第39話 懐かしの地下7階

 地下8階の探索に向かう前に、幻の床の向こう側にある部屋へと向かう。『ミノタウロス王』という絵が壁にかけられている部屋だ。魔石の仕掛けで開けた壁は塞がっているが、エレベーター室と同様に壁の裏には御札が貼ってある。

 俺は幻の床の上にできた砂の道を渡り、たどり着いた先で御札を剥がして壁を消した。


 アヤさんが中央部分を飛び石代わりにして2回跳躍してやってくる。小さくなったとはいえモンタロスは3m近くあるので、砂で示された道は通りづらそうだ。ゆっくりと慎重に進んでいる。


「ソフィア、あいつが落ちて死んだらどうなるんだ?」


<ダンジョン内では被召喚者が死ぬことはありません。クールタイムを経てふたたび召喚することができます。クールタイムはレベルに依存し、現在のモンタロスのステータスならば7時間ほどで再召喚可能です>

 

 だったら別に落ちてもいいか。放っておこう。


 久しぶりに狩りたてのアイアンボアの肉が食べたくなったので、こちら側に渡ってきたのだ。隠し扉を再び開けた先には懐かしい部屋があった。


 だが、そこにいたのは違う魔物だった。

 レベル15の巨人スケルトンに率いられたスケルトン集団がいる。天井にはヒルの代わりに「ダークスライム(LV13)」が張り付いていた。

 後ろから敵が現れるのは想定していないのだろう。背を向けたまま固まっているので、とりあえず巨人スケルトンを『天魔のハルバード』で殴った。


<スケルトンとダークスライムは高い物理耐性を持っています。光属性が弱点なので『ミノタウロスの大剣』の使用をおすすめします>


 ソフィアさん優秀だな。自分で確認するよりもずっと早く適切な戦術が採用できる。


 彼女の声を聞くと同時に武器を『ミノタウロスの大剣』に持ち替えて【閃光刃レイディアント・スラッシュ】を放つと巨人スケルトンは一撃で溶けた。

 アヤさんも練習がてら光属性の【ホーリーアロー】を放って天井に張り付いたスライムを落としている。


 スライムはアヤさんに任せて、俺は残りのスケルトン達を大剣で切り捨てた。光属性が付与されているので、【閃光刃】を使うまでもなく一撃で倒すことができる。モンタロスが合流する頃には敵はほぼ全滅していた。最後に残ったスケルトンにモンタロスが【斬魔剣】でとどめを刺す。


「モンタロス、そんな雑魚相手にMPを浪費するな。軽く小突けば溶ける」

「む、スキルの練習をしたのだ。名持ちはスキルを成長させることができるからな」


 ああ言えばこう言う。もう少し素直に言うことを聞いてくれないものだろうか? 仕方がないので『魔泉の指輪』を入手してから装備しなくなった『魔力の指輪』を差し出す。


「必要ない。『魔泉の冠』を持っているからな。効果は貴様が身につけている『魔泉の指輪』とだいたい同じだ」

 そう言うとモンタロスは『ミノタウロス王の冠』を取り外して、虚空から『魔泉の冠』を取り出して替わりに装着した。


 そういえばコイツ【アイテムボックス】スキルを持っていたな。ソフィアによると『魔泉の指輪』と同等のMP自動回復能力に加えて、防御力もあるという。『魔泉の冠』を付けた状態のほうが強いかもしれない。


「俺はお前の召喚主なんだぞ。『貴様』呼ばわりはないだろう」

「ではなんと呼べばよいのだ?」

「これからは『お屋形さま』と呼べ」


 コイツはどうも俺のことを舐めている。負けたとは言え実力では自分のほうが上だと思ってるし、実際にレベルもずっと高い。こういうの初めが肝心だ。舐めらるれとあとあと面倒なことになる。


「チッ……! わかったよ。オヤカタサマ!」

 まったく敬意が籠もってない声でモンタロスは言った。何しろ『司会者』を知らなかったのだから『お屋形さま』という言葉の意味もわかっていないのだろう。


だろうが! このクソボケ牛男が!」

 そう怒鳴ろうかと思ったが、パワハラ上司っぽいのでやめた。自分が嫌いだった男と同じような存在になるのは嫌だ。まぁ、俺のレベルがやつの最大レベルよりも上になれば大人しくなるだろう。かなり遠そうだけど……。


 宝箱の中身は「マジック・ポーション(効果小)x3」という始めて見るセットのものだった。このあたりもアップデートで変化したらしい。


 アイアンボアの肉は手に入らなかったが、この部屋は魔物フリーで飯を食うには最適だ。ちょっと遅くなったが昼めしの準備をする。


 肉はジャイアント・ルースターの鶏肉がまだ少し残っていたので、オークの肉と一緒に食べた。召喚獣(召喚亜人?)は食べなくても生きていけるようだが、食べると少しバフがつくという。自分とアヤさんだけ食べるのも少し気が引けるので、一緒に食べることにした。


「さてと。もうこの階層に用はないな。今日は地下8階を探索するか」

 後片付けを済ませてそう呟いたところで、部屋の外から悲鳴が聞こえた。

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