第41話 新メンバー加入

「うわぁ、化け物だ!」

 別の兵士がアヤさんとモンタロスに気づいて銃口を向けているのが目に入る。

「やめろ! 俺の仲間だ。撃つな!」


「あんな猛獣と怪物が人間の仲間になるはずがない。やはり悪魔だったようだな。撃て! 撃ちまくれ!」

 隊長の号令一下、20名の隊員たちが斉射する。躱しきれなかった弾丸に身体を貫かれて流血するアヤさんを見て、俺は完全にキレた。


「やめろってんだろ!」

 俺に向かって自動小銃を撃ってくる隊長の顔面を力いっぱい殴ると、奴の頭はまるで壁に投げつけられたトマトのように砕け散り鮮血を散らした。


「えっ?」

 怒りで血が沸騰していたが相手は人間だ。流石にハルバードで斬りつけることはしなかった。が、自分の今のステータスで普通の人間を力いっぱい殴るということが、どういう結果につながるのかという想像力が欠如していた。


「殺すつもりはなかったんだ。落ち着いて話を聞いてくれ!」

 そう叫んでみたが無駄だった。パニック状態になった兵士たちが放つ銃弾が俺の腹を穿つ。物理耐性があるし、防御力は常人とはまったく違う。それでも重機関銃による射撃は致命傷になりかねない。もう手遅れだ……。


 その後のことはよく覚えていない。気がついたときには周りに死体が転がっていた。

「人を殺しちまったのか……俺は?」

 冷静になってみると自分がしでかしたことの意味が重くのしかかってくる。


 アヤさんとモンタロスのほうを見やるとふたりとも無事だった。アヤさんの物理耐性は+5だ。流石に無傷とは行かないが、致命傷にはならなかったらしい。

 一方のモンタロスの物理耐性は+3だが、大盾を使って凌いだようだ。どのみちやつは殺されても復活できるからそれほど心配はしなかったが……。


 一方、俺の物理耐性は+4だったのだがいつの間にか+5に上がっていた。何発か受けたのは間違いない。しかし、我に返ったときにはすでに治っていたので恐らくアヤさんあたりが治療してくれたのだろう。


 あの娘は? あの娘も殺しちまったのか? 人を殺めてしまったことについては後悔があるが、あの隊長については仕方がないだろう。どうすれば良かったというのだ? 


 愚かな上司の下に付いたばかりに無駄死にした他の隊員については同情する。だが、向こうから銃火器で攻撃してきた以上仕方がない。いくら物理耐性があっても反撃しなければこちらが危なかった。


「おた……おたすけ……命だけは……」

 腰を抜かして動けなくなっている女が号泣しながら命乞いしていた。あの娘だ。

 俺は深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 いま大事なのはこれからどうするかだ。

 後悔するのは後からでもできる。


「善意から助けたつもりだったが、残念なことになってしまった。君に危害を加えるつもりはないから落ち着いてくれ」

「……はっ、はっはっ……は……い」


 俺は彼女の呼吸が落ち着くまでしばらく待ってから口を開く。


「きみ独りで地上に戻ろうとしても恐らく難しいだろう」

「そう……ですね」

「かと言って君を地上まで送っていくほど俺たちもお人好しじゃない。君の仲間にまた攻撃されるかもしれない。わかってくれるかな?」

「……はい」

「そこで提案なんだが、俺のパーティに入らないか?」


 もし彼女が地上に戻って俺たちのことを報告すれば厄介なことになりかねない。彼女は唯一の目撃者なのだ。

 自衛軍があの「幻の床」の罠を突破するにはしばらく時間がかかるだろうから、いまのうちに下の階層でレベルを上げる。

 力さえ手に入れれば後はどうにでもなる。


「わかりました。わたしは優木詩織と申します。……どうか、よろしくおねがいします」

 詩織は震えながらそう言って土下座した。いや……そこまでしなくて良いんですけど。まぁ、この惨状だから怖がるのも無理はないが、できるだけ早く彼女が馴染めるように努力しよう。


「ん~オヤカタサマよ、その雑魚をパーティに加えるのか?」

「ああ、なんか文句あるのか?」

「別にいいけどよ。足手まといになるなよ、女」


 モンタロスはそう言うと、襟首を掴んで詩織をひょいと片手で持ち上げ至近距離まで顔を近づけて睨みつける。


「ひぃっ!」

 小さくなったとはいえ3mほどある。プロレスラーなどよりもずっと大きいガチムチの牛男に凄まれて、詩織が悲鳴を上げた。


 モンタロスが乱暴に手を離したので、彼女を抱きかかえて受け止めると、肉付きの良い胸が俺の身体に押し付けられて潰れた。思わずにやけそうになったが、かろうじて真面目そうな顔を維持する。


「おい、モンタロス、仲間になったんだから乱暴するな!」

 俺がそう叱りつけると、モンタロスは「フン!」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。ツンデレ? いやーガチムチのツンデレはあんまり需要ないと思うよ?


「心配しないでいいよ。俺が守ってあげるから」

 俺は詩織の耳元でそう呟いた。


「あの……、あ……貴方様のことは、私も『お屋形さま』とお、お呼びすれば良いのでしょうか?」

 そう訊かれて俺は思わず赤面する。配下に自分のことを「お屋形さま」と呼ばせる厨二臭のするメンタリティーが急に恥ずかしくなったのだ。


 ソフィアやモンタロスの場合は別に恥ずかしくないのだが、相手が人間だと流石に恥ずかしい。「あ、伊東でいいです」と言おうとするとモンタロスが胴間声をあげた。


「当然だろうが! このパーティの幹部である余のことも『モンタロス様』と呼べ。そのデカい猫は『アヤさん様』だ!」

「いや『アヤさん』でいいよ。『さん』の後で『様』をつけると変だから……」

 俺がそう言うとアヤさんも「にゃー」と同意する。


「わ、わかりました。……お屋形さま」

 詩織はぶるぶると震えながそう言った。

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