足並み揃えて

釣ール

課題:外も中も溝の魂

 ずっと同じ音楽ばかりを聴いている。

 最早どの国も制限が多くて窮屈だ。

 そのくせ労働環境とかその手のことは遅れたままだった。


 自分はなんとか生計を立てて独り立ちし、家族とは疎遠で友人関係にも家族だの愛と綺麗事を唱えながら、旦那や嫁死ねと呟く親ばかりだったから子供同士両親の悪口で話が弾んで楽しく暮らせた。


 人間である以上、優劣なく皆終わっている。

 本当に優れているのなら足並み揃えてみんな「最高の人生をそれぞれ過ごしている。」なんて言わないし、そんなフィクションも存在しないと声を出して叫びたかった中高時代。

 志半ばで亡くなった友との写真を見て、自分は笑みを浮かべた。


「どう?

 こちらの世界より快適?

 推しのアイドルが引退したと同時に心臓麻痺か。

 お前と話す時は本当に飽きなかったし、亡くなり方もフィクションみたいでしばらく好きだった映画も観るのをやめたくらいには羨ましい人生だったよ。」


 悲しみよりも勝ち逃げした友への苛立ちに涙が出てくる。

 今日は朝からぼおっとしていて、音楽で目覚めをよくしようとしても無駄だった。

 脳内には嫌な風景ばかりが浮かんで考え事ばかりしてしまう。


 払拭するかのようにそこら辺を散歩することにした。

 動かないよりはマシではあるから。

 高校時代に買った幽霊のキーホルダーを未だにつけ、放浪と洒落込む。


 なんだか熱っぽいな。

 外へ出るのはやめたほうがよかったか。

 そんな事を考えていると誰かとぶつかった。


「ぐはっ!」


 細いはずなのにしっかりした肉体の持ち主だったから自分からぶつかっておいて吹っ飛んだ。



「いってぇ。」


 ぶつかられた方はけろっとしている。

 見た目は自分と同い年くらいでお洒落な男性。

 服で見えないが何かのスポーツでもしているのだろうか?

 力強さを感じる。

 その人は吹っ飛んだこちらを助けるわけではないはずだが近づいてきて、自分の鞄のキーホルダーを見る。



「一般人の反応は興味深い。

 鍛えた成果って、自分じゃあまりわからないものだがちゃんと目に見える結果が出て助かった。

 でも、そんなに吹っ飛ぶことないんじゃないか?」


 確かにそうだ。

 ってこの人只者じゃない!

