第17話 盛られた薬【甘々微エロ/R-15】

 部屋に入るなりレツァードは窮屈な服を脱ぎ捨て、思いっきり沈むようにソファに寝転んだ。余程肩に力が入っていたのだろう。リラックスした様子を自分にだけ見せてくれるのが、マルティカは嬉しかった。


「あー、疲れたぁー……マルティカ様も疲れたでしょう? さっさとドレスを脱いで、楽になりましょう」


 男の彼はそれでいいのかもしれないけど、女はそうはいかない。用意して頂いた真っ白なシルクに絢爛なビジュが散りばめられた高級ドレス。粗相して汚すわけにはいかない。


「あの、一人では後ろのホックを外せなくて……外していただけますか?」


 髪を掻き上げ、真っ白な背中とうなじを見せて頼む彼女に、身体が固まった。思わず生唾を飲み込む。


「すいません……気付かなくて」

「いえ、気付いていたら、それはそれで恥ずかしいので」


 ゆっくりと一つずつホックを外し、尾骨の辺りまで露わになる。ちょっと拍子でズレ落ちそうになるドレスを必死に掴んで、恥ずかしさを押し殺した。


「………マルティカ様、今日は色々とすいませんでした。サライ王妃が、何かと失礼なことを」

「い、いえ、とんでもないです! 王妃様は本当にレツァード様のことを大事に思われているんですね? 本当の親子のようでした」

「はは、まぁ、親代わりみたいなもんですね。早くに親を亡くしてるので」


 もしかしたらと覚悟はしていたが、案の定の返答にかける言葉が見つからなかった。


「俺の父親は、ガラドスでそれなりに位の高い軍人だったんですが、派閥争いに巻き込まれ、表向きは両親共々事故死。よくある話ですよ」


 亡くなった父の意思を継ぐように切磋琢磨がむしゃらに登り詰めたが、魔族の襲撃のせいで積み上げてきたものがあっという間に消え失せて、生きる意味が分からなくなったと語ってくれた。


「瀕死の傷を負った俺は漠然とこれからのことを考えてて、どうしようか途方にくれていた時にマルティカ様の噂を耳にしたんです。さっきの王妃の言葉じゃないけど、これが俺の選択でした」


 背後から包むように抱き締められ、身動きが取れなくなった。彼の吐息が耳を掠めて、熱を帯びる。


「———マルティカ様、あなたはこの先一生、フィガー王国に尽くすのですか?」

「……え?」


 思いがけない言葉にマルティカは顔を歪めた。質問の意図が分からない。


「今回のことで、フィガーだけが全てではないと知ってもらえたと思っています。聖女だからと自分を縛る必要もない。正直、俺も……あの国はあなたに相応しくないと憤りを抑え切れないです」


 今までの処遇を考えれば、やむ得ない。

 死にかけたことも少なくなかった。無慈悲な言葉も幾度となく投げつけられた。自尊心を踏み潰されて、自信なんて皆無だった。


「この浄化が終わったら、俺と一緒にテルズニアに残りませんか? 俺もここでなら、あなたを幸せにする自信がある」


 まって、そんなことを突然言われても困る。例え不遇な対応でも、生まれ育った国には違いない。簡単に見捨てることはできなかった。

 困惑な表情を浮かべるマルティカに彼の顔が近付いてそのまま口を塞がれた。着崩していた衣服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ生まれたままの姿で深く口付けあった。


「今日も美しいです。普段の格好もいいけど、こういった露出の高いドレス、初めて見たから興奮しました」

「そういうことはドレスを着てる時に言ってください……! もう脱いじゃったじゃないですか」


 マルティカの言葉が聞こえていないのか、ずっと胸元を弄って、先を舐めたり弾いたり。その度に恥ずかしい声が漏れて、顔が熱くなった。


「固くなってきた……マルティカ様、エッチになりましたね」


 ニヤニヤと悪戯に笑って、ズルい。自分だって人のことを言えないくせに。


 ———と、言うよりも……何かおかしい。いつもより身体が熱いし、刺激が欲しくて堪らない。心臓も普段より騒がしいし、目の前の彼が愛しくて愛しくて、今すぐメチャクチャにされたい。そんな彼女の様子を見てレツァードも顔を押さえた。


「———クソっ、やられた。マルティカ様、すいません……! さっきの食事に媚薬が盛られていたかもしれないです」

「媚薬……?」

「くそ、全くあの人は! 俺とマルティカ様の関係を偽装だと思って既成事実を作らせようとしたんじゃ……! そんなに俺のことが信用できないのか」


 真相は王妃しか知らないが、媚薬を盛られた事実は変わらず、憤っている彼にピタリをくっついて縋って誘ってみた。


「あの……せっかくなので、このまま」


 首元に腕を回して、火照った上半身をくっつけて。舌を出してゆっくりと絡ませた。前よりももっと、激しく……深く。


「……そんな欲情された顔をされたら、歯止めが効かなくなりますよ?」

「それって必要ですか? 私もレツァード様が欲しくて堪らないのに」

「———本当だ、必要ない」



 こうして二人は、普段よりも激しい夜を過ごしたのであった。


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