第35話

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「人間どもは 今年も無駄な運動会をやっておるのか」


 玉座の間で、四つん這いで石化した勇者に跨がる魔王テンダントという名の女。


「ハッ

そのようで………」


 配下の者が、そう答えると、


「退屈しのぎに 見物して来るかのぅ」


 いつもの、気まぐれが顔をのぞかせるテンダント。


「いえ

評定の時間でございます」


 あふれ出る魔力量と、興味本位で自国を拡大した魔王だが統治能力は少々劣っている。


「ちんは 退屈しのぎがしたいんぢゃ」


 物見遊山が、したいテンダント。


「ハッ !!」


 暴れてもらっても、困るので従う。


「では 留守はまかせたぞ

ノクターン」


 面倒を、押し付けられるノクターン。


「御意」


 片ヒザを、つくノクターン。

 つむじ風がおきて、姿を消すテンダント。


「やれやれ ワガママも極まったな

おっ どうしたマンクスベロ

玉座の間だぞ」


 立ち上がって、足音の方を振り返るノクターン。

 マンクスベロが、部下の兵と共に玉座の間に入って来る。


「この場で 我の軍門に下るか判断せよ

従徒7人衆は 我に味方した」


 マンクスベロは、魔王に反旗をひるがえして魔王の国を乗っ取ろうとしている。


「おのれ クーデターかッ

お前に 勝機なぞないぞマンクスベロ」


 説得する、ノクターンだが、


「さあ どうかな」


 右手を、ノクターンに向けるマンクスベロ。

 黒いエネルギーボールが、出現する。


「チッ」


 マントを、翻すと姿が消えるノクターン。


「追っ手を 送りますか」


 部下の者が、進言するが、


「いいや

捨て置け」


 そう言って、玉座に座るマンクスベロ。


「ハッ」


その頃


「ほほう

あいつが ケンイチロウか」


 上空から、トーナメント戦を眺めて頬杖をつくテンダント。


「報告によれば ライデンを持っているらしいが どう潰そうかな」


 いかに、卑劣な方法で屈辱的にケンイチロウを倒すか思案するテンダント。


「ヤツの 好きな女を使って混乱させよう」


 そう言うと、ケンイチロウが告白に失敗した南湖桃香を召喚し偶然見かけた悪役令嬢に転位させる。


「わっ

なにがおきたの ??」


 いきなり、異世界の悪役令嬢になってしまったナコ。

 多少、混乱している。


「トウカちゃんだっけ ??」


 ひきつった、笑顔で話すテンダント。


「はい

あなたは??」


 自分の、名前を知っている女に違和感を感じつつ聞くナコ。


「ちんの名はテンダント

魔王だ」


 ストレートに、名乗る魔王。


「魔王………

なにか 悪い夢でも見てるみたいね」


 少し、めまいがするナコ。


「お前は トーナメントで勝ち抜いてもらう」


 ケンイチロウと、ぶつけるように仕向けるテンダント。


「はぁ? なんでよ」


 どうも、わけがわからないナコ。


「ケンイチロウを 救いたいとは思わないか ??」


 なんとか、言いくるめようとする魔王。

 殺しあいを、見て楽しもうとしている。


「別に」


 あっさり、答えるナコ。


「え」


 肩透かしを、喰らうテンダント。


「それより ケンイチロウがいるのね」


 腕組みして、質問するナコ。


「そうだが」


 どうやら、まだガッカりするには早いと持ち直すテンダント。


「じゃあ 会わせてよ」


「もちろん そのつもりで転位させたのだから」


 そう言って、ケンイチロウのところへと移動しようとした時に、


「テンダント様」


 パッと、ノクターンがあらわれて片ヒザをつく。


「どうした ノクターン

今 めちゃくちゃ忙しいのだが」


 ワクワクが、止まらないテンダント。


「ご報告が」


「ええい

後にせい」


 少々、イラッとするテンダント。


「それが」


 食い下がるノクターン。


「なんだよぉ」


 両手を、上下させるテンダント。


「クーデターです」


「………なに

誰がおこした ??」


 信じられないという、顔をするテンダント。


「マンクスベロです」


「なぜ

アイツが そんな」


 かわいがっていた者に、転覆させられたとはにわかに信じたくないテンダント。


「従徒7人衆も 同調しているそうです」


 苦虫を、噛み潰したような表情をするノクターン。


「そんな バカな」


 声を、荒らげるテンダント。


