第31話 罠と罠

 少し休んでMPとHPを回復してから、俺たちは廊下を先へと進んだ。途中には結界のようなものが張られており【魔力感知】の精度が落ちるのがわかる。


 廊下の先には長さ50mほどのホールがあり、四方それぞれの壁が廊下へと繋がっていた。ホールの中心付近にはポツンと机と椅子が置かれており、ミノタウロス・ジェネラルが座って読書している。


【鑑定】

ミノタウロス・ジェネラル

種族  ハイ・ミノタウロス

レベル 33

HP  2250/2250(+450)

MP  1080/1080

膂力  1570(+310)

体力  2640(+880)

知力  3300(+1100)

素早さ 770

器用さ 1110

直感  710

運   790

※下一桁切り捨て

戦技  【閃光刃】【シールドバッシュ】

スキル 【指揮】【統率】【撤退】

魔法  【氷】【光】

耐性  【麻痺】【石化】【水】【氷】【土】

※+4以上のみ表示


【分析】

攻撃手段  近接武器、魔法

弱点部位  背中、足首

弱点属性 【毒】【火】

特記事項  軍略を好む。分が悪いとすぐに撤退する。


 強いな…。持っている武器は俺が持ってるのと同じ『ミノタウロスの大剣』だった。『ミノタウロスの盾』という中盾もエピック・クラスの装備のようだ。

 膂力が強いため大剣も片手で大剣を扱えるらしい。【軍略の指輪】という知力を50%上昇させるエピック・クラスの指輪もしている。

 

 敵は強いが2対1だ。無理そうだったら早めに撤退して、スキルや耐性を上げてからから再挑戦しよう。

 俺たちは補助魔法で一通りバフを掛け、左右に別れながら、ゆっくりと敵に近づいていく。敵がアヤさんの間合いに入ったところで、不意に上からの殺気を感じ、俺は横に飛び退いた。


「ッ!」

 肩から胸に掛けての肉がバッサリと切り押され、鮮血が飛ぶ。逆手にダガーを構えたミノタウロス・アサシン(LV28)はこちらに息つく暇も与えずに斬撃を放ってきた。

 俺はとっさに『鉄鋲の大盾』に持ち替えて斬撃をかろうじて防いだが、体が重い——毒だ。


「ヒール! キュア!」

 俺は回復魔法を掛けながら、バックステップで距離を取る。その瞬間、後方の壁に穴が開き、ミノタウロスの兵士たちが乱入してきた。


「ギャンッ!」

 アヤさんの悲鳴が聞こえたので、慌てて見やるとミノタウロス・ジェネラルの攻撃を受けて吹き飛ばされている。


「逃げるぞ!」

 俺は左側の通路に向かって駆け出した。猛スピードで走ってきたアヤさんの背中の上に飛び乗る。

 しかし、左側の通路からも複数のミノタウロスがホールになだれ込んでくる。背後を振り返ると右側の通路からもミノタウロスたちがやってきている。


「正面だ!」

 俺たちはホールの正面奥の出口に向かう。そこに敵の麻痺矢と光魔法攻撃が雨のように降り注ぐ。俺はアヤさんの上で後ろ向きになって、足でしっかりと彼女の体をホールドしながら大盾を構えた。だが、それでもすべての攻撃は防ぎきれない。


「ヒールオール! キュアオール!」

 すでに覚えていたがあまり使ってこなかった全体回復魔法を使用してながら、俺たちはホールの出口に向かう。


 俺が麻痺するとアヤさんが回復し、彼女が麻痺すると俺が回復する。ホールを出るとそこは廊下だった。幸いアヤさんのスピードに敵はついてこれないので、もう敵の矢も届かない。俺は正面向きに座り直すと、ポーションでHPとМPを回復する。


 その瞬間、右側の壁から突如複数の槍が飛び出してくる。アヤさんがとっさに跳躍して躱したので、直撃は免れたが右腕の肉が削げる。


「糞っ!」

 そう呟いた瞬間、今度は左側の壁から槍が飛び出してきた。アヤさんは躱しきれず俺たちは左半身にもダメージを負った。


「オールヒール!」

 アヤさんは更にスピードを上げる。この危険な通路から一刻も離れたい。

 だが、こちらの心理状態を見越したかのように前方の床が30mほどの長さに渡って抜け落ちている。トップスピードに乗っているアヤさんは止まることを諦め、そのまま大きくジャンプした。凄まじいジャンプ力だが、それでも向こう側の床までは少し足りない。


 俺はとっさに土魔法を使って両岸をつなぐ長い石板を作り、それを下方向からの風魔法で支えた。だが、柱のない即席の足場は脆い。着地した瞬間に2人の体重を支えることができずに土魔法で作った床にヒビが入る。

 アヤさんは体制を崩しながらも再びジャンプして対岸の床にかろうじて着地した。すると同時に、土魔法で作った足場は音を立てて崩れ落ちる。


「流石にもうこれ以上は無いよな?」

 しまったフラグを立ててしまったか、と思った瞬間、通路の先にある部屋から【サンダーボルト】が飛んでくる。

 俺はアヤさんの前に出て『鉄鋲の大盾』で受けた。50メートルほど先からミノタウロス・メイジ(LV28)が狂ったような勢いで【サンダーボルト】を連射している。


 この大盾は雷属性のカット率が45%しか無いので、光属性の攻撃よりも堪える。それでも雷属性体制が+5あるおかげで一度に受けるダメージは100ほどだ。硬直時間も短い。

 俺は大盾を構えたまま全速力で走る。【サンダー・ボルト】を10発受けたが、危なくなる前に後ろからついてきているアヤさんが回復してくれる。


 敵が11発目の【サンダー・ボルト】を放った瞬間にアヤさんが大きくジャンプして爪攻撃で敵を加えると、ミノタウロス・メイジは悲鳴を上げて床に倒れた。


「くたばれ! DIE! DIE! DIE!」

 俺は全速力で走り込むと、起き上がろうとしているミノタウロス・メイジが動かなくなるまで、【シールドバッシュ】を何度も連打した。


 この部屋の中に強い個体がもう数体いたら危なかった。

 やっぱり『運』がいちばん大事なのだろう。

 あるいは『直感』がもう少し高かったら途中で引き返す決断ができていたのかもしれない。


 その部屋はどうやらエントランスルームのようだ。宮殿の入り口にあった大扉と同じぐらい立派な扉が部屋の奥には設置されていて、その手前には光り輝く球体が浮いている。


 近づくと球体が発光してHPとМPが全回復した。間違いない。先にあるのはボス部屋だろう。

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