第18話 討伐部隊と共に
結局、予定の時間をはるかに遅れて、マルティカ達は皆の元へ集った。ニコニコとご機嫌なサライを見て、レツァードは悔しそうに歯軋りをした。
「ふふふっ、私も早く孫の顔を見たいのよ」
「孫じゃねーし、余計なお世話だし……」
「でも、こんな時間に起きてくるなんて昨夜はお楽しみだったんでしょう?」
とても一国の王妃とは思えない発言。そんな会話をマルティカは、顔を両手で覆って隠して聞き流していた。
何はともあれ……早速、瘴気の奈落渦の浄化へ向かう為に特別部隊を編成した。聖女であるマルティカと魔物討伐の主軸にレツァード。そして聖女の警護にユーエンとリリアン。そして、テルズニアからも一名、参加を願い出た兵士がいた。
「久しぶり、レツァード。相変わらずの脳筋っぷりだな」
「キド……? お前、生きてたのか? 全然顔を見せないから死んだのかと思ったぞ?」
レツァードと同じくらい背丈のある、驚くほどの美形の兵士だった。滑らかで清潔感のある白い肌、碧を帯びた白髪の髪に碧眼の眼。ユーエンも美形だと思っていたが、比べ物にならないほどの美青年だった。
「彼はキド・リューヴィ。このテルズニアの第二精鋭部隊団長で、俺の幼馴染です。一見無愛想ですが、腕は確かなので頼りになりますよ」
「キドです。あなたがレツァードの伴侶ですか? あんな脳筋ゴリラを選ぶなんて、なんて物好き」
———脳筋ゴリラ?
「怖くないですか? 幼馴染の俺ですら強面に怯えて眠れない日があるというのに……。アレとキスしたり抱き合ったりしてるんですよね? 骨は大丈夫ですか? 一度医者に診てもらった方がいいですよ? あ、もちろん頭も一緒に」
「おいおいおい、お前は何を抜かしてるんだコラ」
最初から全開で悪口を連ねるキドに、レツァードもタジタジだった。
「いや、俺は純粋に心配してただけだよ。でも納得だな。レツァードってどんな人でもいいから彼女が欲しいとか言ってる割には、拘りが強くて。しっかり美人を選んでいるところがレツァードらしい」
「もう、もう止めろ……それ以上口を開くなら俺も容赦しねぇぞ?」
「全部事実だし、嘘じゃないし。けど、おめでとう。俺も安心したよ」
冷徹美青年の微笑に、皆がほぅ……と息を呑んだ。
「ってことで、魔物はキドと俺の二人で対応するんで、ユーエンとリリアンは一緒にマルティカ様を護衛して下さい」
「了解。つーか、個人的な意見なんだけど、お前が他の奴にマルティカ様を預けるなんて予想外だったよ。何があっても自分が守るって言い張ると思っていた」
ユーエンの言う通り、他の奴に任せるなんて心外だ。だが、実力を認めたキドでも太刀打ちできない魔物を相手にするのだ。中途半端な覚悟では本末転倒になりかねないと自負していた。
「討伐を全うすることが彼女を守ることに繋がるんだ。俺も辛抱して頼んでいるんだから、死んでも彼女を守れよ?」
「俺、お前の上官」……とユーエンは口にしたかったが、不満の言葉を飲み込んだ。この討伐、無事に済めば良いのだが。痛いほど伝わる緊迫した空気に吐きそうだった。
瘴気が発生された山頂には、数日かけて向かうことになる。だが幸い目撃されていた魔物の数も少なくなっており、予定よりも早く着きそうだった。
「数日前まで中級レベルの魔物が徘徊していたというのに……聖女様が来た途端、姿を見せなくなった」
自分の幸福度と比例して力が発揮されるとは口が裂けても言えないが、危険を避けられるのならそれに越したことはない。
マルティカもリリアンに手を引かれながら、険しい山道を登り続けた。
「しかし聖女という存在は丁重に箱入りに育った存在だと聞かされていたけど、逞しいね。少なくてもこんな獣道を難なく登るとは思ってなかったよ」
キドの辛辣な言葉が胸に突き刺さる。
自分以外の聖女の情報を知ったのは、昨日が初めてだった。自分にとっては戦禍の最前線での討伐は当たり前だったが、他の方は違うらしい。
「だから言っただろう? そんな方だからお慕いしたんだ。尊重されるべき存在なのに、それに甘んじることなく身体を張って戦ってきた人なんだ。他の箱入り聖女と一緒にするな」
レツァードも中々の毒舌だ。彼は多少、持ち上げ過ぎなのでマルティカはそんなことはないですよと謙遜してしまう。
「………本当に、お前によく似たお人柄なんだな。王妃にも愛されて皆に必要とされているのに、上を目指して登り続けて。お似合いだよ、二人とも」
「あ、ありがとうございます。キド様に認められて嬉しいです」
彼は黙り込んだ末、軽く会釈をして進み出した。
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