第25話 森の銀狼

 3時間ほど二度寝してから、今日の探索を開始する。


 森を貫く街道を北に進むと徐々に肌寒くなってきた。毒沼のあたりはむしろ暑かったのだが、ほんの5キロほど歩いただけで気候が変わっている。これもまた地上ではありえないダンジョン固有の性質だろう。


 1キロほど歩くと銀狼シルバーウルフの集団に出くわした。

 レベル23の個体が4体いて、【鑑定】してみたところ、HPは300弱。素早さは高めで400近くある。【風爪ふうそう】【氷息ひょうそく】という風属性と氷属性がエンチャントされたスキルを持っていて、同属性の耐性も高い。


 『叡智のグラス』の【分析】機能を使ってみる。


攻撃手段  噛みつき、ひっかき

弱点部位  腹、喉

耐性   【風】【氷】

弱点属性 【石化】【麻痺】【火】

特記事項  追い詰められると仲間を呼ぶ。


 高い耐性を持っている属性が表示される一方で、まったく耐性を持っていない場合は弱点属性として表示される。つまり銀狼は【毒】や【雷】などの耐性も低いレベルで持っているということだ。


 敵に気取られないように奇襲を掛ける。鼻が効きそうなのであまり近づきすぎずに、魔法が届くぎりぎりのあたりから攻撃する。

 俺が【フレイムランス】を放つと一番近くにいた銀狼が炎に包まれのたうち回った。


 敵の注意がこちらに向いている隙に、アヤさんが飛び出して敵4体の横っ腹に彼女のオリジナル技の『火炎咆哮ブレス』を叩き込む。

 1体が沈んだところで、俺も突進して『天魔のハルバード』で敵2体を薙ぎ払った。


 銀狼たちは雷属性の耐性も多少はあるようなので、一掃はできないが一瞬のあいだ硬直する。そこを、アヤさんが火属性をエンチャした【破転爪はてんそう】で攻撃しもう1体を倒した。


 続いて更にもう1体を【五月雨突き】で処理したところで、薙ぎ払い攻撃を逃れていた1体が【氷息】を放つ。直撃を避けるために俺とアヤさんが回避すると、その銀狼は遠吠えをした。


「仲間を呼ばれた。一旦引こう」

「ニャッ」


 俺たちは街道を北向きに向かって走った。近場にいた銀狼たちが続々と集まってくる。彼らのほうが俺よりも少し速いので、徐々に距離を詰められていく。


「がぉ(乗れ)」

 俺はアヤさんに飛び乗り、体力および素早さ向上の補助魔法を掛けた。彼女のほうが俺よりもずっと速いので、騎乗した状態でも動きが速い。銀狼たちとの差が広がっていくが、1頭だけ徐々に距離を縮めてくる個体がいた。他の狼たちよりも一回り大きい。


ウルフ・リーダー

種族  銀狼

レベル 27

HP  560/560

MP  230/230

膂力  520

体力  510

知力  220

素早さ 600

器用さ 190

直感  380

運   300

※下一桁切り捨て

スキル 【指揮】【風爪】【氷息】【跳躍】【無詠唱】

魔法  【風】【氷】

耐性  【毒】【風】【氷】

※+4以上のみ表示


 俺が乗っていなければアヤさんのほうが速いのだろうが、騎乗しているため敵のほうがわずかに速い。リーダーの銀狼は距離を詰めると複数の【アイスバレット】を散弾のように放ってくる。


「ストーンウォール!」

 俺は氷の散弾を防ぐと同時に敵の進路を妨害した。ウルフ・リーダーは大きく跳躍してこともなげに壁を超える。

 ウルフ・リーダーは更に距離を縮めると、ふたたび氷の散弾で攻撃してきた。


「ストーンウォール!」

 今回の壁はさっきより幅が狭いがそのぶん高い。ウルフリーダーは向かって右側にサイドステップして壁を避けた。


 だが、その動きはすでに『叡智のグラス』が予想してくれていた。ストーンウォールの直後に放っていた【ファイヤー・ショットガン】をもろに受けてウルフ・リーダーが怯む。


 俺は弓矢を素早く取り出して、でたらめに麻痺矢を連射した。そのうちの一本がウルフ・リーダーに当たり動きを止め、『叡智のグラスが』が【乱射】スキルの獲得を知らせる。


「よし、今のうちに引き離そう」

「にゃー」


 距離はだいぶ開いたが、麻痺から立ち直ったウルフリーダーに率いられた銀狼の群れがふたたび後方から迫ってくる。集団の数は更に増えており30匹ぐらいいそうだ。


 リーダー以外はさほど強くないが、数の暴力は危険だ。

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