第12話 脱出とお詫び

 ざらざらとした感触を顔に感じて目を覚ました。


「うわぁ!」

 またゴブリンか! と叫び声を上げて飛び起きる。

 視界を覆っていたのは俺の顔を舐めているアヤさんの顔のドアップだった。どうやら腹が減ったらしい。


 アヤさんのキャットフードと水を用意して、俺も朝食を取ることにした。面倒くさいので飲みかけの牛乳とシリアルで済ませる。部屋の隅では縛り上げられたゴブリンがぐったりとうなだれている。そろそろとどめを刺してやるのが武士の情けなのかもしれない。


 だがその前にやることがある。俺は部屋の隅々にいたるまで詳細にチェックした。ひょっとしたら何らかのギミックが隠されているかもしれない。

 土魔法を使って階段のような構造物も作れるようになったので、天井を詳細に確認してみた。が、やはり何もみつからない。


「これってダンジョンの罠っていうよりもバグだよね。絶対に仕様じゃなくてバグ。GMさーん、聞いてますか!? 隠し扉が内側から開かないバグを早くフィックスしてくださいよ!」


 俺は大声で叫んだ。T字路でのリスポーン直後のゴブリン狩りはすぐに修正が入った。監視されている可能性は十分にある。

 

「シテ……コロシ……」と目で訴えかけているゴブリンを介錯し、今日の労働を開始する。ひょっとしたら脱出のキーアイテムがレアドロップするかもしれないし、食料ドロップの可能性も全くないとは言い切れない。


 家から持ってきた斧はだいぶ傷んできたので、ドロップした武器をいろいろと試す。レベルが一気に上ったので、どのみちどれを使ってもワンパンだ。魔法もいろいろと試してみた。


 昼になったのでダークボアの肉を焼いて食べる。これでダークボアの肉が残り2kg、ジャイアントロースターの肉が残り1.5kgだ。体が大きくなってアヤさんが食べる量がだいぶ増えている。キャットフードの残量も心配になってきた。こんなことになるならば肉目当ての狩りをもう少ししておけばよかった。


 夕方になると作業にも飽きてきたので、電子ブックリーダーで漫画を読みながら片手間でゴブリンを殲滅する。アヤさんは気が向いたときだけ参戦するがかなり飽きているようだ。戦いの最中に「お尻ぽんぽん」をおねだりしてくることすらある。でかいのでモフるのもなかなか大変だ。


 夜になったので哀れなゴブリンを1体を縛り上げる。人道的には問題あるが、たぶんこれがゴブリン道なんだ。いやほんとすまん。


 もはや倒した敵の数は数えていないがクロームコボルトは5匹倒した。たぶん今日一日で千匹近く狩っただろう。レベルは共に21になっており、もはやクロームコボルトを倒してもレベルアップしないことのほうが多い。


 入手するアイテムはかなり重複していて、あれほど欲しがっていた回復魔法のスクロールは30個近く余っている。弓と矢は必ずセットででるので、弓が17個で矢が170本だ。弓はひとつだけでいいんだけどね……。


 装備品もたまにドロップするが『布の服』などよりも家から持ってきた革ジャンのほうが防御力が高そうだ。ズボンもカーゴパンツを履いたまま。篭手と足甲以外はドロップ品を使っていない。


 昨日は入手できなかった武器や防具をいくつか入手できたのは良かったけど、たぶんもう目新しいものはないんだろう。仮にあるとしたら入手可能性1%以下の超レアアイテムぐらいだ。


 昼に作っておいたおにぎりに齧り付きながらビールを飲む。家にあったアルコール類もマジックポーチに入れて持ってきているのだ。アルミ製の保温袋に魔法で作った氷と一緒に入れておいたのでちゃんと冷えている。いやー12時間労働の後のビールは最高ですね。といっても5分に1回ゴブリンを殲滅するだけの簡単なお仕事ですけど。


 最近はあまり飲んでいなかったので500mlのビール2本ですっかり酔っ払った。バグを直さない「運営?」に対する愚痴をさんざんひとりごちているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。



