第34話

ーー34ーーーーーーーーーーーーーーーー


『さて 次の試合は

黒魔導師とエルフの試合だーッ !!』


 審判兼司会者の男が、そう言うと、


ワーーーー


 迷いの森の、モンスターを退治したので徐々に観客数が増えている。


「さぁ 我々の番だな」


 目深に、かぶったフードからのぞく口元は妙にニヤケている。


「アタシ 黒魔導師なんか何人も倒してるからさ

あんたなんかコテンパンにのしてあげるわ」


 見下すように、黒魔導師を見るエルフのムアチャコだが、


「ほう

威勢だけはイイな

薬師とのバトルは 見ものだったぞ」


 肩を、細かく上下させながら笑いをこらえる黒魔導師。


「キィィィ

やっと記憶から消したのに 完全に思い出したじゃんかよぉーーー」


 壮絶な、バトルの記憶を魔法で抑えていたがなぜか無効になって思い起こされるムアチャコ。


「それはどうも

ちなみに 記憶を呼び覚ます魔法というのもわがはいは会得していてだな」


 あさっての方向を向き、ポロリと秘密を話す黒魔導師。


「使ったなあーーー

おのれぇぇぇ」


 ムアチャコの、指があやしく波打つように動く。

 それを、必死に押さえつける。


「おや

まだ試合のゴングは鳴っていませんよ」


 今度は、ムアチャコを見下すように見る黒魔導師。


「記憶を復活する攻撃しといて

卑怯だぞーッ」


 またしても、事前にハメられてしまうムアチャコ。


「さあ 存分に楽しみましょう

ハッハッハ」


 悪い顔をして、高笑いする黒魔導師。


『それでは試合を始めます

黒魔導師とエルフの2名は舞台上へ !!』


 審判兼司会者の男に、促されてズンズンと吊り橋をわたる黒魔導師。


「揺らすなぁ

又がすれるぅ」


 黒魔導師の、後ろをついて行くムアチャコが内股でソロリソロリと歩く。


「おっと

これは 失敬」


 そう、言いつつワザと揺らす黒魔導師。


『さあ それぞれ構えて

レディーゴーッ』


 審判兼司会者の男が、合図をおくる。


バーーン


「変なワザを かけられる前に こっちからいくわ

くらえーっ !!」


 背中から、弓矢を取り出して3本同時に発射すると誘導弾のようにターゲットである黒魔導師にめがけてメチャクチャに飛んで行く。


「はッ」


 魔法で、光の盾を出して3発とも防ぐ黒魔導師。


「なにぃ」


 いつもは、これで確実に殺していたのでビックリするムアチャコ。


「黒魔導師を 舐めてもらっては困る」


 ニヤリと、笑う黒魔導師。


「なんだと」


 また、矢を3本つがえ構えるムアチャコ。


「お主たちのフィールドならば 不意打ちの弓矢攻撃でも通るかも知れないが ここではそんな戦法は通じぬぞ」


 森の中とは、勝手が違うと指摘する黒魔導師。


「それなら 風魔法よ

くらえーーッ」


 両手を、横に広げ腰を落とし胸の前で両手をクロスする。


フィーーッ

ズバッ


 黒魔導師の、両サイドに真空域が発生して鋭い風が切り裂く。


「クッ

両サイドからの鎌イタチかッ」


 浅い、切り傷を両手に負う黒魔導師。


「どうよ !!」


「ハハハ

その程度の攻撃で わがはいに勝ったとでも ??」


 笑いが、止まらない黒魔導師。


「なにぃ !!」


 自身の、能力を否定されて怒るムアチャコ。


「では こちらからもいくぞ !!」


その頃


「パパ………」


 ヒザを、抱えて地面を見つめるベリルモート。


「どうした お嬢ちゃん

うかない顔して?」


 ヒョッコリあらわれた、ジョーカーが声をかけると、


「えっ………

お前は ジョーカー !!」


 振り返り、すぐ立ち上がるベリルモート。

 距離をとる。


「おう

オレの名前を 知ってくれてるとはうれしいね」


 首を、すくめるジョーカー。


「憎っくき男! パパの仇 !!」


 ジョーカーを、指差し罵るベリルモート。


「おっと

なにか勘違いしているようだね」


 ビックリしたように、両手の掌を出すジョーカー。


「なにがよ !!」


 拳を、震わせるベリルモート。


「どうしたのよ ベリルモート?」


 ベリルモートが、声を荒らげるのを聞いてパーティーメンバーが集まって来る。


「ジョーカー

あんたこんな子に なにしたのよ !!」


 ミテオナーが、叱責するように言うと、


「はあ? 勝手に因縁つけられて迷惑してんだよこっちは」


 言いがかりだと、シラを切るジョーカー。


