第14話 いざ、テルズニア王国へ
「わー、久々の国外護衛! せっかくだし楽しもうね、マルティカ様」
突如決まった聖女としての任務だが、まさかこんな事態になろうとは、誰が想像しただろう?
「マルティカ様が行くなら、このルウルもご一緒致します! マルティカ様の身の回りのお世話は私に任せて下さい!」
「私も、私も! ねぇ、ユーエン隊長、私も同伴して良いですか?」
初めはマルティカとレツァードの二人の予定だったのに、大所帯での移動となってしまった。だが、それでも通常より少ない方らしい。本来なら大勢の護衛を付けて表敬訪問しなければならない作法だと教えてもらった。
「国力のアピールというか、色々しがらみもあってね? まぁ、今回はロザック皇太子の婚約披露宴と時期が被っていたから仕方ないよ」
「いや、それなら護衛隊長のユーエンが離れたらダメだろう? 何日も、下手したら数ヶ月掛かるかもしれない任務だぞ?」
「そんな長い時間マルティカ様といれるなんて、俺幸せー♡ まぁさ、人間は多いに越した事はないだろう?」
テルズニアに向かうだけでも一週間掛かる。馬車での移動になるので一人での護衛は難しいし、少しでも護衛は欲しかったところだ。
「申し訳ない……俺達のせいで」
「そこは普通にありがとうでいいと思うよ? まぁ、積もる話も聞きたいし? マルティカ様とはうまくいったのか?」
彼とリリアンとの一芝居のおかげで昨晩は夢のようなひと時を過ごすことが出来た。彼らには感謝しかない。
「ってゆーか? マルティカ様があんなに美人って聞いてないんですけど! 思わず見惚れて心臓飛び出そうになったわ!」
「俺は最初から知ってたけどね。そもそも皆、見た目で左右されやがって」
「あ、見た目でって言えば、ロザック王子。恐いねあの人。絶対に婚約破棄したことを後悔してるぞ?」
それについてはずっと気がかりだった。杞憂に終わればいいのだが。やっと解放されたというのに、またあの男に振り回されるのかと思うと、ウンザリする。
下級兵士という身分が忌々しい。ガラドスの時には、将軍の肩書きも目前だったというのに。自分だけのことなら気にしなかったが、いざという時に愛しい人を守れないのは歯痒かった。
「そーいやさ、テルズニアってどんな国か知ってる? 俺、あんまりフィガーから出たことがなかったからさ?」
「あー……、良い国だよ。貿易が盛んで活気がある国だ。王と王妃が高齢ってのもあるのか、落ち着いていて俺は好きだな」
そう、ガラドスから逃亡する際、傷を療養したのがテルズニアだった。あの国の人とは交流があるから、マルティカに関することで良いアドバイスが貰えるかもしれない。
「ふぅーん、自分が知らないだけで世界は広いんだね。そんな良い国ならそこに住めばよかったのに。良い待遇も与えられたんじゃない?」
「いや、俺はマルティカ様の噂を聞いた時から、骨を埋めるのは彼女の為って決めてたから。論外」
「お前……っ、俺が女ならお前に股を開いたね! 惚れそうになったわー!」
「ワッ、触るな変態! 俺はクズ男なんて願い下げだ!」
「女だったらって言っただろう? もうー、レツァードのイケズー」
そんな和気藹々とした外の様子を、馬車の中で待機していた女子達は笑いながら聞いていた。
「はぁー♡ レツァード様のマルティカ様への愛は深くて感銘を受けます! あの方になら、このルウルも安心して任せられます!」
「な、何だか照れます……。嬉しいけど、色んな人に言うのは恥ずかしいです」
「キャー、私まで照れるッス♡ 私も気持ち分かります! レツァード先輩って不器用なのに優しくて堪らないッスよね! 私も何度、あの筋肉を狙ったことか……」
少しズレているリリアンの発言に、不審な目を送る二人。
やっぱりリリアンはレツァードのことが?
「昔のことです! 私はもうスッパリ振られたので! それに私はー童貞が好きなんです! 童貞じゃなくなった先輩なんて眼中にないですね!」
「ど、童貞が好き………。リリアンさんは、一体どんな恋愛観をお持ちなんですかー?」
「基本、来るもの拒まず! 私を選んでくれる人はウェルカムですよー♡」
「げぇー、私は無理です。やっぱり恋は運命の糸で繋がった人でなければ! そう、マルティカ様とレツァード様のように!」
「ルウルはロマンス小説を愛読してるから、色んなことを知ってるの。レツァード様との時は、何かと相談に乗ってもらったね」
「私はマルティカ様命! あなたの幸せが私の幸せ……! なのでロザック王子から婚約破棄を言い渡された時はもう、クビ覚悟で王子を殴りに行こうと思いました! けどそこにレツァード様がズバっと言って下さって! 胸がスカッとしまいた!」
息つく暇もないほど盛り上がりを見せる女子会。年頃の女の子がキャッキャしてる光景は眼福だと、ユーエン達も微笑ましく眺めていた。
「オジちゃんも混ざりたいなー♡ あー、意識してなかったけど、俺って彼女達と一回り違うんだよねー」
「あー……ユーエンって三十路前でしたっけ? 俺は二十三なんで、皆の中間か」
「お前って老けすぎだよね? 童貞のくせに人生観が達しているというか?」
「もう童貞じゃねーし……童貞童貞うるせェ」
やっと言えた事実に、何を言ってくるかと身構えたが、彼はニヤニヤしてるだけで、からかってこなかった。
むしろやっと取れた言質に、手綱を放ったらかしにして女子達の中へと入っていった。二体の馬を引く羽目になったレツァードは睨みつけたが、最早盛り上がった彼らを止めることはできなかった。
「とうとう結ばれたのか、マルティカ様とレツァード! ちょっとお兄さんに詳しく聞かせてよ?」
「もうユーエン様、無粋ですよ? しかし私も気になります! マルティカ様、是非! 詳細を教えてくださいませ!」
「きゃー♡ 気になる、気になるー♡」
よ、余計なことを言わないよな、マルティカ様……。
眉間を抑えながら、先が思い知らされると頭を悩ませるレツァードに、彼の愛馬のグリーは慰めるように声を上げた。
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