第52話 詩織の執着
翌日は朝から森の西のオークの集落を襲撃した。睾丸欲しさにオークを狩りまくる人間――はたしてモンスターはどちらなんだ? という気がしないでもないが、欲しいものは欲しいのだから、格好つけてもしょうがない。
集落のオークの数は洞窟にいるグループよりも多く、全部で50体以上のオークがいる。射手が10体ほどいるので毒矢や麻痺矢が厄介だ。
群れを率いているのはオークジェネラル(LV30)で、オークオフィサーも配下に4体いる。集落は柵で囲まれており、櫓もある。正面から攻めるのは厳しいだろう。
「オークは性欲が非常に強い。人型の雌であれば人間だろうとミノタウロスだろうとお構い無しで欲情する」
モンタロスがオークの習性を説明する。俺が知っているオーク像はだいたいそんな感じだ。
「そこで詩織が囮になってオーク達を性的に挑発し、追いかけてきたオーク達を罠にはめて殲滅するというのはどうだ?」
「良い策だが、ちょっと詩織が危険すぎないか?」
俺はそう言って詩織のほうをチラリと見やった。
「やります!」
俺の心配を他所に詩織はやる気まんまんだ。よほど『オークの睾丸』が欲しいのだろう。
罠の設置が終わると詩織はオークの集落の正門に向かった。
オーク達はすぐに詩織に気づいたが、女が一人で来ていることが分かると矢を射てこない。ヨダレを垂らしたオークたちが嫌らしい目で露出の多い詩織の姿を舐め回すように見ている。
詩織は胸をはだけた。斜め後ろから見ているのではっきりとは分からないが、どうやら身体をくねくねとよじりながら、左の拳を握りしめて腕を谷間のあいだで上下に動かしているようだ。
そして尻をオークに向け、スカートを捲ってお尻をくねらせている。詩織……こちらから胸が丸見えだぞ。なんか恍惚とした表情してるし……。
オーク達はすぐに挑発に乗ってきた。弓兵を除いたオーク達が抑えきれなくなって門から飛び出す。しかし、詩織はそれに気づかずに相変わらず恍惚とした表情で尻を振り続けている。
「詩織、逃げろ!」
俺は思わず叫んだ。
ハッとした表情になって詩織は我に返る。そして剥き出しの胸をしまうのも忘れて一目散に駆け出した。ぶるんぶるんとすごい勢いで揺れている。
オークたちも俺の存在には気づいていたのだろうが、興奮状態で詩織を追いかけているので気にかけていない。
オーク兵の大半は詩織よりも足が遅い。が、指揮官であるはずのオーク・ジェネラルは凄まじ勢いで配下達を追い抜き、ぐんぐんと詩織に迫っている。
このままでは追いつかれる。そう思った俺は土魔法でオーク・ジェネラルの足元に岩を出現させ、彼を転倒させた。オーク・ジェネラルはすぐに立ち上がりふたたび詩織を追いかけたが、その差は開いている。なんとかなるだろう。
詩織が罠の上を通り過ぎたところで、土魔法で作った石板を消し去る。石板の上には土や落ち葉を乗せてカモフラージュしてあるが、ちゃんと見ればすぐに怪しいことに気がつく筈だ。
しかし性欲に火がついたオーク達は気が付かずにそのまま落とし穴へと落ち、【アイス・ランス】で串刺しにされていく。オークは土属性の耐性が高めなので、氷魔法を使った。
さすがにオーク・ジェネラルやオフィサー達はこの程度では溶けないが、身動きがままならない状態になっている。
弱点属性である「火」「雷」「光」あたりの魔法やスキルを使って、簡単に掃討することができた。集落にはまだオークの弓兵達が10体ほど残っているが、全滅させるのはそれほど困難ではない。
毒矢や麻痺矢を何本か受けたが、それなりに耐性がついているので致命傷にはならなかった。
