは要求するけどね!
気持ちよければそれで良し——それが私の人生哲学。
私の人生の目的は「至高の悦楽」を味わい尽くすこと。単純明快だ。
隊長はRPGをプレーしたことが無く『ハリーポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』すらも観たことがない人間のようだ。完全に人選ミスだろう。始めのうちこそ、私の進言に従って、宝箱を開いていたのだが、地下1階の罠で隊員がひとり死亡すると「宝箱は放置するように」との命令を出した。
隊長が寝てる隙に抜け出して、何個か宝箱を開けたので私は【回復魔法】を使うことができるが、他の隊員は誰も魔法を覚えていない。そんな状態で物理が通らない魔物に囲まれたのだから、このイケメンくんが現れなければ全員死んでいた。
「撃て! 撃ちまくれ!」
隊長の号令一下、戦闘が始まってしまう。
イケメンくんは話し合おうとしていたが、大きな猫が被弾するとキレた。
素手のパンチ一発で隊長の頭が粉々になる。
人間技じゃない。
こんな化け物と戦っても勝ち目はないし、そもそも戦う理由もない。
だいたい自分たちよりも強かった魔物を一瞬で倒した相手にこちらから戦闘を仕掛けるなんて正気じゃない。
隊長はすでに狂っていたのだ。
「みんな、落ち着いて! 話し合いましょう!」
そう叫んでみたが、無駄だった。
すでに隊長は死んだのだから、他の隊員たちも冷静になって降伏すればいいのに戦闘を継続している。
彼らは銃で撃たれても死なない。多少ダメージを受けるだけだ。
勝ち目はない、と確信して私は最後方まで退いた。
ものの1分ほどで戦闘は終了し、20名ほどいた隊員たちは私を除いてみんな動かなくなってしまった。
「人を殺しちまったのか……俺は?」
イケメン君がひとりごちた。すこし理性が戻ってきたようだ。彼の呼吸が落ち着いた頃を見計らって、私は大げさに怯えながら命乞いをした。
「おた……おたすけを……命だけは……」
「善意から助けたつもりだったが、残念なことになってしまった。君に危害を加えるつもりはないから落ち着いてくれ」
「……はっ、はっはっ……は……い」
か弱い女を演出するために、ちょっと大げさに怯えてみせる。
「そこで提案なんだが、俺のパーティに入らないか?」
「わかりました。わたしは優木詩織と申します。ど……どうか、よ、よろしくおねがいします」
私は土下座して懇願した。
レベル4の私なんて戦闘では大して役に立たない。たぶん性◯隷要員だろう。
ああっ! 今晩は嫌がる私を無理やり犯すつもりなんだろうな!
マッチョの若いイケメンに無理やりだなんて、そんな……最高すぎる!
「やめてくださいっ! やめっ……あっ、やめ……ない……で、も……もっと! もっとちょうだい!」的なプレーかっ!
やばっ。想像したら興奮してきた。鼻血が出そう。
「若作りだけど実はアラフォーなんですよ。こんなおばちゃんで良いんですか?」
なんて本当のことは絶対に口に出さない。もともと若く見られていたし、レベルアップして肌の張りなども全盛期の頃に近づきつつある。訊かれたらサバを読もう。
「うーん。でも流石にあのミノタウロスは無理かなぁ……アレが小ぶりだったらいけるかも?」
などと考えている時にハッと我に返った。
今はそういう状況ではないのでは? 同じ釜の飯を食った仲間たちが亡くなったばかりなのだ。しかもそのうちの5名とは肉体関係を持っていたのだから、とりあえず人として悲しむべきなのではないのか?
私は子供の頃から情が薄いと言われてきた。身近な人が亡くなっても悲しいと思ったことがない。実の父親が亡くなった時でさえ涙が出てこなかった。「薄情者」と批判されるのが怖くて、いつも周りを見渡して正解っぽい行動を勘で選んで生きてきた。演技で泣くという技も自己防衛のために覚えた。
今も全然悲しくない。むしろ死を身近に感じると性欲が高まってしまう。不謹慎なのかもしれないけど、性ってそういうもんじでしょ? 不死ならば生殖する意味がないんだから。
隊員達のご冥福をイケメンくんが祈っているので、とりあえず私も殊勝な顔を作っておいた。
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