第26話 漁夫の利

『叡智のグラス』の【魔力感知】に反応がある。別の魔物の一団が近くにいるようだ。具体的な種族名は分からないが、銀狼でないことは間違いない。


 迂回しようかとも思ったが左右ともに地面の起伏が激しく通りづらい。こうなったら覚悟を決めて強行突破するしかないだろう。


「アヤさん、前にも魔物がいるから全速力で駆け抜けて!」

「ンニャーッ!?」


 緩やかなカーブを抜けると砦のような物が視界に飛び込んできた。左右は大型の岩に挟まれており天然の要害という感がある。そこにいたのはミノタウロスだった。


【鑑定】を掛けると『ミノタウルス・ソルジャー(LV24)』という情報が得られる。細かい情報はチェックできなかったが、あまり足は速くない。


 入り口を固めているミノタウルスたちは突如現れた俺たちを見るや、すぐに武器を構えて戦う姿勢を見せた。


 アヤさんは奴らを直接相手にせず、フェイントを交えた華麗なフットワークで翻弄して入り口のバリケードを突破する。

 中には櫓があってそこからミノタウロスは麻痺矢を射てきた。アヤさんの胴に命中した矢をすぐに引き抜いて、【キュア】と【ヒール】を掛ける。


 続いて俺の背中にも矢が刺さる。しまった動けない。だが、次の瞬間にアヤさんが【キュア】を掛けてくれたので、行動の自由が回復した。俺は自分で矢を引き抜いて【ヒール】する。


 一回り大きなミノタウロスが大剣で突きを放ってきた。すんでのところでアヤさんが躱したが、凄まじい攻撃力だ。当たっていないのに衝撃波でダメージを負ってしまった。


ミノタウロス・コマンダー

種族  ミノタウロス

レベル 29

HP  1510/1510

MP  565/580

膂力  1620(+320)

体力  1860(+370)

知力  600

素早さ 460

器用さ 500

直感  690

運   590

※下一桁切り捨て

戦技  【閃光刃レイディアント・スラッシュ

スキル 【指揮】【統率】【破魔突き】

魔法  【氷】【光】

耐性  【麻痺】【石化】【水】【氷】

※+4以上のみ表示


 強い。明らかに格上の敵だ。しかも10体以上の兵士を率いている。銀狼の一団よりも質が悪い。

 ミノタウロス・コマンダーが次のモーションに移りかけた瞬間、『閃光刃:光属性の刃を飛ばす斬撃』と【分析】が警告を発する。


「跳んで!」

 アヤさんがジャンプすると同時にミノタウロス・コマンダーは斬撃を放つ。物理的に届く距離ではないが、大剣の切っ先から幅3mぐらいの光の刃が生じ俺たちがついさっきまでいた空間を斬り裂いた、


 アヤさんは着地すると同時に逆側の出入り口を守護していたミノタウロスたちに『火炎咆哮ブレス』を放ちそのまま駆け抜ける。後ろを振り返ると銀狼たちが砦に侵入して、ミノタウロスたちと戦闘しており、ミノタウロス・コマンダーも踵を返してそちらの応援に向かっていた。


「アイツやばすぎ……」

 この階層に下りてきてから一番強い敵だった。……しかし、奴は戦技を持っていたな。倒したら光属性のレアな武器が手に入るのかもしれない。


 俺たちは土魔法で足場を作って近くにある岩場に登った。眼下ではミノタウロスと銀狼が戦っていた。驚いたことにどちらの側が倒されても自分たちのところにマカが飛んでくる。漁夫の利。何しろ数が多いのでこれはレベル上げで使えそうだ。


 ミノタウロス・コマンダーは群を抜いて強いが、頭数は銀狼のほうがずっと多い。当初はミノタウロスが押していたが、ミノタウロス・プリーストが数体がかりで倒されて回復役がいなくなると銀狼側が勢いを盛り返す。


 結局、最後はウルフ・リーダーを含む3匹の銀狼とミノタウロス・コマンダーが残り、1対3の戦いを制してミノタウロス・コマンダーだけが生き残った。しかし、HPは402しか残っていないし、戦技やスキルを使いすぎてMPは空になっている。


 俺は膂力向上の補助魔法を掛けて、岩場の上から矢を射た。不意を突かれたミノタウロス・コマンダーにヘッドショットが入り、残りHPが300を切る。


 ミノタウロス・コマンダーは激怒した。雄叫びを上げてこちらに向かって突進してくる。2発目の矢は躱されたが、十分に近づいたところでアヤさんと一緒に【ファイヤー・ショットガン】を連発してとどめを刺す。

 まともに戦っていたら勝てていたかわからない。


 期待通りミノタウロス・コマンダーは大剣をドロップした。


ミノタウロスの大剣

種類    武具

クラス   エピック

属性    物理、光

物理攻撃力 1470

魔法攻撃力 1760

固有戦技  【閃光刃】

アビリティ 膂力・体力25%向上

その他   【自動装備】


 絶対的な性能は『天魔のハルバード』に劣るが、現時点ですでに使いこなせるのでむしろこちらのほうが良い場合も多そうだ。


 『天魔のハルバード』に次いで2つ目の【自動装備】付きの武器になる。念じるだけで『天魔のハルバード』がマジック・ポーチに収納され、代わりに『ミノタウロスの大剣』が握られている。一瞬で得物を切り替えられるのは超便利。

 

 砦にあった宝箱からは光魔法のスクロールが入っていたので、アヤさんに使ってもらった。


 加えて、弓矢、毛皮素材、および魔石数個がドロップ品として落ちていた。

 銀狼31匹とミノタウロス12体からは得られたマカは6,460。次のレベルアップに必要なマカは28,689だ。

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