お目当ての『オークの睾丸』は1つだけしかドロップしなかったが、肉や矢などは大量にドロップした。集落の中には宝箱が1つあり、『オークマスターの杖』が入っていた。詩織が使っている『オークの杖』の上位互換品で、エピック・クラスのアイテムだ。知力10%上昇に加え、消費MP25%軽減と魔法威力25%増がついている。
「一番強いオーク・ジェネラルが睾丸を落とすまで続けましょう!」
詩織の鼻息は荒い。セリフがすごいことになってるぞ。てか、まずは服をちゃんと着ろ。ふだんは隠しているからこそありがたみが増すのだ。
一回の殲滅戦で16,580マカを獲得できるので悪くはないのだが、近場に他の狩り場がない。それに3時間経つと、ダンジョンの原型回復能力が発動して、せっかく作った落とし穴が元に戻ってしまうので作り直さなければならない。
レベル上げの効率だけを考えれば、ワニと洞窟の周回のほうが良いだろう。
*
「ちょっと早いけど、今日はこれぐらいにして帰ろう。罠を作り直して4周させると真っ暗になってしまう」
8回ほど周回したところで俺は提案した。
「まだオーク・ジェネラルの睾丸が落ちてません。もう少しやりましょう!」
詩織が食い下がる。普通の睾丸は7個ゲットしたんだが……すごい執着だな……ちょっと怖いぞ……。
「あと4周回すと真っ暗だが、2回ぐらいならば大丈夫だろう。暗くなったら必ず闇騎士に遭遇するという訳ではないしな」
モンタロスもそう言うのでもう少し回すことにした。
確かに、罠を作ったからと言って消えるまで使い倒さなければならないという決まりはないし、ここは詩織の意見を尊重しておこう。
だが、2周してもお目当ての「ブツ」はドロップしなかった。辺りはすでに昏くなり始めている。
「どうしても今日中に欲しいです! あと2周すれば私のレベルも29に上がります。『暗くなったら必ず闇騎士に遭遇するという訳ではない』ってモンタロスさんも言っていたし、心配しないでも大丈夫ですよ!」
パーティメンバーが熱心なのは嬉しいのだが、純粋にレベル上げが目的だとは言い切れないのが困りものだ。しかし、今日の狩りについては詩織の貢献が際立っているので、無碍に却下してやる気が削がれてしまうのも困る。
「だけどあまり暗くなるとオークたちもよく見えなくなるから追いかけてこないんじゃないか?」
「そうなったら諦めて帰ります。それまでは続けましょう。良いですよね?」
詩織に押し切られてしまった。好みの女に対してビシッと命令するのはなかな難しい。ついつい我儘を聞いてしまう。
モンタロスはあまり乗り気ではないようだ。「本来のレベル44であれば闇騎士など恐れるに足りぬのだが……」などとぶつぶつ呟いている。
結局、オーク達は日が落ちた後も詩織の尻を追いかけ続けた。意外と、夜目が効くらしい。あるいは匂いなのだろうか?
合計12周したところで、ついに『オーク・ジェネラルの睾丸』がドロップした。普通のものよりも明らかに大きく、色も濃い。詩織のレベルが29になり、彼女は「ぶるん、ぶるんっ」と豊満な胸を揺らして喜んだ。正直言って、いつもほどはその様を見ても興奮しない。もしかしてこれが「蛙化現象」ってやつ?
「ジェネラル睾丸、楽しみですね!」
詩織はそんな俺の心持には気づかずに、満面の笑みを浮かべて胸を押し付けてきた。更に一回り大きくなっているのを確認して思わず顔がゆるむ。
「楽しみだね!」
気がつくと俺も笑顔でそう答えていた。うちの太郎も大変元気がよろしい。胸がでかくて可愛いんだから、細かいことは気にする必要ないな!
この性欲……俺たちの場合は「蛙化現象」って言うよりは「兎化現象」のほうがしっくり来そうだ。
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