第54話 闇騎士

 俺たちはそのまま砦を通り抜けて進んだ。

 この辺りは木々の間隔がだいぶ広くなっていて大きな岩が多い。


「うぐっ!」

 最後方を歩いていたミノタウロス・コマンダーが突如叫び声をあげる。慌てて振り返ると彼の首筋がバッサリとダガーで斬られていた。

 奇襲だ。


「ヒール!」

 すぐに詩織が回復魔法を掛けるが、馬に乗ったまま跳躍していた敵が先にハルバードを振り下ろす。


<闇騎士が戦技【馬斬落まざんらく】を発動し、クリティカルヒットしました>


 ソフィアのアナウンスとともにミノタウロス・コマンダーが溶ける。凄まじい威力だが、あんな大技が決まったのは最初のダガーによる攻撃に麻痺効果が付与されていたからだろう。

 ミノタウロス・コマンダーは麻痺耐性を持っていたが、それでも1秒ほどは硬直してしまう。詩織は【ヒール】より先に状態異常回復の【キュア】を掛けるべきだったのだが流石に初見の敵が相手では難しい注文か。


「モンタロスは前に、詩織は後ろに下がって!」

 俺はそう言いながら、【雷束撃らいそくげき】を闇騎士に放つ。【雷束撃】の威力はそれほど高くない。しかし雷属性による硬直効果が戦闘では有効であるだけでなく、弾速がめっぽう速いという利点がある。

 その速度は弾丸よりも速い。未だに避けられたんことが無いのもこのためだ。


 闇騎士も避けることはできなかったが、奴はかなり高い雷耐性を持っているようで硬直したのはほんの一瞬だった。


「オールアゲ!」

 詩織は背後に退避しつつも全員にバフを掛ける。本当は【エンハンス・オール・アビリティーズ】という長い名前が付いたすべてのステータスを向上させる補助魔法だが、これでも十分に効く。

 続いて詩織が敵にデバフ魔法をかけようとすると、側面から素早い動きで敵が現れる。敵は2体いるのだ。


闇従者ダークスクワイヤ

種族  狼人(獣人)

レベル 31

HP  1070/1070

MP  1050/1050(+50)

膂力  810

体力  1040

知力  1160

素早さ 1360(+120)

器用さ 1480(+130)

直感  800

運   680

※下一桁切り捨て

スキル 【不意打ち】【毒付与】【麻痺付与】

魔法  【火】【闇】【回復】【補助】【弱体】

耐性  【麻痺】【毒】【火】【闇】【雷】【土】

※+4以上のみ表示


【分析】

攻撃手段  近接武器、魔法

弱点部位  首、足首

弱点属性 【水】【光】

特記事項  主君を補助して立ち回るのが得意。


「ガキッ」

 乾いた音を立てて敵のダガーの一撃をモンタロスが盾で塞ぎ、そのまま【高速シールドバッシュ】を仕掛ける。しかし、ダーク・スクワイヤは素早く攻撃アクションをキャンセルして、攻撃を巧みに躱す。


「器用さ」はスキルや戦技などの攻撃アクションをキャンセルして回避や防御に移ったり、攻撃中に敵の動きに合わせて自分の動きを修正したりする時に威力を発揮する。更にはクリティカル発生率が上がり、宝箱を開ける時に罠を回避しやすくなるという効果がある。地味だが重要なステータスだ。


 火力はそれほどないが「素早さ」や「器用さ」が高いのでこちらの攻撃が当たりづらい。やり辛い敵だ。


「モンタロス、深追いするな!」

 俺がそう叫んだときにはすでにモンタロスは詩織から離れていた。黒い馬に騎乗した黒騎士が詩織に向かって突進する。


闇騎士ダークナイト

種族  悪魔

レベル 37

HP  4760/4760(+1360)

MP  1400/1480(+240)

膂力  4680(+780)

体力  4620(+1320)

知力  1560(+260)

素早さ 860(+140)

器用さ 980(+160)

直感  1160(+190)

