第17話 妹に看病された part3
二人で朝食を食べた後、クレアは俺の寝ているソファの前に来て心配そうに見つめていた。
「本当に大丈夫?」
「ああ。心配するな……だから安心して学校へいってこい」
俺がそう言うとクレアは不満げな顔をして近くに置いてあったスクールバッグを持ちリビングを出ようとする。
「わかった、何かあれば絶対にLINEしてね……」
「了解」
手を振ってクレアを見送ろうとすると、まるで永遠の別れを告げられた女性のように悲しそうな顔をしてリビングを出ていくのだった。そこまで俺のお世話をしたかったのか……と俺は呆れながらクレアの後ろの姿を見送っていた。
さて一人になったはいいが、とても暇である。とりあえず俺はテレビを付けるも、やはり朝はニュース番組しかやっていなかった。しょうがないので固いニュース番組ではなく面白いバラエティなニュース番組をただぼーっと眺める。
ダメだこういうニュース番組見るのは好きだけど、長時間はきついな……。同じ内容もたまにあるし……。いつの間にか俺はスマホでソシャゲーのディリー消化を始めていた。
平日の授業中の時間にしかできないクエストもできるし、何よりゲームをできる時間がたくさんあるというのも嬉しい。学校を休んでするソシャゲーの背徳感はとてつもないものがあった……。風邪を引いてるとは言えこんな事をしてもいいんだろうか?いや風邪を引いてるから許されるのだろう……。そう自分に言い聞かせていた。
そんな時だった。突如として小原からLINEの通知が表示される。なんだろう?と思いながらトーク画面を開く。
『ゲームやれるくらいめっちゃくちゃ元気じゃねーか!! はよ学校こい!!』
というトークと共に動物が怒ったようなスタンプを送ってきていた。
「なんで知ってるんだよ……」
どこかに盗撮カメラでも置かれてるんじゃないか?と焦っていると、はっと思い出してゲームのプロフィール画面を開く。
「あーそうか……やっぱりか……」
最近のソシャゲーはログインしていると、フレンドにリアルタイムでオンライン表示がされるようになっているのだ。それを見て小原は俺がサボってゲームをしていると思ったんだろう。俺は早急にオンライン表示を隠し……。
『ちょっとログインしただけだ。もう寝る』
これでよし……。そうLINEをしてトーク画面を閉じて、ほっとため息を付き、またゲームの画面に戻ろうとすると、携帯の着信音と共に着信通知が表示される。
「父さんから??」
画面に表示されていたのは自分の父の名前だった。なんかろくでもない事を用件で電話をかけて来たんだろうな?と思いながらいやいや電話に出る。
「やっほー友太君風邪ひいたらしいけど大丈夫ー?」
「なんで知ってるんだよ」
「だってクレアちゃんから聞いたから……」
「そうなのか?」
「昨日の夜、クレアちゃんから大慌てでお前が倒れたって電話かかって来てさー、いろいろと教えてあげたんだよー」
「まじかよ……」
なるほど。倒れてからあんなに慌てていたのにとても用意周到だなと思っていたが、あれは父さんの入れ知恵だったかと納得する。
クレアだけではなく父にも迷惑をかけてしまったなと改めて心の中で反省をしていた。
「ところでクレアちゃんとの生活慣れた?」
「まだ1週間も経ってねえしまだ慣れないな……」
「そっかー……。クレアちゃん可愛いからって襲うなよ?」
「襲わねえよ、義理とはいえ妹だぞ?」
「そんなこといってー、本当の所は欲情してんじゃねーの?」
「男子高校生みたいなこと言ってくるな!!」
激昂しながら携帯の画面に向かって叫んだ。本当にこの父はもう50近いというのに気取った事を言う人だ……。
「まぁ兄弟同士付き合っても、俺は止めないけどな!」
「うるさい!!切るからな!?」
ムカついた俺は通話終了ボタンを押そうとすると、「待って、待って!!」と懇願する父の声が聞こえてきたのでもう少し聞いてやるかと思いしぶしぶ通話を続行する。
「なんだよ……。まだ何かあるんかよ?」
