第29話 孤高のボッチ

 翌朝は朝5時5分前に目が覚めた。もはや習慣になりつつある宝箱チェックをしたところ、復活していた。

 24時間で復活なのかな? と思ったが、よくよく考えてみれば最後に開けたのは昨日の朝5時を過ぎていたはずだ。恐らく午前0時などのタイミングで一日一回復活するのだろう。


「レベルアップしたし、ちょっとマジック・ポーションを節約して貯めるかな」


 俺は独り言が多い。これはダンジョンに潜る前からの癖だ。もはや独り演説と呼んだほうが良いんじゃないか、というぐらいの極めて長い独り言を喋っていることもある。

 頭の中で成功者としてインタビューを受ける自分の姿を思い描いて、「本当はインタビューは好きじゃないんですが……」とか切り出して長々と語るというかなりイタイ癖、というか危ない癖をもった人だった。


 無理もない。何しろ7年間ずっと秘境で一人暮らしだったのだ。人間と話す機会といえばコンビニで「袋はあります」とかスーパーで「支払いはカードでお願いします」とかぐらいだったからな。話し相手は今も昔もアヤさんぐらいだ。


「ね、アヤさん?」

「にゃ」


 寝ている時以外はずっと『叡智のグラス』をつけた状態なのだが、朝食を食べている時にあることに気づいた。<次のレベルまで73,833マカ>と俺のステータスには表示されるのだが、アヤさんのステータスには次のような文言が記されているのだ。


<進化するには74,075マカと『進化の種』が必要です>


 進化だって? なんてこった。生きたまま進化してしまうのか。ダーウィンの立場は? いや、待てよ。ラクスティーケは「亜神に進化したらまぐわっても良い」とか言ってたな。ということは俺も生きたまま進化する可能性があるってことか。


『叡智のグラス』のヘルプ機能で調べたところ、獣はレベル29でカンストしてしまうようだ。


 獣の進化先は3つある。

 1つは光属性が強い『聖獣』、もう1つは闇属性が強い『上位魔獣』、そして人型の『獣人』だ。獣人の場合、属性はなんでもありらしい。


 進化先は本人(本猫)の魂の性質、カルマ、欲望などによって決まるという。

 もしアヤさんが喋れるようになるのであれば、獣人化が一番嬉しいかも。


 いずれにせよ、アヤさんが成長しなくなってしまうと困るので、これからは『進化の種』の入手が最優先事項だな。どこにあるのかまったく見当がつかないけど。


 こうなってくると一見死にステータスの『直感』や『運』が実はすごく大事なんじゃないかという気がしてくる。ラクスティーケも『直感』と『運』が他のステータスよりも高かった。

『叡智のグラス』を使用してもはっきりとは分からなかったが、敵の気配を察知するとか、レアドロップが増えるとかいったような効果だけではないのだと思う。


 朝食を済ませて、本日の狩りを開始する。

 銀狼シルバーウルフの集団を挑発するために軽く攻撃を仕掛けたが、レベル23の銀狼はあっさりと溶けてしまった。

 あまり倒しすぎると砦のミノタウロスとの戦力差がついてしまうので、適当に手を抜く。この際、アヤさんが【挑発】というスキルを手に入れた。


 レベルが上がりアヤさんのスピードが格段に上がったため、ウルフリーダーもまったく追いつくことができない。アヤさんは軽く流す程度のスピードで駆けて引き離しすぎないようにした。

 ミノタウロスの砦でも危なげなく敵の攻撃を躱すことができた。


 姑息な手段を使わずに最後に残ったミノタウロス・コマンダーと正面から戦ってみたが、昨日までの苦戦が嘘のように楽に感じられる。宝箱からは『光の長弓』を手に入れた。


光の長弓

種類    武具

クラス   レア

属性    物理、光

物理攻撃力 400

魔法攻撃力 480

アビリティ 器用さ10%向上

その他   【自動装備】


 毒矢や麻痺矢を使って放っても光属性が付くようだが、火属性や雷属性をエンチャントした矢は使えない。構えたところで火が消えて光属性のみが有効になる。


 弓矢を使いたくなるシーンがちょくちょくあるが、いちいち持ち替えるが面倒だった。【自動装備】は大変ありがたい。


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