第14話 えっちな女神像の謎

 目が覚めてスマホで時間を確認すると朝の5時だった。3時間毎に起きるつもりだったが、アラームを設定しておくのをうっかり忘れてしまった。


 しかし、土壁による結界はまだ存在している。よく見てみるとちょっと作りが雑で設置場所もズレている。視界の縁では寝る前に解凍がてら外に出していたダークボアの肉をアヤさんが火魔法で炙っていた。

 彼女と目が合うと「フフン」という感じでドヤ顔された。どうやらアヤさんが土壁を作り直してくれたらしい。さすがデキる女!


 朝食をすませると地下6階の探索を再開し、「ハズレ券」を2枚見つけた。これで合計6枚だ。


 いつものように楽勝の戦闘を繰り返し、夕方には地下7階へと到達する。夕食の前に休憩室周辺を探索したが、宝箱の中身は若干グレードアップしているようでハイポーションが出てきた。この階層の敵は若干強くなっているがまだまだ敵ではない。休憩室周辺を3時間ほど探索して、9日目の探索を終えた。


 翌日は早起きして朝の5時から探索を開始する。

 地下7階からゴブリン・アーチャーとゴブリン・ガードという敵が出てきた。レベルは10。どうやらホブゴブリンはレベル10になると役職がつくようだ。

 一応すこし強くなって入るようだが、誤差の範囲内だ。


 昼頃になると探索は袋小路に入ってしまった。この階の構造物は一通りチェックしたはずなのに、地下8階へと続く階段を見つけることができないのだ。


「怪しいのはあの像ぐらいか……」


 廊下の突き当りがちょっとしたホールになっていて、そこに女神像が置いてあった。目隠しをしていて豊満な乳房が片方だけ顕になっている。


 像は押しても引いても動かない。

「さて……どうしたものか」と呟きながら、無意識の内に像の乳首を触っていた。人間、人目がない場所では本能がむき出しになってしまうものだ。


「あれ、ひょっとして?」


 ちょっとがあるような手応えだ。ひょっとしたらある種のスイッチなのかもしれない。


押す。

さする。

つねる。


 はい正解! 女神様はコリコリとつねられるのがお好きなようだ。

 像の後ろの壁が消え去って、隠し部屋が出現した。


 閉じ込められた例の「ゴブリン部屋」に似ているがサイズは一回り大きい。中央奥には大きめの宝箱がありその周りを魔物がうろついていた。レベル12のブロンズボアというダークボアを一回り大きくした魔物が6匹。


 宝箱の前の中央にはレベル15のアイアンボアという魔物がいる。群れのリーダーだろう。アヤさんよりもさらに一回りでかく、見るからに硬そうな外見をしている。 

 これまでに出てきた敵と比べると明らかにワンランク上の強さ。とりあえず、斬撃系や刺突系の攻撃は通りづらそうなので、武器をメイスに持ち替えた。


 部屋に突入すると同時にアヤさんが【咆哮】をあげる。敵はダメージを受けつつも踏みとどまっている。どうやら一撃では倒せない敵ばかりのようだ。するとアヤさんは驚くべき行動を取った。【咆哮】を浴びせつけつつ火の奔流を吐き出したのだ。


「火炎ブレス? 龍かよ!?」

 よくよく観察してみると口元に大きめのファイヤーボールを作りそれを扇状の範囲に広げて攻撃している。既存のスキルと魔法を組み合わせた彼女のオリジナル技だ。


「ふごーっ!」

 俺もアヤさんの真似をして口から火を吐き出す。【咆哮】の効果がないので、彼女の火炎ブレスと比べるとしょぼいが、ビジュアル的になかなか興奮させられるものがある攻撃だ。ブロンズボアは全滅したが、流石にアイアンボアは硬い。どうも受けたダメージを回復する手段を持っているようだ。


「せいっ!」

 俺は飛び出してアイアンボアにメイスを叩きつけた。「ゴーン」という金属音がしてメイスが跳ね返される。ほとんどダメージは通っていない。回復手段を持っている以上、素早く最大HP以上のダメージを与える必要がある。


 俺はメイスを床に放り投げて、マジックポーチから『天魔のハルバード』を取り出して構えた。その刹那、目の前が真っ暗になる。何が起こったのか理解できないでいると、鋭い牙が首筋に突き刺さるのを感じる。


「もしかして食べられてる!?」

 とっさに先程習得したばかりの火炎ブレスを放つ。肉が焦げる匂いがし、炎がバックファイヤとなって俺の顔も焼く。自爆ダメージも受けたが、俺に食いついていた魔物を引きはがすのにも成功した。

 眼の前には体長1メートルほどの大型のヒルがいた。


「キモっ!」

 俺は驚きつつも『天魔のハルバード』を突き立ててヒルを倒す。頭がくらくらするし、吐き気も酷い。このヒルは血を奪うだけではなく毒も持っているようだ。俺は倒れそうになってたたらを踏んだ。

 そこにアイアンボアが凄まじい勢いで角を突き立てて突進してくる。


「くそっ!」

 俺はとっさにサイドステップでかわそうとしたが、体が重くて思い通りに動かない。アイアンボアの銀色の角が俺の太ももの肉を削る。


「やばい。死ぬかも……」

 そう思った瞬間、俺の体力が回復した。太ももの傷もすぐに癒える。アヤさんが回復魔法を掛けてくれたのだ。


「助かる!」

 俺はそう叫ぶと、反転してふたたびこちらに向かって全力疾走してくるアイアン・ボアに『天魔のハルバード』を突き立てた。驚くほど手応えがない。これまで出会った中で一番硬いはずの敵をまるで豆腐のように貫いた。


「いや、この武器やばすぎでしょ……」

 思わず自分の攻撃に呆然とする。その間にアヤさんが天井にへばりついていたヒルたちをファイアボールで始末した。


「アヤさん、ありがとう。危ないところだったよ」

「にゃーん」


 アヤさんは「フッ、まだまだ甘いな」みたいな感じの表情をしている。否定はできない。実際に甘かった。ちょっとぬるい展開が続いていたので気が緩んでいた。


 天井の構造を確認すると入口付近だけ低くなっていて、ヒルたちが待機していたあたりが死角になっていた。なかなかいやらしい配置だが、バグではないし、バランスぶち壊しのぶっ飛んだ強敵というわけでもない。これは運営の上手さを褒めるべきだろう。


 そんなことを考えている間も徐々に体力が奪われていく感覚がある。ああ、そういえば、体力を回復してもらっただけでまだ解毒してなかった。俺は毒消しポーションを使用してから、宝箱を開いた。中にあったのは状態異常回復のスクロールだ。


 当然のようにアヤさんがそのスクロールを使用する。まぁ、いい仕事をしてもらったしこの状況で文句は言えんな。

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