「植野ちゃんとは仲良くやってるか?」
唐突に真摯になった父の口から出てきた植野の単語に一瞬きょとんとなる。なんで今植野の話なんか……。
「まぁやってるよ……」
「植野ちゃんにはクレアの事話したのか?」
「まだだよ……」
そういえば植野にクレアが妹だって話そうと思っていたことがすっぽりと忘れていた事を思い出す。昨日からモヤモヤしていたものがようやく取れてスッキリだ。
「早く話しておいた方がいい。取り返しのつかないことになっても知らないぞ?」
「そんな大げさな……」
「だってお前の事をずっと思ってついて来てくれたんだろー? そんな奴に話さないのは意地悪だと思うぞ」
確かにそうか……と納得する。俺が突き放してもずっと嫌いにならずについて来てくれた植野。そんな幼馴染にクレアの事をずっと黙っているのはあまりにもひどすぎるよな……。
「わかったよ。早い目に話すよ」
「絶対それの方がいい。きっちり話しておけよ?」
とりあえずはまずクレアにお前が俺にやろうとしている事は黙っておいてくれと言っておかないとな。その後に明日にでも学校でクレアと一緒に植野と話を付けておこう……。
植野怒ったりしないかな……。まぁでも正直に話して隠していてごめんときっちり誤れば許してくれるだろう……。許してくれるよな……?
「あ、そうだ俺からも父さんに言う事があったわ」
「なんだ?」
俺はもう1つ忘れていたことを思い出す。
「クレアに俺の素性全部話したな?ほっといてくれって言ったのに……」
「だって、友達がいるとこみたいしー、ハー……レム……」
「は?あれ?」
急に父の声が遠くなったので携帯の画面を見ると電池切れのマークが表示されていた。そういえば昨日から充電をしていなかったか……。
「はぁ……」と深いため息をついて、机の上に置いてあったクレアのワイヤレス充電器の上にスマホを置いて布団にもぐり目をつぶった。
あの時の事は今でも鮮明に覚えている。たまにお前はあの時の事を後悔はしていないか?と聞かれる事があるが、俺は絶対にイエスと答えている。それくらい俺の決意は固かったのだ。
植野と話したのは、家の近くの公園だった。俺はそこに植野を呼び出してもう君は友達じゃないときっぱりと伝えた。
「ねぇ……それ本気で言ってるの?」
「ごめん……もう決めた事なんだ……」
不思議と罪悪感はなかった。ただただ植野と友達という関係を切りたいという感情の方が強かったのだ。
俺みたいな危険で怒ったら何をしでかすかわからない暴君と友達になっているより、もっといい奴がいるはずなんだと……。
「嫌だよ……。私久野原とずっと幼馴染で、友達でいたいのに……」
「俺みたいな悪者と仲良くしてたら植野も悪者にされちゃうよ?」
「それでもいい!!! だから……今の発言撤回して?」
一瞬植野の言葉に心が揺さぶられかけたが、何とか堪えた。こんな事で捻じ曲げたりはしない。
「撤回はしないよ。ごめん」
そう言った瞬間に植野の目から大粒の涙が零れて声を上げて泣きだしたかと思うと、俺の体を咄嗟にぎゅっと抱きしめた。
「嫌だよぉ……いかないで……私を一人にしないで……」
「何言ってんだよお前は……」
「嫌だぁ……。今の嘘だって言ってくれるまで離さない!!」
言葉の意味が全く分からなかった。別にお別れをするわけでも消えるわけでもないのに……。だけどその時の俺は考える事をせず、ただ植野からどうやって離れるかだけを考えていた。
かなり強い力でがっしりと抱きしめられていてなかなか抜け出せない。振り払えば植野に大けがをさせてしまうかもしれないとも思ったがそんな事は関係ない……。
俺は強い力で植野の体を振り払うと、その反動で植野は地面に転がりうずくまっていた。しまった!と思い「大丈夫?」と声をかけようかと思ったが、俺の足はいつの間にか俺は公園から逃げるように走っていた。
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