第27話 戦略的撤退

 砦の櫓に上ってみると、北に壁が見える。こちら側も行き止まりか、と一瞬思ったが、双眼鏡で見てみると壁には大きな扉がついていた。つまりあの中に入れるということだ。


 5分待ってもミノタウロスたちがリスポーンしないのを確認してから、俺たちは扉の方へと向かった。リスポーンまでの時間は一律30分に変更で確定だ。


 下方修正は残念だが、むしろ今まで高速で回せたのはラッキーだったと言える。これからダンジョンに入る人が追いつくのはもはや難しいだろう。後は宝箱が復活するまでの時間の確認だ。


 扉の近くまで来てみるとその巨大さに圧倒される。一体誰がこんなに大きな門を使うのだろうか? 


 力いっぱい押すと扉は開いた。

 中は巨大な回廊になっていた。少しだけ中に入ってから【魔力探知】を使うと反応がある。左右の部屋にミノタウロスが7体ずついる。そのうちの2体は先程戦ったミノタウロス・コマンダーだ。一度戦った相手は【魔力探知】で種類まで分かる。


 この建物の内装はどこか宮殿っぽい。奥にボスが潜んでいる可能性は十分にあるだろう。そういうえばこの階層に落ちる直前に見た絵は『ミノタウロスの王』だった。王というからにはレベル40ぐらいあるかもしれない。


「今の実力じゃ厳しそうだな。今日のところは一旦撤退してレベル上げに専念しよう」

  

 砦のミノタウロスを銀狼シルバーウルフと戦わせる技をまた使いたいが、もと来た道を今から戻るとなるとあの砦をまた通らなければならない。ミノタウロスたちを銀狼の群れまで引っ張って行こうとしても無理だろう。

 かと言って俺たちだけで、あの砦を突破できるかどうかは微妙なところだ。前回は狼たちがいたお陰で岩場の上まで退避できたのだ。

 

「迂回路を探してみるか」

 東に向かって壁際をしばらく進むと、森の中へと通じる細い獣道をみつけた。獣道を道なりに進むと煙が見えてくる。


 近づいてみるとミノタウロス・ハンター7体が木のカップで何かを飲みながら焚き火を囲んで談笑していた。【分析】してみると『状態異常:酩酊』となっている。酒を飲んでやがるのか。


 酩酊している敵を倒すのは容易かった。昼間から飲んでいた君たちが悪いのだよ……。

 焚き火の側には宝箱が1つあり、中身は矢30本だった。ついでにワインもドロップする。あまり上等のワインではないが、飲めないことはないのでとりあえずマジックポーチに放り込んでおく。


 ここで今日の昼飯を食うことにする。凍らせていないアイアンボアの肉がまだあるので、風魔法で切り刻んでから焚き火の上に吊り下げられていた大鍋にぶちこんだ。アヤさんが食べる量が半端ないので自分が持参したフライパンでは一回で調理できない。


 まだちょっと鍋に肉が残っていたが、時間が近づいてきたので一旦茂みに潜む。

 ミノタウロスの一団は出現すると同時にワインを飲みまくってあっという間に『酩酊状態』になった。大鍋の中のアイアン・ボアの肉をなんの疑問もなく口にしようとしているので、ふたたび殲滅した。


「人の肉を勝手に食うな」

 人の調理器具を勝手に使っておいて、我ながら好き勝手なことを言う。


 ミノタウロス・ハンターたちの野営地を後にして小一時間ほど歩くと森が切れて湿地帯に出た。ここから西に森の切れ目に沿って進めばオークの洞窟のあたりに出るはず。


 途中でキラーアリゲータの大きな群れと遭遇した。60匹ほどいる。

 群れのリーダーは7メートルほどあるが、他のワニ達は小ぶりだ。恐らくこの近辺で最強の個体が形成しているハーレムで、ボス以外はメスか子供なのだろう。


 ボスのキラーアリゲーターがレベル28で残りはレベル20前後だ。弱点属性は雷、土。相性は良い。


 まずは土魔法で湿地帯に高めの台を作って絶縁体にする。その上に乗っかった状態で【ストーンランス】を放ってボスの腹を下から攻撃して動きを止め、残りの敵にひたすら【雷束撃】を放つ。

 直撃を受けた敵に加え周りにいるワニたちも感電する。アヤさんも単体攻撃の雷魔法【サンダーランス】を口から放って攻撃する。


 ワニはたまに水魔法の【ウォータービーム】を放ってくるが、アヤさんが【ウォーターウォール】を張って防ぐ。水の防壁を突破してきた攻撃を何回か受けたが威力が半減しているのでたいしていたくない。むしろ耐性上げにちょうどいいぐらいのダメージだ。


 数匹が足元までやってきたがすでに満身創痍で『天魔のハルバード』を突き立てると事切れた。


 流石に数が多いので時間は掛かったし、途中でМPが足りなくなってマジック・ポーション(小)を4本消費したが、ほとんどリスクがない割にはマカが美味しい。レベル29になるまではレベル上げを優先したいので、後でまた来よう。


 洞窟に戻りリスポーンしていたオークたちを馴れた手付きで倒してから宝箱を確認したが、未だに復活していなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る