 真っ先に誰かの心配ではなくこちらのキーホルダーに興味がある時点でどこか住む世界の違う誰かなのかも。



「もう立てる筈だ。

 折角の暇つぶしかつやっと目が覚めてくれたわけだし、なんか話そうぜ。」



 こ、怖い。

 だが金がどうとかそういう雰囲気ではなく、彼はスマートフォンの写真にある心霊的な映像を見せて恐らくこちらのキーホルダーからホラー好きと断定されたのかもしれない。



 ー公園にて



 側から見ると友達同士に見えるが今朝出会ったばかりでタイプも違う。



 怖い話をしようぜと見えない筋肉質の彼は人間が行なった怖い話を次々と語る。

 いやあ、自分はもっとモンスターが多いB級感のある話が聞きたかったのだが彼の怖い話は絶妙なバランスでグレーゾーンを保っている。

 時代が時代ならアニメやノベルゲームになりそうなぐらいあり得ないがありそうなヒトコワだった。


「幽霊のキーホルダーをしている人間にこんな人嫌いになりそうな話を振るのは良くなかったか。

 悪い。

 」


「いいよ別に。

 君が一昔前なら作家だったんじゃないかってくらい壮大で現実味なかったから。

 自分もそういう系統のホラーを楽しめたらいいなと思ったし。」


 彼はその言葉を聞くと手応えありと豪快に笑う。

 本当にどんな生き方してたらこんな話ができるのだろうか。

 色々と聞きたいが知らなかった方がいい事を語る人な気がしたので流した。



「俺はどうしても人との殴り合いを避けられない仕事をしているから、先輩とか後輩からロクな話を聞かない。

 今じゃ人間の怖い話も怪談やレンタルDVDで楽しめる。

 あとサブスク。

 誤解してほしくないが俺はルールが定められた空間で戦っている。

 本当に嫌な奴には怖い話で撃退しているだけだ。」


 余計話したくなくなるよ。

 なんでぶつかってしまったんだろう。

 多分この人も幽霊とかモンスターでホラーを楽しみたいのかもしれないけれど、その手の現象は拳で解決できそうだ。

 筋肉は裏切らないってね。

 でも彼は戦えるバンドマンのような肉体美だから現代格闘技はビジュアルを保ったまま戦えるのかもしれない。

 凄い世界だ。

 いや、格闘技とは彼は言ってないけどそれ以外知らないから。

 ただ、流石に喧嘩したり恐喝するようなタイプには見えなかった。

 この人は自分の吹っ飛び方を観察して、話せる相手だと推理していた。

 特殊な才能があるんだと思う。

 それにぶつかった相手に怖い話をしたがる筋肉質な人なんて極め過ぎている。

 謎が多いしこの人が怖いんだけど、ここはなぜ自分を選んだのか彼に質問をした。


「話は変わるけど、ぶつかったのは謝るよ。

 でも、なんでそんな話を自分に?」


 彼はいつのまにか用意していた缶コーヒーを飲んでつぶやいた。



「不審には思うか。

 特に他意はない。

 あんなオーバーに吹っ飛んだお前が面白すぎて興味が湧いただけだ。

 しかも大学生かそこら。

 俺と変わらない年齢。

 いつも自分は他人とは違うと競技的に考えて練習していたからたまには別の世界に住む人間と話したくて外へ出たらここまで話をしてしまっただけだ。」



 なるほど。

 形は違うけど似た趣味を持つ人間と判断したのか。


 すると彼は装飾された手鏡をこちらに渡した。


「食べ物とかを知らない人間に渡されたら怪しいし、かといって謝礼で金を渡すのも怪しまれる。

 だからその手鏡を渡す。

 それならSNSを利用せずに俺を呼べる。

 話を聞いてくれたお礼に、もしお前の身に何かあったら俺がお前の代わりに殴ってやる。

 もしかしたら蹴ったり、組んだりするかもしれない。

 そこはご愛嬌だ。」


 え?

 謎のアイテム出現?

 何が起こったのか分からなかったが彼はそのまま公園を去った。



「はぁ。危なかった。」


 良い人ではないかもしれないけどなんだか親密になってしまった。


 この手鏡があれば彼を呼べるなんてそんな…と思っていたら鏡に彼が写り、手を振っている。


『電話としても使えるんだ。

 声、聞けるだろ?』


「う、うん。

 バッチリ聞こえるよ。」


『いつでもお互い出られるわけじゃなくて、お前が窮地ならその手鏡は反応する。

 つまり端末と違って束縛しない。

 廃墟を巡っていたらある人にそれを貰って特に使い道がなかったからお前なら使えそうだと判断した。

 じゃ、そういうことで。」


 彼はもう見えない。

 なんだか凄い物を貰ってしまったが、つまり彼とはもう親しくなれたということ?

 ぼおっとしてぶつかっただけなのに。


 自分はこのキーホルダーを見てお守りみたいな役割をしてくれたので撫でてみた。

 ホラー好きと知られなかったら無視をされたかもしれない。


 お互い名前を言えなかったがまた会う時に名前を言えばいいか。

 自分は軽い気持ちで手鏡を鞄にしまい、家に帰った。



 ーその後



「くそっ!幽霊軍団なんて聞いてねえ!

 お前にも鍛え方を教えてやる!

 名前は?」



 あれから二年後に廃墟に行かされることになって幽霊に囲まれることに。

 そこで久しぶりに彼を呼んだ。


「じ、自分はルチル。

 君の名前も聞いてなかったからついでに教えて。」


「テイセイだ。

 下の名前でいい!

 あの時の恩を返す!かかってきやがれぇぇぇぇ!」


 彼はまだ戦える。

 自分もそんな彼の強さに惹かれていった。

 なんとか二人で無事に帰ろう。

 と、手鏡を大切に守って耐えるのだった。

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足並み揃えて 釣ール @pixixy1O

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