「パパのこと 忘れたとは言わさないわ」


 興奮が、抑えられないベリルモート。


「誰だよぉそいつはよぉ ??」


 多少、イラッとするジョーカー。


「ロガールドザイモントだよ !!」


 父親の、名前を言うベリルモート。


「あぁ 覇王ね

ってことは 覇王の娘か !!」


 娘が、いたとは知らなかったジョーカー。


「ねぇ

ミテオナーさん」


 色々、疑問が出てきてミテオナーに聞くボク。


「なに

ケンイチロウ ??」


 なぜか、ソワソワしているミテオナー。


「覇王って 王様なんですか ??」


 王って、言うならすごい地位だよね。


「うん

魔王に 奪われた国の中では 最大の国を統べる王だったの」


 つまり、奪われた4つの国で一番大きな国家の王だったんだね。


「そっか

それで 覇王なんだね」


 やっぱり、覇王を倒した魔王には会いたくない。


「この地で 再起を願っていたパパから すべてを奪い去ったジョーカー

貴様だけは ゆるさない !!」


 この、小国でリベンジを狙っていたんだね。


「すべてだと? ふざけるな !!」


 突如、大声を出すジョーカー。


「ヒッ」


 たじろぐベリルモート。


「ファィヤーレッドドラゴンのジュレルを奪う算段だったのに なんでケンイチロウが持ってやがるんだ !!」


 怒りの、矛先をボクに向けて来るジョーカー。


「えっ!?」


 なに ??

 なんで、怒られてるのボク。


「やい ケンイチロウ

そのジュレル どこで入手した ??」


 すごい、剣幕で怒鳴るジョーカー。


「えっ

見つけたんだよ」


 素直に、答えるボク。


「どこで !?」


 ちょっと、落ち着いてよ。


「洞窟の中………

もしかして あの死体の山に覇王が」


 ハッとするボク。

 それで、ベリルモートは悲しそうに死体を見ていたんだ。


「そうよ」


 うつむき、肩を落とすベリルモート。


「まさか………」


 どうりで、ベリルモートはすぐ自分の武器を手に戦うことが出来たんだね。


「パパは ジョーカーに負けてすぐあたしいにジュレルを渡して隠れるように言った」


 どうやら、ジョーカーだけにはジュレルを渡したくなかったみたいだね。


「どうして」


 ミテオナーが、やさしく問いかける。


「ジョーカーは 奪える相手にはとことんしゃぶりつくす人間だと知っていたから」


 ジョーカーの、野蛮さに気がついていたみたい。


「それでキミに」


 ボクが、聞くと、


「うん

案の定 すべてを奪われたパパは再びレッドドラゴンのジュレルを手に ジョーカーに復讐する為に立ち上がった」


 一時的に、あずけると奪われずに済むのかな。


「それで迷いの森のモンスターに食べられたんだね」


 なんだか、かわいそ過ぎるよ。

 丸腰で、倒せるモンスターじゃあないし。


「そうなの

だから ジョーカー 絶対にゆるさない」


 ジョーカーを、睨め付けるベリルモート。


「おい冷静に考えてよ

迷いの森に入ったのが よくないだろ」


 鼻で、笑いながらベリルモートを見下ろすジョーカー。


「問答無用よ

ケンイチロウ! ジョーカーをやっつけて !!」


 こっちに、話をふるベリルモート。


「うん

でも トーナメントは………」


 よくわからないけど、戦ってイイの?


「そんなのどうだってイイの !!」


 地団駄を、ふむベリルモート。


「そんな めちゃくちゃな」


 どうしたらイイのか、迷っていると、


『あのー』


 審判兼司会者の男が、試合そっちのけで声を飛ばして来る。


「あっ

どうしました ??」


 えー、こんなことってアリなの?


『選手同士の 場外での乱闘は場外と見なす場合もありますので最悪2名は失格扱いになりますので他所でやって下さーい』


 冷静に、ルールの説明を入れる審判兼司会者の男。

 けっこう、周りを見ているんだな。


「そ………

そうなんだね」


 いきなり、参加させられて以来そんなルールは聞いてなかったよ。

 チラッと、ミテオナーを見る。


「チッ

ジュレルを2つ奪えるチャンスだったのによォ」


 思い切り、悪態をつくジョーカー。


「残念でしたー

ケンイチロウに手を出した時点で ワタシがゆるさないから」


 ミテオナーが、指を鳴らして苦笑いする。


「はーコワ」

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