運   690

※下一桁切り捨て

戦技  【馬落斬まらくざん

スキル 【破荒突はすさずき】【五月雨突き】【渾身】【毒付与】【乱射】

魔法  【火】【風】【雷】【闇】

耐性  【麻痺】【毒】【火】【風】【雷】【土】【闇】

※+4以上のみ表示


【分析】

攻撃手段  近接武器、魔法

弱点部位  首、足首

弱点属性 【水】【氷】【光】

特記事項  戦技は乗馬中のみ使用可能。


 敵は連携して最初にヒーラーを潰そうとしている。基本戦術を理解している動きだ。

 俺は『鉄鋲の大盾』に持ち替えて詩織をガードする。物理ダメージカット率は100%だが、闇騎士の戦技には闇属性が付与されているためダメージが入ってしまう。

 しかもタイミングを合わせて闇従者が俺に【遅鈍】のデバフを掛けてきたので、危うく盾受けが間に合わなくなるところだった。攻撃の仕方が嫌らしい。盾で受けたというのに350ほどのダメージが入る。やはり強敵だ。


「キュア! ヒール!」

 詩織がすぐにデバフを解除して、HPを回復してくれる。彼女は森の中で【連続魔法】というスキルを新たに取得していた。文字通り複数の魔法を連続してタイムラグ無しで使えるスキルだ。

 戦闘にも馴れてきて頼もしくなってきた。もともと軍人だということもあって度胸がすわっているのだろう。


優木詩織 

種族  人

レベル 29

HP  1075/1075(+279)

MP  1309/1309(+62)

膂力  592

体力  909(+118)

知力  1333(+222)

素早さ 778

器用さ 820

直感  759

運   811

スキル 【連続魔法】

魔法  【火+2】【風+2】【水+2】【氷+2】【土+2】【雷+2】【光+3】【回復+5】【補助+5】【弱体+3】

耐性  【物理+2】【精神+6】【毒+4】【麻痺+3】

    【火+2】【風+2】【水+2】【氷+2】【土+2】【雷+2】【光+3】


 火魔法などのスクロールも大量に余っていたのですでに渡してある。後衛であるため、どうしても物理耐性が上げにくいのがちょっと心配な点だ。もう少し楽な相手をしている時に耐性上げをしておくべきだった。

 敵は2体とも闇魔法の使い手なのだが、俺たちには耐性が無いので相性が悪い。


「戦いつつ砦まで引くぞ!」

 砦までの距離は200mほど。砦にいるミノタウロス達と共闘できればかなり楽になる。


 だが、モンタロスは俺の指示を無視して、右手で闇従者をがっしりとホールドしたまま『ミノタウロス王の大盾』で【連続シールドバッシュ】を連打し続けている。

「余もろとも光属性で攻撃せよ!」

 モンタロスが叫ぶ。


 一理ある。

 闇従者は素早い。一度逃してしまえば倒すのは困難だし、連携の起点となっているのは従者の方だ。闇騎士の高火力は脅威だが、闇従者がいなければなかなか当たるものではない。

 モンタロスは光耐性が高い一方で敵は光属性に弱いのだから、確かにここで一気に従者を倒しておいたほうが戦闘が楽になる。


「わかった!」

 俺と詩織は二手に分かれて、左右から光属性の攻撃を連発した。俺は『ミノタウロスの大剣』に持ち替えて【閃光刃】を連打し、詩織も【ライトバレット】を連続して放つ。モンタロスも被弾するが、闇従者のHPの減りのほうがずっと早い。


 従者を救うべく闇騎士が駆け出して、大きく跳躍した。

 闇従者を削りきった直後、闇騎士の【馬落斬】がモンタロスの躰を切り裂く。

「モンタロスさん!」

 詩織が絶叫する。


「また後で会おう」

 ニヤリと笑ってそう言うとモンタロスはそのまま崩れ落ちる。だが死んだわけではない。7時間経てば再召喚できる。レベル差があるとは言え、3対2よりは2対1のほうが有利だ。

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