「急いで お逃げ下さい」


 そう、進言するノクターンだが、


「いや 急いで玉座の間に戻るぞ」


「ハッ」


「あのー」


 空へ、浮かんだ2人を止めるナコ。


「ちょっと 待っておれ」


 そう、言い残すテンダント。


「はい」


 ナコを、おいて空へ飛び立つ。


ズシューーン


 突然、壁にぶつかる魔王。


「ガッ」


 おでこに、たんこぶが出来る。


「どうされたのですか ??」


 首を、かしげるノクターン。


「入れぬ」


 すねたように、言うテンダント。


「は ??」


 事態が、飲み込めないノクターン。


「結界を 突破出来ない」


「なんと」


 魔王が、戻って来れない結界を張ったようだ。


「クソックソッ」


 何度、体当たりしてもエネルギーボールをぶつけても通れない。


「だめです

目立ってしまうとマズい」


 一旦、引くように言うノクターン。


「チッ

作戦を練らねばな」


その頃


「ケンイチロウくん」


 歩き回って、ケンイチロウを泉のそばで見つけるナコ。


「あっ

悪役令嬢の」


 外見は、悪役令嬢。


「それがさー

わかんないかな ??」


 苦笑いするナコ。


「えっ ??」


 首を、かしげるケンイチロウ。


「ナコよ

南湖桃香」


 フルネームで、本人だと思うケンイチロウ。


「えっ

なんで ナコちゃんが」


 まぁ、ケイコもこっちに来てるから不思議ではないけど姿が全然違うから戸惑うよ。


「よく わかんないけど下校中に意識がなくなって

それより ケンイチロウくんは 2日も休んでなにしてるの ??」


 やっぱり、本人だね。


「えっ 2日? 1週間くらいここにいるよ」


 よく、わからないなぁ。


「ウソー

なんか あたしのせいで───」


「いたいた

ちょっと こっち来て」


 空から、2人降りて来て会話に割って入る。


「えっ

ちょっキャー」


 ナコっぽい悪役令嬢を、脇に抱える女。


「事情が変わったの

ちんと 入れ替わってもらうぞ」


 詳しい、説明を省く女。


「えっ

なんで キャー」


 森の中まで、連れて行くと姿を入れ替える。


「ふぅ………」


 額を、ぬぐう悪役令嬢。


「魔王テンダント

覚悟しろ~」


 マーブルが、魔王らしき目を回した女に掴みかかる。


「おい

なにを 血迷ったかっ」


 ノクターンが、マーブルの右手を掴むが、


「ノクターン

お前は 邪魔だ~ッ」


 至近距離で、エネルギーボールをぶつけると、


「ぐあっ」


 森の、木々をなぎ倒してふき飛ばされるノクターン。


「さてと

覚悟しろよ魔王~」


 魔王らしき女に、言うマーブル。


「あっ

あたし魔王じゃあない」


 意識を、とり戻して否定するナコ。


「黙ってろ~」


ブシュコ


 魔王の、首がゴロリと転がる。


「むごいな」


 様子を、見ていた悪役令嬢がつぶやく。


「お前~」


 女を、睨め付けるマーブル。


「悪役令嬢ですわ」


 ウソをつく女。


「なにも見ていない

そうだな~」


 大声を、出すマーブル。


「はい もちろん

マーブル様」


 つい、クチが滑る魔王。


「ん

初対面だよな~」


 なにかが、引っかかるマーブル。


「あっはい」


「まぁ イイや

それじゃあ~」


 横に、スライドして姿を消すマーブル。


「行ったか」


 ホッと、胸をなで下ろす魔王。


「魔王様」


 ノクターンは、かなりケガをしているが無事だ。


「ノクターン

なんとか マーブルを騙せたようだ」


 ニヤりと、不適な笑みをうかべる魔王。


「しかし 姿のみを 変えるとは

魔力探知されても大丈夫ですな」


 感嘆の、声をあげるノクターン。

 魔王から、感じる魔力は一般人並みだ。


「そ………

そうだな」


 汗が、ふき出す魔王。


「どうしたのですか ??」


 首を、かしげるノクターン。


「魔力も 移管するつもりだったのだが

うっかりしておった」


 凡ミスを、やらかした魔王。

 あせっていた。


「えっ」


「こやつを 蘇生して奪うしか」


 首の、落ちた死体を指差す。


「いえ

もうマーブルに膨大な魔力が移っている可能性が

それに これはもう蘇生は無理かと」


 首を、横に振るノクターン。


「えーーーッ」

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