第13話 えっ、このひと誰?
ダンジョンに潜って一週間が過ぎた。
閉じ込められた「ゴブリン部屋」で無駄にレベルを上げたため、地下4階の敵はまったく相手にならなかった。さっさと次に進みたかったが、宝箱はすべて開きたい主義なので攻略には半日ほど掛けた。
入手できたのは特に代わり映えのないアイテムだった。「ハズレ券」が2枚あったのが収穫か——いや、ハズレ券を求めるって本末転倒だろ。
地下5階からは「クレイジー・バッファロー」という魔獣が出現するようになった。ついにビーフ系の肉を落とす魔物の登場だ。狂牛病っぽい名前がちょっと心配だが、脳や脊髄を食べるわけではないから大丈夫だろう。
ゴブリン部屋から脱出した際に入手したアイテムは両方ともぶっ壊れ性能だった。『天魔のハルバード』の威力は凄まじく、薙ぎ払うだけで複数の敵が一瞬で溶けた。装備するだけでステータスが底上げされるのを感じる。
雷属性がエンチャントしてあって軽くかすっただけで敵が硬直する。更に【
スキルは自分自身の能力だ。【回転斬り】は縦方向に回転するので、長い武器では地面に当たってしまい使えない。が、そのような物理的な制限がない場合はすべての武器で使える。だから【
『戦技』は自分自身の能力ではなく武器に与えられた能力なので、【雷束撃】は『天魔のハルバード』でしか使えない。
この武技は遠隔距離からの電撃ビーム攻撃だ。必殺技っぽくて癖になるが、あまりにも強すぎる。『天魔のハルバード』を前に突き出して【雷束撃】を遠距離から放ちながら手首をくいっと動かすと敵の群れが一瞬で溶けてしまうのだ。
また、物を持っていない状態で念じるとマジック・ポーチの中から飛び出して一瞬で手のひらに移動してくる。武器を持ち替えるときは手持ちの武器を床に落として『天魔のハルバード』を念じるだけ。
ゴリ押しプレーばかりしているとプレイヤースキルが落ちそうなので『天魔のハルバード』はマジックポーチにしまい込んでドロップした普通の武器を使った。
槍を使っている時に【五月雨突き】という高速連突きスキルを覚えたが、このあたりの敵だとわざわざスキルを使うまでもなく簡単に倒せるのであまり使っていない。
『獣王の首輪』も凄まじい。ただでさえ速いアヤさんのスピードが飛躍的に向上した。魔力などの他のステータスも全般に底上げされているようだ。さらに自動回復の効果が付与されていて、小さな傷ならば一瞬で再生してしまう。
彼女のスキルである【咆哮】の威力もブーストされていて、この階層の敵ならば吠えただけで一瞬で溶けてしまう。たまに生き残る個体もいるが、スキルの威圧効果により硬直するのでそこを殴るだけ。
もうすこし深く潜らないと適正レベルの魔物には遭遇しないだろう。実際あの部屋から脱出してからまだレベルアップしていない。
*
8日目の夜は地下6階の休憩室で一泊することになった。トイレの鏡で自分の姿を確認するともはや別人になっている。身長も10センチ以上のびているし、肩幅も広くなってかなり筋肉がついている。
もともとは凡庸な容姿だったが、今はかなり精悍になっている。自分で言うのも何だがけっこうイケメンだ。なんとなくキャラクリできるRPGで作るキャラっぽい雰囲気がある。自分の願望が反映されているのかもしれない。
アヤさんはすでに体長2メートルを超え虎ぐらいのサイズ感になっている。長い体毛は相変わらず手触りが良いが、戦闘のときには硬化して刃物を寄せ付けない。
大きくなるに連れ、彼女はキャットフードより肉を好むようになってきた。食料を落とすモンスターを中心に狩ってきたので在庫は20kg以上あるが、いつまた閉じ込められるとも限らない。食料の確保は最重要課題のひとつだ。すぐに食べる予定がない肉は長期保存できるように氷魔法で凍らせて保存袋に入れている。
今日はクレイジー・バッファローのステーキを食べた。意外とさっぱりしていて美味しい。食べ終わった後はスティックタイプのココアにインスタントコーヒーを混ぜで簡易カフェモカを淹れた。ふかふかのアヤさんの脇腹をソファー代わりにしてくつろぎながら啜る。至福だ。
*
早朝に目覚めて地下6階の探索を開始する。むかしはゲームのしすぎて昼夜逆転することも珍しくなかったが、すっかり早寝早起きになった。
ここまで下りてもまだ敵が弱い。
楽勝すぎてつまらないので、素手で戦うことにした。インパクトの瞬間に魔力を拳に込めてやると硬質化や属性付与ができる。クリティカルが出ない場合でも、レベル9のホブゴブリンは2発しか耐えられない。素手で戦ってもイージーモード状態である。
夜になったので休憩したいのだが、6階入り口の休憩室は遠い。土魔法で簡易の休憩室を作ることにする。土魔法で壁を2つ作り、ダンジョンの通路を塞いで長さ10メートルほどの安全スペースを確保する。
アヤさんは一日で4kgぐらいの肉を食べるようになった。普通にコンロで焼くと時間が掛かるので、腹が減っているときは火魔法を使って自分で勝手に焼いている。人間と違ってたぶん生でも行けると思うが、彼女は文化的なのだ。
自分もすっかり大食漢になって毎日1kg以上肉を食べている。備蓄量がちょっと心もとない。野菜を食べていないのが気になるが、家から持ってきたマルチビタミンのサプリを飲んでいるので壊血病などの心配はないだろう。
晩飯の後はコーヒーを啜りながらくつろいで読書する。電子ブックリーダーは電池が長持ちするが、スマホのほうは機内モードにしていても結構電力を消費するので、とりあえず寝る前にモバイルバッテリーを使って充電しておいた。
モバイルバッテリーを使い切ってしまうと、日時の感覚が完全に消滅してしまいそうでちょっと怖い。
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