第2話

 私が六年生になる頃、母はもう祖母の家に遊びに行かないようにと言いました。理由は、「おばあちゃんは病気になったから」ということでした。

 祖母が足を折るけがをして、それまで入院していたのが、ようやく退院できたころのことでした。母の連れていってくれる時にしかお見舞いに行けなかったので、翔はようやく自分で会いに行けると、喜んでいたばかりです。

 その時には私はすでに、友達と遊ぶことが楽しかったので、祖母の家を訪ねることは少なくなっていました。けれど三才下の翔はまだまだおばあちゃんっ子で、祖母が入院するまでは、ことあるごとに、祖母の家を訪ねていました。


「あの子はちゃんと友達がいるのかしら」


 とは母の口癖でした。それくらい、翔は祖母の家を訪ねていたのです。祖母も、変わらず翔をあたたかに迎えていました。

 けれど、その日母の制止が入ってから、翔は祖母の家を訪ねることができなくなりました。


「病気なんて、おばあちゃんは元気だったよ」

「元気に見えても病気になったのよ。だいたい翔、元気だったって言うけど、いつ遊びに行ったの。いつまでそうしておばあちゃんの家に遊びに行っているの。友達と遊びなさいと言っているでしょう」


 思わぬところから、責められて翔はぐっと詰まりました。


「でも、病気なんだったらお見舞いにいかなきゃ」

「行ってはいけない病気なの。とにかくこれからは母さんに黙って、行かないこと」


 いいわね、母は言い話を終わらせました。母に厳しく言われては、気の弱い翔はのみこむしかありませんでした。私は翔に、少し同情しました。けれど同時に、母の言うことが妥当にも感じていました。

 私は、母の言う祖母の病気とは、翔に祖母離れをさせる口実だと思ったからです。翔は祖母から離れるべきだと、私も思いました。

 祖母が心配でなかったわけじゃありません。ただ、祖母が本当に病気だなんて、現実と思えなかったのです。


 母は、私と翔に祖母の家を訪ねないように言いました。しかし、代わりに祖母の家によく通うようになりました。翔にはそれが不満だったようで、何度もお見舞いにつれていってくれるよう頼みました。


「だめだと言っているでしょう」


 母はとりつく島もありませんでした。しかしある日、翔が泣きそうになっているのを見かねて、父が母を取りなしました。


「翔は義母かあさんが好きなんだから、何も知らないで会えないのはかわいそうだ」


 と言いました。母は全くきのりしない様子でしたが、父と話し込んだあと、ようやくうなずきました。翔は喜びました。私もまた、翔が喜んだので、嬉しく思いました。


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