第13話 わ、私を騙していたのか⁉︎【プチざまぁ】

「どうやら隣国のテルズニア王国内に、大規模の瘴気の奈落渦が発生したようで、凶悪な魔物の襲撃に遭っているようです」

「テルズニア……」


 たしかガラドス帝国とフィガー王国とトライアングルに位置した国だ。一番最年長の聖女が管理している大聖教神殿からも近い位置にあり、比較的魔物が少ないと言われていた国なのに不穏さを拭い切れない。


「どうも大聖教神殿の聖女ソフィア様の容態がよろしくないようで……。その為、マルティカ様に支援を望まれたとのことでした」


 聖女としての力が一番未熟である自分の力を要請するなんて、よほどの事態なのだろう。一通りの説明をルウルから受けたマルティカは会議室の扉を開けた。


「やっと来たか、遅いぞマルティカ。お前には聖女としてテルズニア王国に行ってもらう。だがな、お前も知っての通り、私とクリスティーヌの婚約披露宴を間近に控えているから、多くの護衛はつけられな———……」


 開けたと同時に、偉そうに減らず口を叩く王子。相変わらずだと苦笑を溢しつつ、これで披露宴に行かなくてもいい理由ができたと喜んだ。


「かしこまりました。では、私専属の護衛と共に参りますので、ご安心下さい」


 元々マルティカ一人への依頼……。こんな会議室に大勢の人を集めて話し合うこともないのに。わざわざ御苦労なことだ。

 だが何やら会議室が騒めいている。皆の視線がマルティカに集まり、気持ちが落ち着かなかった。


「お、お前……誰だ⁉︎」

「誰って、私はマルティカです。聖女のマルティカ・マリッシュです」

「違う! 私の知ってるマルティカは貧相で不細工なゴブリンのような女だ! お前みたいな———!」


 王子は顔を真っ赤にして、怒っているのか焦っているのか、尋常でない態度で喚いていた。


 ———しまった……、仮面をしていなかったことを忘れてた。


「ふふふっ、しかも今日のマルティカ様は、私が知る中でも最高に美しいコンディションを誇っております。幸せで満たされたマルティカ様……っ、それはもうすれ違う人間全てを虜にする美しさ! 差し詰めこのルウルも魅了された一人でございますが」


 入り口付近で待機していたルウルが、勝ち誇った顔で喋っていた。気付いていたなら仮面をつけていないなら先に教えて欲しかった……!


「何をおっしゃいます! こんな美しい顔を隠すなんて、神への冒涜ですか!」

「ルウルは少し黙ってて!」


 一方、初めて本来のマルティカの素顔を拝見した大臣達は、動揺を隠せずにいた。そして王子も。


「ほ、本当にマルティカなのか?」

「———だから、そう申し上げているじゃないですか」


 するとフラッと覚束ない足取りで、ジッと顔を覗き込んできた。以前ならマルティカが近付くどころか、視界に入ることすら嫌がっていたというのに。


「………美しい。こんな綺麗な女性は初めて見たぞ? おい、お前達! 何をボーッと突っ立っている! 彼女を丁重に扱え!」


 は? あまりにも違い過ぎる態度に怒りさえ覚えた。いや、今更椅子を持ってこられても、早くテルズニア王国へ向かわないといけないのに。


「マルティカ、お前が行く必要なんてない。お前は私のそばにいればいい」


 手を強く握り締めて、猫を被った声で囁いて心底気持ち悪い。嫌悪感から手を振り払おうとした時、力強い手で身体を後ろに抱き寄せられた。


「———っ、そんな汚い手で、マルティカ様に触れないで下さい」


 引き戻してくれたのは息を切らして駆けつけてくれたレツァードだった。黒い感情が洗われて、消えていくのが分かる。


「くっ、またお前か! マルティカから離れろ! 下級兵士の分際で!」

「俺はマルティカ様の護衛なんで。話は伺いました。事は一刻を争う事態ですので、俺達はこれで失礼いたします」

「おい、待て! 話は終わってないぞ? お前、マルティカを置いていかないと」


 またしてもレツァードに迷惑を掛けてしまう。そう思い足を止めると、奥に座っていた護衛隊長ユーエンが近付いてきた。


「そうですよ、王子。これは自国だけのことではないので、国際問題になりかねません。聖女様の派遣要請を受けて金銭を受領した以上、今更なしってわけにはいかないですよ?」

「ユーエン、お前……っ!」

「ついでに私もマルティカ様の護衛につきます。なぁーに、今のフィガー王国は瘴気も魔物も皆無。私も必要ないじゃないですか」


 ユーエンはマルティカの隣に立ち、ヒラヒラと手を靡かせた。


「王子は聖女様を売った金で、盛大なパーティーをお楽しみ下さい。では、いってまいりまーす♪」


 一人で喚くロザックを置き去りに、マルティカ達は会議室を後にした。


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