 尿意を催して目が覚める。朝の5時。ちょっと早いけど、昨日は早めに寝たからこんなものか。部屋の隅で用を足す。トイレがないので仕方がない。

 だが、ダンジョンでは物を長時間放置していると勝手に消えるので掃除する必要はない。だいたい3時間ぐらいが目安だろうか? うっかりガスコンロなどを放置しないように注意している。


 朝食を済ませ、今日も黙々とゴブリンを狩っていく。わざと瞬殺しないであえて力加減を抑えて立ち回りを研究してみたりするが、力を抑えて弱い相手と戦ってもそれほど得るものはない。やはり程々の緊張感のようなものが必要だ。


 お昼が近いので飯の準備でもしようかなと思っていたら、アヤさんが自分の周りを土魔法の壁で囲っていた。なるほどこういう使い方もあるのか、そう言えば猫ってダンボール箱に入るの好きだもんね。そして閃く。いちいち紐で拘束する必要ないんじゃね?


 いつも通り湧いたゴブリンの1体だけを除き残りを殲滅し、その1体を部屋のコーナーに追い詰めて2方向を土の壁で囲む。天井まで達している必要はない。ジャンプして超えられない程度の高さで十分だ。

 

 狙い通りゴブリンの動きを封じることができた。魔法で作った物にも3時間ルールが適用されるようだが、寝るとき以外は3時間で十分だ。これで平和な昼休憩が手に入る。

 通路などで多数の敵と遭遇した際もこの技は有効だろう。敵を分断して各個撃破することができる。


 午後になってついに宝箱からレアアイテムが出た。

『魔力の指輪』――どうやらこれはMPを自動回復してくれる指輪らしい。一気に全回復という訳では無いが、これを身に着けているとなかなかMPが減らないし、休んでいるときの回復ペースが少し早くなる。

 素晴らしいものだが、今は食料のほうが欲しい……。


 夜になったのでアヤさんの餌を出す。だが自分の晩飯は抜くつもりだ。食料の節約という意味もあるのだが、ちょっと実験がしてみたい。

 俺はそのまま9時まで働き続けて、腹がぐぅーっとなったタイミングでポーションを飲んでみた。空腹感自体はなくならないが疲労感は取れる。たぶんポーションがあればなかなか餓死しないのではないだろうか?


「このまま明日の朝まで我慢してみようかな、でも腹が減ってると眠れないよな……」

 などと考えていると久しぶりに雷に打たれたようなあの感覚がやってきた。アップデートだ! 俺は隠し扉の場所に大急ぎで駆け出して、壁にメイスを叩きつけた。手応えが……ない! 壁が消えた! 3日のあいだ閉じ込められたこの牢獄からついに脱出だ!


 部屋から出ると廊下にハルバードと首輪が置いてあった。目にした瞬間に『天魔のハルバード』『獣王の首輪』という固有名称が脳に浮かぶ。神々しいオーラが迸っており明らかに高ランクのアイテムだ。


「つまりこれはお詫びってわけか。やっぱりバグだったんだな……」

 そう呟いて『獣王の首輪』をアヤさんに装着し、『天魔のハルバード』を装備した。


 2人ともすでにレベルは24まで上がっていて、もはやもうこの階層ではレベルアップは難しい。食料をドロップする敵だけを狩りながら、ほかの雑魚敵は無視して残りの領域を踏破した。


 そして日付が変わる頃にようやく地下4階の休憩室にたどり着いていたのだ。



****** 【付録:額のレベル表示】 ******


レベル19

— — —

—— ——

—————


レベル20

—— ——

—— ——

— — —


レベル21

—— ——

— — —

—— ——


レベル22

— — —

—— ——

—— ——


レベル23

—————

— — —

— — —


レベル24

— — —

—————

— — —


実際には線がもっと太くて破線(— —)の空白が短い感じです。

詳細については付属資料が一応あります。

https://kakuyomu.jp/users/transhiro/news/16817330663614567853

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る